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完成体少女  作者: 有原優


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第八十八話 襲撃

 ギルドの人員と組織の人材は皆魔王軍のアジトと思わしき場所に向かっている。


 ユウナはその光景を見ながら、物陰に隠れている。魔物のアジトと思われる洞穴の前で。



 ルベンに、そっと魔法具を付けていた。それで、中の光景を見れる。

 中でいかにボスとルイスはどんな行動を起こすのか。


 ユウナはそっと、中の光景を見る。

 いざという時に行動が出来るように。


「ユウナ」


 ユウナにウェルツが話しかける。


「いざという時には助けに向かうという事だが、」

「うん」

「あまりに危険すぎた場合、助けに入らないで、見捨てるという選択も可能なことを忘れるなよ。俺たちもミアを欠けているんだ」

「分かってる。私だってみすみす犬死するつもりはないし」


 とはいえ、できるなら助けたいところだ。

 ルベンとリンド。少なくともユウナには知ってる人物が二人もいる。


 ここは命を賭してでも助けたい。


 そして物語は中の様子へと移る。


 そこにはユウナの予想とは裏腹に、魔物達がいた。それもみんな魔王軍にいる。


 しかも全員本物だ。罠ではなかったのだ。


「皆、俺が命じる。全て掃討してくれ」

「私が命じる。全部滅ぼせ」


 二人の指揮官は命令する。

 その命令に従い、それぞれの兵士たちが敵を倒していく。

 その勢いは頼もしいばかりだ。


 ユウナたちは映像で見て妙だと思った。明らかに順調すぎる。



 今まで誰にも見つかっていなかった本拠地があまりにもあっさりと崩れて行っているのだ。

 前のゲルドグリスティみたいに、遠征している可能性もある。

 ここはただの支部の可能性もある。

 しかし、順調すぎる。


 何か罠でもあるかのように。


「おかしいな。二人とも攻めが強引過ぎる」


 ウェルツはそう呟く。


「ギルド長はともかく、ボスがこんなリスクも考えないとは思えん。あの人は冷静で、全てのリスクを考えながら攻めていく、戦略家だ」


 組織にいたことのあるウェルツにはボスの思考がよくわかる。


「敢えて、ギルドと魔物達を挟み撃ちにして、その隙に組織は撤退するという戦略なのかもしれん」

「それだったら早く攻めないと、だけど」

「ああ、それだけではいけない。何しろ、出口封鎖なんてされたらギルドは全滅だ」

「なら、なおさら私達で、その対策をしないとね」


 だけど、ウェルツにはやはり引っかかる。

 ルイスは何を考えているのか。

 もしかしたら、手を組んでいる可能性があるかもしれないという事だ。



 その瞬間大きな爆発が起きた。

 前方にいた兵士たちが爆発したのだ。


「これは」


 ウェルツは呟く。

 これは罠にひっかったのだ。前方の兵士たちが。

 しかもその兵士たちは主にギルド側だ。

 死体が沢山倒れている。


「やはり罠か」

「そうみたいだね」

「助けに入ったらだめなの?」


 今日初めてミコトが口を開いた。その言葉に対して、「だめ」

 そうユウナが口を開いた。


 まだ、まだまだ早い。

 それ早すぎる。


 イングリティアの兵士たちに助けを求めたらよかったのかと思うが、今そんなことを考えても仕方がない。

 戦況は魔王軍がひっくり返った。

 どうやら、魔王軍の幹部らしき人物が出て来たらしい。


「俺は、ここを守護するもの。ここは通させん」


 名はヴィディオ。逞しさに溢れる筋力を持つ実力者だ。

 彼は強い口調で言った。

 しかしやはり思うところはある。


「俺が出る」


 ルイスが前に飛び出し剣をふるう。

 互角の熱戦を互いに振る舞う。

 その間にボスが「感謝する」といって攻めていく。

 こんなので、行けるのか。

 こんなもので、崩せるのか。


 何か不吉な気配がする。


 ルイスとヴィディオは互角にやりあっている。しかし、ルイスが少し不利なようだ。


 ユウナはそれをはらはらしながら見ている。


「やあ、魔王軍総帥」


 ボスがそう呟いた。

 そこにいたのは、フードを被ったヴィディオ。人間だ。


「我を倒しに来たか」


 フードを脱いだヴィディオ。その体は深い羽毛に覆われており、その肌の色は緑色だ。

 愛でじろっとにらむ。


「我は、ここで魔王様復活の準備を整えてきた」


「その準備が間もなく整うと、奴から聞いた」

「あいつか。情報を吐き負って。まあいい、復活まではまだ少し時間がある。ここで、我も、倒さなくてはな」

「いや、違う」


 だが、その言葉をボスが遮る。


「私は、復活阻止を目的としてここにきていない」

「何?」

「私がここに来た理由は一つだけ。手を組まないか?」

「お前は何を言っているんだ? お前は人間だろ?」

「そうだ。だが、俺の目的は一つだけだ」

「なにだ?」

「私は、俺はただ、魔王を完全に滅ぼしたいんだ」


 ボスは、そう呟いた。

 魔王が封印されていては危険が生じる。復活直後に一気に魔王を滅ぼす。それがボスの目的だ。


「手を組むとは言えないな。我の目的は魔王様率いる最強の軍団を作る事。貴様の目的とは何も一致しない」

「いや、一致する。魔王を復活させるまではな」

「ふむ。我がそれに頷くとでも思っているのか?」

「いや、思っている。復活までにかかる時間は一時間という感じか。一時間、短いようで長い」

「何が言いたい」

「簡単だ。もしあそこで、俺の分体が軍を引きとどめれば、なだれ込むことはない」

「軍は雪崩込むのを止めるという事か」

「ああ」

「脅しだな」

「何と思ってくれても結構だ」


 魔王軍の主は考え、「分かった。取引に応じよう」

 そう言った。





 魔王軍のヴィディオと戦っていたルイス。

 互角の戦いを演じていたが、ヴィディオが急に「どうぞ」道を開けた。


 その光景を見ていたユウナには疑問に思った。

 なぜ、ここで仲良くなったのかと。


「感謝する」ルイスはどんどんと中へと入っていく。



「私たちも行こう」


 それを見たユウナはウェルツに言った。


「おい」


 ウェルツはユウナを止めようとする、が。


「大丈夫。これは罠じゃないよ」


 ユウナはそう笑顔で言った。


「本当にお姉ちゃん大丈夫?」

「絶対大丈夫。それよりも悪い胸騒ぎがする」

「それは私もだよ」



 奥に向かって行くルイス。

 そして彼は叫ぶ。


「俺はやはり組織の人物は一網打尽にすることに決めた」


 そう言った。


「それはどういう事だ?」


 その場にいた、ジェラスが訊く。

 組織の人間だ。


「こういう事だよ」


 ジェラスに向かってルイスは剣を交える。

 そして互角の戦いを生み出し、両者一歩も引かない。

 そこに、他の剣士たちも向ってくる。


 ルイス対多数だ。


「どういう事だ」


 ルベンはその場で固まっている。


「今日のギルド長はおかしい」


 その言葉に隣にいたレナードもうなずく。


「あの人はそう言う人じゃない」


 ルベンとルイスが出会ったのは約七年前だ。

 その時ギルドの新人として加入したルイスは破竹の勢いでランクを上げると、そのまま、当時Sランクだったルベンとほんの二年で追いついた。


 そこから、ルイスはギルド長の引退を機に、その役職を引き継ぎ、ルベンは副ギルド長になった。

 そこから、ルイスが持ち場を離れることが多かったため、実質的にルベンがトップみたいな状況が続いたが、それでもルイスは国を守るため様々な任務をこなしていた。


 サボっていたわけではないのだ。

 しかし、今日のルイスはどうだ、言ってることがちぐはぐすぎる。

 まるで何者かに乗っ取られたかのように。


 しかも、ルイスのその姿は、組織に奥の扉をけ破られないため、そう思ってしまう。


 となると、今のルイスはもしや魔王軍の味方?

 もはやルベンには何が何だかわからない。


 そんな時、爆音が聴こえた。


「お前はここから通さない」


 そうヴィディオが言った。

 その面前にはユウナ。


「私にはここを通らなきゃいけないの」


 そう言ったユウナは早速炎の球を勢いよく発射する。


「むう」


 ヴィディオはそれをその怪力で押しつぶす。


「熱くないの?」

「これくらいの熱。大したことはない」


 魔法を打ち消す圧倒的な怪力。

 まるでラパルディアで戦ったドラゴンみたいだ。


 あのドラゴンは氷に弱かった。なら、


「アイス!」


 一気に足場を凍らせ、そのまま体をどんどんと凍りつけにしていく。

 そしてあっという間にヴィディオの体は氷状の幕に覆われた。


 ピキッ


 すぐに氷にひびが入り、中からヴィディオが現れた。


「嘘」


 そのままの勢いでユウナに突進してくるヴィディオ。


「させねえ」



 その突進をぎりぎりでウェルツが受け止め――吹き飛ばされた。


「回復します」


 そう言ったミコトがウェルツのもとに走りゆき、回復させる。


「まいったな」


 ウェルツは呟く。


「まずこいつを倒さなければならないのか」


 あの時のルイス達は、恐らくは何かしらの取引によってこのヴィディオを突破で来た。

 しかし、今のこのヴィディオは鉄壁だ。


 こいつを倒しきるには方法は一つ圧倒的な火力で倒しきることだ。


「私なら」


 そして、ユウナは必死に魔力を貯め始める。


「何をしている」


 ヴィディオはユウナの方にかけていく。ユウナはその攻撃をゆらりゆらりとかわす。

 だが、全て間一髪だ。少しでも避けミスったら、その時ユウナの命はないだろう。


「うわあ」


 だが、最後の最後でユウナは被弾してしまった。


「無駄だ。損な小細工してもな」


 もう少し、時間を稼げたら魔力も溜められ、一撃でほうむれるくらいの火力が出るというのに。

 時間が無いのに、決定打を与えられないそんな時間にユウナは霹靂とする。


「俺が出る」


 ウェルツがそう言って一気に前に飛び出る。

 そのまま果敢にヴィディオに斬りかかる。


「無駄だというのが分からんか」


 見事に、剣で防がれる。


「これで終わらない」


 ウェルツは尚も斬りかかる。


 ウェルツの剣も凄まじい勢いだが、それらすべてを防いでもなお、ヴィディオにはウェルツに一撃を加える余裕がある。

 傍目には互角、に近い戦いに見える。しかし、その戦いの中で、ウェルツの体力は削れていく。ミコトの援護があってもだ。

 だが、ウェルツはぎりぎりになっても踏ん張り消して倒れない。背後で作り上げられている、ユウナの魔法が完成するまでは。


「流石にいい加減にしろ」


 ユウナの魔法が見えているからか、焦りが見え始める。

 攻撃が段々と雑に案ってくる。ウェルツは、目をしっかり凝らし、隙を探る。

 そして、一瞬の隙を見つけた。


「ここか」


 ウェルツはそう呟き、一気に斬り込みに入る。

 その攻撃は、ヴィディオの体を軽く揺らす。


 そしてそのタイミングだった、ユウナの魔法弾が完成したのは。


「やってやれ」


 ウェルツのその言葉に、ユウナは「うん」と頷き、魔法弾が発射される。

 かつてはマイルツをも吹っ飛ばしたその火力。それがヴィディオに向かって行く。


 その攻撃にヴィディオは避けれず喰らう。

 その火の玉はヴィディオを包み込んで、そして破裂した。


「やった?」


 ユウナがそう呟いた瞬間口を閉じる。


 目の前のヴィディオは、ぎりぎりで体を保っていたからだ。


 ユウナは再び身構える。

 だが、


「行け」


 ヴィディオは案外拍子抜けなことを言うものだからユウナから「へ」と拍子抜けな言葉が出てしまう。


「流石に、これでは満足には戦えん。ここで命を落とすよりも、貴様らに先に行かせるのが得策だと判断した」

「そう」


 ユウナは呟き


「じゃあありがたく行かせてもらうね」


 そう言ってユウナたちは奥へと進んでいく。


「お姉ちゃん、ここからが本番だと、思うよ」

「分かってる」



 あくまでも前座。戦いの本番はこれからなのだ。


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