第八十三話 蘇生主ラグナラッシュ
「貴様が蘇生主だな」
そう、男が王国の地下で、語り掛ける。
「お前は国王ではない。お前は、魔族だ」
そう、男が言う。
目の前にいるのはまさにこの国の国王そのものなのだ。
「何を言っているんじゃ」
「言い逃れはできまい。ユウナを誘い込んで殺すつもりだったのだろうか、甘いな」
「そうか、貴様はイングリティアのギルド長ルイス。すべてお見通しなわけだな」
それを着た瞬間ルイスは一歩踏み込む。
「ああ。そちらにはユキヤという者が向かったはずだが、国王を見つけられなかったらしいからな」
「当然だ。すべてお見通しだよ」
「本物の国王はすでに死去しているはずだ。その時に成り代わった。……そうだろ?」
「やはり全て知っているんだな。ルイスよ」
「ああ。当然だ」
ギルド長がそう言うと、国王の姿が変わった。魔導士のような姿に。
「だが、甘く見るんじゃないぞ。わしは無力だ。だが、過去の英雄を復活できる」
そう言った蘇生主。ラグナラッシュが手をかざすと、ヒョウギリ、カミン、リンド、ミドレム、などの強者が現れた。そう、ラグナラッシュが復活させたのだ。
「過去の英雄とはそう言う事か」
「そうだ。戦争はいい。死体が転がるからなあ。ゲルトグリスティが戦場をうやむやにしてくれたおかげで沢山の肉体が手に入ったわい」
「ならばロランや、カミンなどの肉体が手に入っているのもおかしな話だがな」
「必ずしも肉体が必要なわけでは無い。勿論死体が残っていた方が良い素材になる。だが、そうでなくても十分な力を持っておるぞ。……さて、こちらとして雑談しに来ているわけでは無い。戦闘だ」
そして、死人たちがルイスに斬りかかる。
★★★★★
「これでもう終わり?」
ユウナは周りにいる人たちに問う。
「いや、まだ一人残っている」
そう、向こうで起き上がったレナードが言った。
「向こうにユキヤという強い奴がいる。そいつを倒さなければならない」
話を聞くと、それもまた完成体候補であり、恐らくユウナよりも完全に覚醒しているとのことで驚きだ。・
「分かった」
そう言ってユウナは階段を上がっていく。
体が限界に近いが、ここでがんばらないけない。何しろ、ここで踏ん張らないと、どちみちユウナ達の負けだ。
「待て」
だが、そんなユウナをウェルツが声で止める。
「何?」
「今のまま言って勝てると思うか? 今のミアレベルの実力者だ。ここは撤退するべきだ」
「っでも」
「いいから作戦会議だ」
そう言うウェルツに、ユウナはしぶしぶ従った。
「とりあえずだ。ユキヤは恐ろしい男だ。実力としては、ロランレベルと言っていいだろう」
「ロランレベル……」
つまり最強という事だ。
「あの時は、剣聖と、アーノルドがいたから勝てただけだ。そうでなければ確実に勝てなかった相手、それに易々とは勝てないだろう。それくらいの男が敵にいるという話だ。だからこそ、作戦を立てないといけないんだ」
「それは分かってるよ」
だけど、考えが追い付かない。
ここで何をすればいいのか分からない。
「ここでとるべき行動は一つ。逃走だ。だけど、お前はそれを好まないことは分かってる」
「うん。ここで逃げたらきっと、アンナさんとかみんなやられちゃうから」
彼女たちが今どうなっているのかも、疑問い残るところだ。
助かる可能性を残すために早く、ユキヤを倒しに行かないといけない。
八方ふさがりだ。
「こんな時に、ギルド長がいたらいいんだが」
そう、ルベンが言う。
そんな時、上から物音がする。
しかも、ただの物音ではない。
何者かが戦っているようなものだ。
「誰!?」
ユウナは叫んだ。
「うちの兵士かもしれない」
グレイルはそう答える。だが、俺に首を振ったのはウェルツだ。
「俺の周りにあいつに敵いそうな味方どころか、まともに戦いになりそうなやつもいなかった。正直、グレイルさん。あんたでも互角に戦うのは厳しい相手だ」
「そうか」
グレイルは国の最強角の兵士だ。だからこそ、まともに相手にならないと言われ、グレイルはぞっとした。
国でグレイルレベルに戦えるのは外にはいない。
そもそもラパルディア自体、弱国なのだ。
「とりあえず行ってみない事には分からないよ」
ユウナがそう言う。その言葉にウェルツは「ああ」と頷き、三人は一目散に上へと向かって行く。
そこの戦場は白熱していた。ユキヤと互角に渡り合っている男が一人。
ユウナはそれを見て驚いた。そこにいたのは死んだはずの男だったからだ。
「なんで、貴方が生きているの? なんでロランさんが」
ユウナはそう呟いた。だが、それは当然の話だ。
あのメルダが生き返っているのだ。
ロランが生き返ってても何ら不思議ではない。
大まかに考えるに、ユキヤを抹消するように、黒幕から頼まれていたのだろう。
だが、どうなると不可解な点が生じる。
なぜ、メリダと手を組んでいたはずの、組織を潰しに来ているのか。
もしや、裏でメルダが組織と手を組んでいた事を知らなかったのではないか。
そうなると合致が良く。
そもそもここでロランがいるというのは頼もしい。敵なら恐ろしい存在だが、味方になると一気に頼もしい存在だ。
「おう、お前らいたのか」
ロランがそう言ったのを聞いてびくっとユウナの肩が震える。
あり得るのだ。まさかのここから二人してユウナを狙ってくるなんてことも。
「手を貸せ。こいつをしとめたいんだ」
そのロランの言葉に耳を疑った。
まさか共闘を望んでいるとは。
「今の俺にはマイルツがいねえ。圧倒的な戦力不足だ、お前らがいるだけで頼りになるんだよ」
意外だ。ロランがそんなことを言うなんて。
もしや、死んだことで、性格が丸くなったのだろうか。そうユウナは思った。
しかし、なんにせよチャンスだ。ここでロランの力を借りられれば大きいものになる。
そして、ユウナは一気にユキヤに向かって火の玉を放つ。
魔力残量が少ない中絞りだした一撃だ。
その一撃は一気にユキヤの元へ伸びた。
「うざい」
ユキヤはそう言い捨てて、魔法を一瞬で切り伏せた。
だがその一瞬。ロランは一気にユキヤを潰しに走る。
そしてその一閃はユキヤの肩を斬りぬいた。
「それで、俺が倒せると」
そう言ったユキヤは冷静に剣を握り直し、ロランの方へと走り出す。
ロランはその剣を必死に受けていく。
その戦闘を見てユウナは思った。
ロランが弱いと。
そりゃ当然の話だ。死人が生人と同じ実力を出せるならそんな都合のいい話はないだろう。
持って、生きていたころの七割程度しか出せないのだろう。
そしてそれは当人の感覚を大幅に揺るがす。
つまり、今のロランは強くはないという事だ。
優菜辰はロランの元の実力を知っている。あの実力ならば、ユキヤにも勝てる可能性は大いにあった。
だが、今のロランではだめだ。
魔法も使えるという優位点を踏まえても、ユキヤには確実に勝てない。
「っ」
ユウナは思わず舌打ちした。
ユウナは普段普段舌打ちなんて行為はしない。
ただ、希望が絶望に変わった瞬間。舌打ちをせずにどうするべきか。
グレイルや、ルベンも体力が残っているかと言われれば、NOというしかない。
ミコトが回復させたとはいえ、それでも全快はしていない。
治癒というのもそこまで便利な力ではないのだ。
「おい、誰かこっちに来れないのか??」
ロランはそう叫ぶ。
だが、今の状況。動ける人は少ない。
「ああもう!」
ユウナは炎の剣を手に一気に駆け出す。
「おいユウナ」
そう、ウェルツもいい、戦闘に参加した。
そこにルベンも加わった。
レナードもだ。
四人がユキヤに斬りかかる。
「遅い」
ユキヤがそう言ってその場にいた全員を切り伏せた。
それは一瞬だった。
その一瞬で、全員脇腹を斬られ、血を垂れ流す。
「だが、その隙で十分だ」
ロランがそう叫ぶと、ロランは魔法をとばす。
その魔法は一気に、ユキヤに当たり、動きを止める。
あまりダメージは負っていない。ただ、その一瞬、動けるものがいた。
グレイルだ。
彼は一気に剣でユキヤの背中を斬った。
しかし、ユキヤは即座にグレイルを切り伏せた。
「あ」
ユウナは地面に倒れ伏せながらそう言った。
グレイルの一撃はしっかりとユキヤの背中をえぐったはずだ。
だが、実際に傷はほとんど受けていない。それどころか、どんどんと体の傷が回復して行っている。
「無意味。攻撃など通らん」
そう言ってユキヤは一気にロランへと向かって行く。
ユウナは魔法。
ミアは打撃。それそれ得意分野がある。
それがユキヤが剣。そう思われていた。だが、実際の得意分野は、回復能力だった。




