第八十五話 決着
「ルイスか。私はお前を殺さなければいけないようだ」
「分かっている」
ヒョウギリが氷の壁を生み出す。
その影響でルイスの周りは氷で包まれた。
「その程度か」
ルイスはそう叫ぶと、ひと思いにヒョウギリへと斬りかかる。
「ヒョウギリ。確かに強力な剣士だ。だが、生前に比べてはるかに弱い。その程度ではこの首は落とせんぞ」
ルイスとヒョウギリは直接戦ったことはない。が、ルイスは知っている。ヒョウギリの実力がこんなものではないという事を。
あのロランを何度も追い詰め、戦場でも大立ち回りを見せたとされるヒョウギリがこの程度の実力なわけがない。
「ならこいつらはどうでしょう」
それは組織所属の人たちだ。
「甘いな。全て計画の内だ。そいつらは死人。殺したところで今の私の心が痛むわけがない」
いくら数を束ね、罪悪感を刺激しようとしたのだろうが、これらの連中を殺しても、心は何ら痛まない。
ルイスは剣で、八つ裂きにしていく。
多少強い程度では無意味なのだ。
ルイスの命を脅かすこともできない。
「やれやれ、私はさっさと貴様の命を奪いたいところなんだがな」
そう言ってルイスは一気にラグナラッシュと斬りかかっていく。
「わしが死なない限り、大丈夫じゃ」
そう言ってすーと、外への抜け道を進んでいくラグナラッシュ。そしてその道を塞ぐために、死者たちが道を塞ぐ。
「なんて非人道的なんだ」
「貴方が言える立場かな」
剣がぶつかり合う。
その敵たちをいともたやすく切り伏せるルイス。
だが中々進みきれない。その原因はやはり数だ。
いくらルイスが強いとはいえ、一人で百もの精兵たちを倒せるわけがないのだ。
「私だって暇じゃないんだ」
やらなければならないことはいくつもある。
他の戦場に行かなくてはならないのだ。
王宮へと。
「だから、お前はさっさと仕留めさせてもらうぞ」
こいつが死ねば死者は全て空へと変える。
そうなれば、戦況は有利となるだろう。
「行くぞ」
ルイスは、二人目の自分を生み出した。
「これぞ私の能力」
自分の分体を生み出す。それがルイスの能力だ。
自分が二人になることで、戦力は倍、いやそれ以上のものとなる。
維持には若干の魔力がかかる。が、既にそれにはなれている。
既に、分体を維持し続けた経験はあるのだから。
「さて、行くぞ」
そう言うと、ルイス、またその分体は、一気にかけていく。そしてそのさなかの障害物となる敵をみんな仕留めていく。
「なんじゃ、貴様は」
鬼のような勢いで進んでいくルイスに対し、ラグナラッシュはそう叫ぶ。
「ただの、人間だよ」
そう言って一気にラグナラッシュへと、斬りかかろうとする。だが、そこでラグナラッシュはニヤリと笑った。
「まさかわしが、切り札を残していないとでも思ったか?」
そう不気味に笑うラグナラッシュ。
それを聞き、ルイスの剣は止まった。
「なに?」
「わしにはあるのだよ。ヒョウギリよりも強い切り札が。勿論、わしは何百年も生きている。その中で一番の猛者だ」
「猛者だと」
「あ、ロランは残念ながら連れてきてはいない」
「別のところに使っているからか」
「ああ。だが、わしにはもっと強い実力者がついているのだ。いでよ」
男がそう言うと、外が雨でおおわれる。
「雷雲王フゲリウス」
彼がそう言うと、竜が現れた。
「人じゃなくて、竜か」
「無論だ」
おぞましいオーラが見えてくる。それだけで目の前にいるのが恐ろしい実力者だと分かってくる。
「はあ!」
その剣の太刀筋で竜に狙って剣を振る。
その剣の太刀は、竜の首元を切り裂いた、かのように見えた。だが、実際はその肌の皮を一枚剥いただけだった。
その竜は伝説だった。
全ての物を、薙ぎ払い、世界中から畏怖された。
古の時代には魔王と並ぶ強大な敵とされていた。
それも勇者によって討伐されたのだが、その戦闘で、勇者は死にかけるほどの傷を負ってしまった。
要するにそれほど恐ろしい。伝説上の生物なのだ。
竜とは厳密に言えばドラゴンとは違う、まさに強大な生物だ。
「だが、死人、いや、死竜だ」
そう、ルイスは呟く。
生きてさえいれば恐ろしいものだっただろう。だが、生きている時ほどの力はないはずだ。
その間にもラグナラッシュは逃げ出そうとしている。そんなことさせるわけには行かないのだ。
「私をなめるな」
そう言うとすぐさま竜に果敢に斬りかかっていく。
だが、その瞬間竜はルイスから距離を取り、息吹を吐いた。
ブレスだ。
「っ、しびれか」
体が痺れる。
だが、ルイスは二人いる。
もう一人(ルイスB)が一気に飛びあがり、息吹後の硬直をとがめるかのように、斬りかかる。
その一撃は竜の体に傷をつけた。だが、即座に長い体でしなやかな鞭のように攻撃され一気に跳ね飛ばされる。
しかし、その時間の間に硬直が解けたルイスAは一気に駆け出していく。
そして竜を無視して洞窟の出口へと向かう。ラグナラッシュを討伐するために。
竜は当然、ルイスAを追おうとするが、それを止めたのはルイスBだ、
「お前は通さない。私がここで食い止め、先にラグナラッシュを倒す」
そして竜の前に出る。
そしてルイスBはそのまま剣を振りぬく。
当然力が足りず、返り討ちに会うが、それでも、自身の本体に近づけないように、必死で粘る。
今ここでなすべきことは、自身の職務は、足止めだけだ。
蘇生種がやられれば、この竜も消滅するのだから。
「なぜだあ、なぜおまえはわしを追ってくる」
必死に逃げまどう蘇生種。
その姿は見るも哀れ。その言葉がぴたりと当てはまる。
「俺はお前のことを哀れだと思うよ。人を頼ること無しでは、自己を守れないだけの弱者」
「ふざけるなよわしにだって魔法は使える」
強大な魔法が、地を伝いルイスの元へと洗われる。
だが、それをルイスは一思いに切り伏せた。
「俺はお前をさっさと、倒さなければならない。お前が生きていると、この世に不都合が生じる、
死者が、この世を生きているというな」
「ふざけるな。くそ、ロランのやつをこちらに持ってくればよかった。完全にわしの作戦ミスだ」
「遺言はそんなものでいいのか?」
「いいわけがないだろう。わしは死んではならん、死んではいけない」
「やはり哀れだ」
もう助けてくれる人などいないこの状況。それでも生にしがみつこうとしているのだ。
これを哀れと言わず何という。
「くそ、これをこれをこれを」
そしてどんどんと蘇生されていく人たち。だが、どれも小粒揃いで、ルイスを足止め出来るものなどいない。皆一瞬で切り伏せられてしまうのだ。
「ふざけるなあああ」
「死ね」
その一撃、その一瞬で、蘇生種は死んだ。
その命が終わりを迎えたのだ。
「はあはあ」
ルイスはその場で倒れた。
「これで、俺の役目は終わりか」
そのままルイスは目をつぶった。




