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完成体少女  作者: 有原優


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第九十話 魔王復活

 その40分後、魔王の封印が解かれ始めた。一時間ごと言ったのに、想定以上に早すぎる。


 その瞬間、地響きがする。


「何これ」


 ユウナは叫ぶ。地面は揺れ、風は吹き荒れ、そして外から雷鳴の音がする。

 嵐と自信が当時に来ているのだ。


「ふふふ、ははははは」


 ルイスが盛大に喜ぶ。喜びに満ち溢れているようだ。

 どちらにしても今危険な場所であることは変わりない。

 ルイスの力を借りれる。それは大きいことだ。


 ルイスには少なくとも剣聖レベルの力は宿している。

 だが、それでもこの不気味なオーラ。本当に倒せるのか不安になってくる。

 ロランはもういない。ケンセイやアーノルドもこの場には存在しない。


 そうなれば戦力は足りない。

 ミアもいないのだ。


「魔王様」


 魔王軍総帥が言う。


「よくぞこの場においでになりました」

「どうやって我を復活させたのだ?」


 身長おおよそ2メートルはあろう長身が言う。魔王の体は真っ暗で、まさに世界のすべてを押しつぶそうという、恐ろしいオーラを纏っている。


「それは、我々が世界のバランスを崩したのです。世界の本来あるべき姿。それを改変し、戦争を起こさせ、多数の強者の使者を出しました。例えばリンド、ヒョウギリ、ロラン、ユキヤ、ミドレムなど。そのエネルギーが集まり魔王様を復活させたのです」


 という事はつまり、ユキヤを倒したのがとどめになったという事。そして、魔王の復活が少し早まったのは、ルイスが味方を倒していたというのもそういう事。


 ルイスもまた魔王軍復活のために尽力していたという事なのだろうか。


「さて?」


 魔王はユウナの方を見る。


「あの小娘を復活の手土産として殺してやろう」


 その瞬間、闇の光線が一瞬でユウナの心臓をえぐり取った。

 その光線は攻撃の予備動作もなく、ユウナを貫いた。

 ユウナは「え?」と驚く暇もなく、他の人が助けに入る暇もなく貫かれたのだ。


「化け物が」


 ルイスは叫んだ。


「だが、それでいい。お前は俺がここで一思いに殺してやる」


 そう言ってルイスは剣を持ち、一瞬の動きで魔王を切り裂いた。


 その間に、ミコトはユウナに回復魔法をかける。


「痛くもかゆくもないなあ」


 そう言った魔王は一気に地面を踏みしめる。その瞬間建物に亀裂が入り、そのまま倒壊した。


 その建物の崩壊に合わせて、ルイスの叫びが聞こえた。

 建物の倒壊により視界がクリアではない。

 何が怒ってるのか、ミコトやウェルツにはわからない。

 しかし――


 視界が開かれた時、ルイスの体は剣で刺されているのが見えた。

 ルイス自身の剣だ。


「っくそが」


 ルイスはそのまま地面に落ちていく。

 ルベンが、ルイスのもとに走っていく。


「ギルド長」


 ルベンがその体を、地面に落ちる前に見事にキャッチした。


「化け物だな」


 ウェルツは再び言う。


 これだけの力を有していながら、まだ寝起きも同様な状況なのだから末恐ろしい。


「ミコト」

「お姉ちゃんの回復にはもう少しかかりそう。それに」


 ミコトは魔王を見る。

 ユウナを回復させたとして、魔王にかなう戦力があるのか。ルイスでさえかなわなかったのだ。

 ここは、ここで取るべき点は一つ。

 撤退しかない。



「副ギルド長」

「ああ、分かっている」


 そして三人はその場を後にした。そして、組織の人員は魔王に焼かれている姿を見ながら。

 哀れな事だ。ボスの本当の目的も知らないのだから。


 そして近くの村に落ち着く形となった。

 なぜ逃げ切れたのかは分からない。

 恐らくは取るに足らない敵とでも認識されたのだろう。興味を失った、そのような感じだった。




 ベッドにはユウナとルイスが寝かされている。

 良く逃げられたものだ。いや、あえて逃がされたのかもしれない。

 逃げ切れたとて、状況は何も好転していない。

 いや、最悪と言っても過言ではない。


「なんでこんな化け物を復活させたんですか。ギルド長」


 ルベンは傷ついたルイスの前でそう呟く。

 ルイスの本当の目的、それはまさに魔王復活だったが、まさか魔王がここまで強いとは夢にも思っていなかった感じなのだろうか。

 その場には重苦しい空気が流れる。


 そしてしばらく経ち、ルイスの体が回復した。


「貴方のせいだよ」


 ユウナはルイスに対し言った。

 今回の件は、ルイスが起こしたこと。

 世界平和を目指したのならおかしい話だ。


 魔王はかつて勇者が命を懸け、封印した。

 それをわざわざ復活させることなど、悪手ではないか。

 勇者の功績をすべて無駄と化しているのだ。


「俺には、まだ手が」


 そうほざくルイス。その姿を見て、ユウナはそっと唇をかむ。

 ルイスは弱り切っているように見える。しかしその目に宿る眼光は衰えてなどいない。


「策なんて馬鹿言わないでよ」


 ユウナはルイスに向かってそう怒鳴る。


「こんな状況を生み出したのは、貴方のせい。まだ策がってことは一個目の策はついえたってことなんでしょ?」


 まだ、という事は策が一つしか残って猪井という事。

 それはつまり、ほぼ方策無しで魔王を復活させに動いたという事。

 本来、魔王復活をして、それを滅ぼすという目的に向かって進んでいた場合、そのために魔王討伐のための策を少なくとも一〇個くらいは考えておくべきだ。


 つまりルイスは何も考えないで、魔王を復活させたという事。

 ウェルツから聞いていた話では、勇者が命を賭して倒したという事なのに。



「ふざけないでよ」


 ユウナはルイスの頬をはたく。


「あのまま魔王を復活させない方がよかったでしょ。いくら魔物が躍動してても、魔王は復活させたら行けなかったんじゃないの?」


 しかも、復活条件が、強者が死ぬこと。

 それを目指して魔王軍が戦争を仕掛けていたという事は理にかなっている。

 しかし、組織も戦争を仕掛け、様々な強い猛者たちを亡き者にしてきた。

 そんなの、どう考えても悪手。

 ユウナはその行動を認めたくない。


 確かに魔王の魔力の残滓の影響で魔物が活性化している。



 それを排除してこそ世界の平和を取り戻したいという気持ちは分かる。しかし、それで世界の危機を招いでは元も子もない。


「私は貴方を許せない」

「俺は……」

「やめないか」


 ウェルツがもう一発叩こうとしてたユウナの手を掴む。


「今ここで論争しても意味がないだろ。問題はここからだ」

「ウェルツさんは元上司だからそう思ったんでしょ?」

「いや、俺が悪い」


 ルイスは素直に自分の非を認めた。


「俺は魔王復活のリスクは考えていた。しかし、魔王は予想以上に強かった」

「うん」

「俺が魔王を復活させようとしたのには理由があるんだ。それをまず聞いてもらいたい」

「そんな時間あるの?」


 なぜそんな話を聞かなければならないのか。


「少しの時間で済む。それにこれから俺たちはともに協力しなければならない立場だからだ」


 ユウナは二人の顔を交互に見た。

 そして、仕方ないとばかりに頷いた。

 ミコトがじっとユウナを見ていたのだ。


 ミコトがそう思うのなら、聞くべきなのだろう。

 本当に短時間で終わるのならば。

 そして、ルイスの話が始まって行く。

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