第八十二話 勝利
「おい、お前!!」
外にいたウェルツがミアに声をかける。
「まさかお前」
「お前もミア・ハーグスの知り合いか?」
それを聞いた途端ウェルツは絶望した。
こいつはミアじゃない。
最悪の事態だ。ミアが完成体にさせられてしまった。
元からユウナたち三人の中で完成体にしやすいのはミアだった。
ミアだけ、完成体への階段をはるかに上っている。
「安心しろ。俺がお前を止めてやる」
こうしてミア対ウェルツの戦いとなった。
ミアは早速踏み込み、拳をウェルツの方へと数撃叩き込む。それをウェルツは華麗な動きで避けていくが、地面にどんどんと大穴が空いていく。
一撃でも喰らえばゲームオーバー。ウェルツの死だ。
まさにくそげーだ。
だが、ウェルツの目は、その拳撃の穴を見ても生きている。
いかなるくそげーであったとしても、これはゲームなんかではない。
戦争みたいなものだ。
勝てる見込みがわずかでも、戦い抜かなければならない。
「俺もいるぜ」
そう言ってウェルツの横に降りたのはレナードだ。
「ぼろぼろだが、まだ戦えるぜ」
レナードの存在はありがたい。
勝てる可能性を大幅に引き上げてくれる存在だ。
二人は各々距離を取りながらミアの出方をうかがう。
一方を攻撃した隙にもう一人が、もう一方を攻撃した隙に、最初の一人が、ミアを攻撃する。決して深追いはせず、やばいと思ったら即退避する。
それが、今のウェルツ達の作戦だ。
「うっとおしい。私は別に貴様らと戦う必要はない」
そう言って淡々と城に向かって歩いていく。それが自然過ぎて一瞬思考が固まった。
だが、すぐさま自分のすべきことを思い出し、二人して攻撃を加える。
城に入らせるわけには行かない。ユキヤという存在だけでなく、こいつまでも入れてしまったらまさに終わりだ。
「邪魔だ」
だが、ミアはその挟撃を二本の腕で防ぐ。
まさに鉄壁と言っても差支えが無いほどの、強靭な腕だ。
「っち、硬いのかよ」
「あの時と一緒か」
ミアと組織の支部で戦った時だ。
その腕は固く、攻撃が加わらなかった。それが、今も同じ。いや、もっと絶望感がある。
「俺は、ユウナを信じてる」
「ユウナ?」
「ユウナが戻ってくるまでに、お前を疲弊させなければならないんだ」
「それは無駄だ、あやつは今、魔力切れだ。追ってきたとしても我には手も足も出ないだろう。……おとなしく雑魚は引っ込んでいろ」
「雑魚は雑魚らしくもがくさ」
そう言ってウェルツは攻撃の手を緩めない。
「私が貴様らの攻撃を敢えて受けてやってることにも気づかんのか」
そう言ってミアは手を思い切り開いた。その攻撃で腕に剣を押しやっていたウェルツとレナードは吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「あっぐ」
その攻撃の威力は半端ない。
正直骨の一本や二本は折れていてもおかしくはない。
いや、確実に折れているだろう。
そして立ち上がれない二人をよそに、ミアは静かに階段を上がっていく。
ミアにとって二人はそこらにいる塵芥。別に滅ぼさなくてはならないわけでは無いのだ。
レナードはふと思う。
別にレナードとしてはミアは初対面だ。ユウナとは友達だという話だが、ユウナともそこまで親しいわけでは無い。
一度戦場で会っただけだ。
レナードには再びミアに立ち向かう勇気はなかった。
右腕が腫れ、片手しか使えない今戦うことなどできない。
だが、そんな中ミアは歩みを止めた。
ウェルツがミアの行き場を妨げた。
――その立ち直りはウェルツの方が早かった。
ウェルツは立ち直った後、すぐさまミアの方に向かったのだ。
「無駄だというのが分からなんのか?」
「ユウナがきっと来るはずだ」
ウェルツには見えている。ミアの片手にはめられている枷が。
恐らくあれはミアみたいな完成体に対する枷だろう。
あの狂女が、魔物に対する対抗策を考えていないわけがない。
ウェルツには希望が見えていた。
それにウェルツは知っているのだ。
完成体になりし後も、戻す方法自体は難しいが、今現実にあるのだと。
ミアに対抗して剣を振るう。その先に希望があるのかはウェルツ自身にも分からないが、諦めるわけには行かない。
しかし、ウェルツの剣はミアの拳、その肉体にはまったく通らない。
ただ、ウェルツはあくまで援軍を待てばいいのだ。
そう、助っ人となる、ユウナ達が来てくれるのを待てばいいのだ。
ウェルツはただひたすら敵のミアの攻撃を食い止める。
レナードはまだ立ち上がっていない。後二十秒はかかりそうな雰囲気だ。
ウェルツの体はそろそろ限界を迎えそうだ。
ただ、まだまだ諦めるつもりなどない。
「うおおおおお!!!」
ウェルツは吠える。
そうして、ようやく一撃を喰らわせることに成功した。
ミアの皮膚を突き破る強烈な一撃を。
「む、痛いな」
ミアはそう呟いた。
「畜生。俺の全力でこれだけか」
そう言ってウェルツの意識は途絶えた。
ミアが、「所詮この程度か」と呟き先に進もうとしたその時、そこに別の人物が現れた。
それはまさにユウナだった。
後ろにはルベンとグレイルも来ている。
待望の援軍だ。
そこへ、先程戦意を折られた兵士たちも来ていた。
「さあ、元のミアちゃんに戻ってもらうよ」
そう。ユウナは意気揚々と言った。
ミアは早速、ユウナを無視して先へと進む。まるでユウナをいないものとして扱うように。
そんなミアに対してユウナは「むかつくなあ」と、一言吐き捨て、早速ミアの方へと向かって行く。
先程よりは魔力が回復している。
治癒魔法もかけてもらえた。
今ならいける。
最低限の魔力をこめ、炎剣を振るう。
だけど、それはあくまで陽動だ。
枷をはめさせるのが、真の目的だ。
「くどい」
ミアはものすごいスピードでユウナの剣を払う。
ユウナはその衝撃を受け止められず、跳ねのけられる。
自分の背中に背負っている枷をはめさせる隙はなかなかできない。だが、その間にグレイルやルベンも次々と動き出す。
数で圧力をかけたら中々行ける。
ミアは強いが、攻撃範囲は広くはない。
全員で攻撃を散らす。そして全員回避に集中する。
だが、それでもミアの攻撃に一人ずつやられていく。
その者たちはもう致命傷で、ミコトの回復ありでも、前線復帰などできない。
だが、それでも、段々とミアの攻撃は鈍ってきている。
流石の彼女も疲労がたまって来たのであろう
そしてユウナは、
(これ、動きが見えるようになった! これならいける)
この攻撃の速度なら、もう大丈夫だ。
ユウナは冷静にミアの攻撃の隙を探る。
そして、ミアの拳が垂直に伸び切ったときに、ユウナは今だ! と思い、一気に飛び込む。
「ぬ」
「終われええええええ」
ユウナの持っている枷はついにミアの左手を捉え、枷をはめた。その瞬間ミアの両手は後ろ手に縛られ、そのままミアは元の姿は元に戻った。
「お疲れ様、ミアちゃん」
そうユウナは呟いた。
もう、ミアは元に戻っている。そう、ユウナは感じた。




