第91話 帰還
ルイスはとある中級階級の家に生まれた。
その家では、みんな仲良く暮らしていた。
楽しく一緒に。しかし、ある日にそれは変わった。
ルイス達の住む家が魔物の襲撃にあったのだ。
その魔物の襲撃により、ルイスの家族はルイスを除きみな等しく死に追いやられた。
その日に死にたくないと言いながら魔物に殺された弟のことを忘れない。
顔が裂かれ、見るも無残な姿で殺された妹を忘れない。
自分をかばって殺された父親のことを忘れない。
怯えるルイスに逃げろと言ってくれた母親のことを忘れない。
いつしか魔物に対する復讐心が、ルイスの人格のほとんどすべてを形成するようになった。
そこから、個人で魔物に対する力をつけ始めた。
魔力を自分独自の方法で剣の力に応用するすべを手に入れた。
そして個人で魔物を討伐していった。
しかし、魔物は全滅などしないことを知った。
魔物は魔王の魔力が途絶えない限りどんどんと増え続ける。
いくら魔物を買っていったとしても、そ
それは言って行ってだ。
そんな現状にルイスはだんだんとイライラし始めた。そして、こんな現状を打破する術を探った。
そこで、魔王の復活させる方法を知った。魔王の復活が近いことを知った。
あくまで信憑性の薄い説ではあるが、魔王が復活するという情報だ。
それを知ってルイスは魔王を復活させない方法を探るのではなく、魔王を復活させ、消滅させる方法を探った。
魔王を今度こそ、勇者ですら出来なかった完全消滅を成すために。
「それが、今の俺だ」
ルイスの話を聞いてもなおすっきりとはしなかったが、魔物をこの世から消すという野望は見えた。
その中で派手に動いて、戦力を失ったのは認められないが。
魔王がどうせ復活すると分かっていたならば、魔王が復活するタイミングでやればいいのに。
しかもゲルドグリスティの時には何も手を貸してくれなかったではないか。
納得は出来ない。しかし、飲み込むしかないという事も分かっている。
どうしようもないクズでも、魔王討伐には必要な戦力だという事は分かっているから。
「俺には手が残っている。完成体に関するデータは持っているんだ。それで、完成体にさえなれば」
「無理だよ」
ミコトが言う。
「ロランさんと違って、ルイスさんはそんな力が無いと思う」
ミコトがはっきりと言い放つ。
「そうか、やはりな」
そう言ってルイスはがっくりと肩を落とした。
「だが、俺があそこで送り出した人員は全員ではない。
あそこにいる沢山の人が命を落としただろうが、あれは俺の全戦力ではない。まだ戦えるはずだ」
「ギルド長」
ルベンが言う。
「あの戦いでギルドの人員も多数死んでます。それも、仕方のない事なのですか?」
ギルドのメンバーは駆り出されたに過ぎないのだ。
「ああ、仕方のないことだ」
ルベンは唇をかんだ。
レナードも戻っては来ていない。その状況でそんなことを言われて怒りがわいてこないわけがないだろう。
ルベンはこぶしを握り締めた。
だが、それはルイスではなく、地面に向かった。
「俺は認めない」
そう一言吐き捨て、ルベンは地面にどさっと座った。
ルベンにもやりきれない気持ちはある。しかし、ここでルイスを殴っても無駄な体力を消費するだけだ。ルベンはそれを分かっているからこそ、手を出さないのだ。
「それでこれからどうするの?」
「組織の本部に行く。着いて来てもらおうか」
「っ」
組織の本部。そんなところには行きたくない。
何しろあの場所は――ユウナのいた場所ではないが――トラウマに満ち溢れた場所なのだから。
「そこへは俺が行く。ユウナとミコトは、国に戻って剣聖や、アーノルドにこの情報を伝えてきてくれ」
それも大事だ。
何しろ、国はその事実を知らない可能性が高い。
急な危機に巻き込まれ、対処ができない可能性もある。
祖国へと戻るのだ。
そこで、危機を伝え戦力を終結させる必要性がある。
「そこには俺もついて行く」
ルベンもうなずいた。
「そうだ、一つ忘れていた。ミアを回収せねばならん」
「分かった」
戻るにはもう一度樹海を通る必要がある。
が、そこのドラゴンはもう滅ぼしたはずだ。
だが、その樹海にはもうドラゴンはいない。
しかし、魔物達は明らかに強化をされていた。
「早速お出ましか」
ルベンは呟く。
行きもいた蜘蛛だ。全長二メートル。行きにいた個体よりもはるかにでかい。
「私がやる」
ユウナは手に岩を集める。
「炎はだめでしょ? なら、同じ戦い方をするしかないよね」
「ルベンさん」
「ああ」
そしてルベンは蜘蛛の前に出る。
まったく同じ戦い方だ。蜘蛛が多きkなっていても、あの時よりも力は上だ。
ミアはいないけれど(行きもいなかった)
でも、十分に勝てる。
ユウナは岩を使い、その蜘蛛の腹に思い切りぶちまけた。
その岩の火力で蜘蛛は怯んだ。しかし、致命傷はなっていない。
が、
「うおおおお」
蜘蛛の動きを鈍らせ、ルベンが一気に蜘蛛の腹を裂く。
ルベンが動けばユウナもだ。
魔法の疲労など無かったかのように炎を纏った剣で一気に蜘蛛の手をもぎ取る。
そのまま抵抗する暇もないくらいの速さで、蜘蛛を駆って行った。
蜘蛛を刈り取れば他にユウナたちに敵う魔物もいない。
そのままユウナたちは樹海を抜けて行った。
「ふう」
ユウナは息を吐く。
「王城についたね」
そう、ミコトが元気よく言う。
前に訪れた時はミコトは元気がなかった。国に対しての信頼がなかった。
しかし今は元気に王城を見ている。それがユウナにとって少しうれしいなと思える。
「うん、じゃあさっそく中に入って行こう」
「そうだね」
「いや、待ってくれ」
ルベンがそう叫ぶ。
「ルイスの造反については説明をするか?」
「説明をするでしょ」
ユウナは言った。
「私はルイスのことは許せない。あいつの行動は全て悪手だと思ってるから」
ユウナは拳を握り締め言った。
「ルベンさんが許しても、私は許そうとは思わない」
「お姉ちゃん」ミコトがユウナの手をポンポンと触る。
「私も許せないけど、今は共闘しなきゃいけないと思うの。だから、私は……」
ミコトは涙をぬぐいながら言った。
罪に関しては後にだんきゅせねばならない。しかしギルド長のルイスという立場は失わせてはいけないのだ。
「分かった。今は黙っておこう」
「うん」
「それでだが俺はギルドの方へと行こうと思ってる。それでいいか?」
「うん、ルベンさんにはそっとの方が大事だもんね」
今はギルド長であるルイスがいない。そこを説明する必要もあるのだ。
そしてルベンに別れを告げ、二人で王城の中へと入っていく。




