第八十七話 思考
そして、部屋に戻ることになった。
「本当に行くしかないのかなあ」
ユウナはそう小さく呟く。
「魔王軍のあれか?」
「うん。あれ、やっぱり怪しいなあって」
「そう思うのも無理はない」
「だよね」
「俺はボスのことをよく知っている。あの感じ、すんなりいくとは思わないんだよな」
「あとは、ミアちゃんのことだよね」
ミアは今も拘束されている。
拘束から外したら、即座に獣になってしまう。
「問題は山積みだね。そんな中、二日後に襲撃って」
あまりにも無茶過ぎる。
明らかに死にに行くようなものだ。
「今の私達って、ギルドじゃなくて、国の命令で行ってるんだよね」
「そうだなってまさか」
「じゃあ、行かなくてもよくない?」
別に、今上の立場にいる人が違う。
ルイスの命令を聞く義務なんてない。
それも、死にに行けなどと思われるようなことを。
「まあでも、行くしかないよね」
だが、それを飲み込んだうえで、ユウナはそう言った。
「その心は?」
「んーと、なんとなくだけど、行った方がいいかなって」
でも、と前置きして。
「同行はしたくない。何かあってから自由に動きたいし」
「罠だと判明してから動くという事か」
「うん、そう」
これからの戦闘ではミアというカードは切れなくなる。
依然として今回の事件で失ったカードは多い。
「私はさ、魔王軍もむかつくけど、組織が一番むかつくんだよね」
「それは知ってる」
「だからこそ、私は出来ればどちらも殺したい」
「ぶっ応なこと言うな」
「だってそうでしょ。私は魔王軍と組織、どっちも等しく許せない存在なんだもん」
ユウナにとって宿敵ともいえる存在、組織。
それを許せるような道理などどこにも無い。
「私が望むのはさ、共倒れなんだよね」
「組織と魔王軍のか?」
それにユウナはただ頷く。
「私は、許せないもん。どっちも」
ユウナは怒りをあらわにするように拳を握り締めた。
「お姉ちゃん」
そんなユウナに、部屋の隅でそっと座っていたミコトがユウナに話しかける。
「私は、お姉ちゃんの言ってることは正しいと思うけど、そんな怖い顔見たくないよ。あまり憎しみに心を捕われてほしくないもん」
そう、ミコトがユウナの顔をじっと見て行った。
泣きそうな顔、ではない。ただ、真剣に、そうユウナに語り掛けていた。
「大丈夫。私は決して、憎しみだけに心を捕われたくなないんだから」
ユウナは笑顔で答えた。
「私は冷静に、負けないように頑張るよ」
そしてユウナは決意を固めた。
三日後の、魔王軍襲撃に向けて。




