第八十一話 攻略法
そうは言ったものの、時間がそこまであるわけでもない。
事実、あの二人、ないしは援軍が来たとしても食い止められる時間など長く見積もっても15分、20分程度だ。
いや、それでさえ、希望的観測かもしれない。
現実はその半分もないだろう。
「私の考えがあっていたら、ここら辺に、重大なヒントが……あるはず」
逆になかったらユウナ達は負けてしまうかも知れない。
だが、ユウナは確信している。ここに、この瓦礫の山に何か重大なヒントがあると。
そしてユウナは倒れている狂女の存在に気付く。
そう、メリダだ。
メリダは死んだように見えて生きていた。
ユウナは彼女を軽く揺り起こす。
「ん?」
メリダは起き上がる。
「私たちにミアを止める方法を教えて」
「……」
「教えて!!!」
「誰が教えるものか。私の……理想とする……最強の魔物が……生まれた……と言うのに」
そう言うメリダはミアに押しつぶされていたのに。
自分に利するかよりも実験の成功を祝う狂女。
尤も、ユウナ達が強行したからこそ、メリダの意のままに動くという最悪の事態は免れたというのに。
「とりあえず、これだけは教えてほしい。ミアを元に戻す方法はないの?」
「そんなことを私が言うと思うか……馬鹿どもめ」
やはり口を割る様子は見せない。
これじゃ、早くしないと、
こいつに構ってる時間が無駄だった。
ユウナはそばにあった拘束具でひとまずメリダを拘束し、辺りの捜索を再開する。
そんな時、一つの研究データを見つけた。
人間を魔物化する方法について。
思い返してみれば、メリダは過去にそのようなことを口にしてた。
という事は、魔物から人間に戻る方法も存在するかもという事。
だが、そこに書いてあったのはあくまでも可能性を示すもの。
だが、ミアが人間に戻れる可能性も僅かながら生まれた。
そしてもう一つ。
魔物がのままに従わない場合、究極の手を使うこともできる。
それは、魔物を封印することだ。
それはこの封魔石を使う事で封印できる。
その手枷で手足を拘束すれば、一時的に人間の姿に戻り、魔物としての権能は消える。
だが、ひとたび外せば再び、その力は復活し、また悪の道へと戻るだろう。
つまり、この枷をミアの両手にはめればいいという事だ。
「なんだ、簡単……」
と言ったところで、ユウナは少し首をかしげる。
何しろ、今の状態のミアの拘束など、不可能に近い。
それこそ、動きを止めなくてはならない。
そしてそれはミアを倒さなくてはいけないという事だ。
「はあ、難題だよ」
難易度があまりにも高すぎる。
しかし、やらなくてはならない。
やらなくては未来はないのだから。
「ミアちゃんは私が助ける」
私はそう言ってその鎖を持って走り出す。
あまり体力は残されていないけど、ここで踏ん張らないと後悔する。
だからこそ、ユウナは走るのだ。
そして、戦場に舞い戻った。
だが、そこではもうルベンとグレイルの二人は倒れていた。
「遅かったみたいだね」
そこにはもうミアはいなかった。
とっくに、別の場所へと向かっているのだろう。
「お姉ちゃん」
ミコトは魔法で、地面を触った。すると、魔力の残滓が現れる。
「これならいけると思う」
「分かった」
そしてユウナとミコトは歩き出す。
「ユウナ、魔力が残っていないだろ。せめて俺たちを回復させて、一緒に」
そうルベンが言う。が、
「ごめん。そんな時間はない。早くしないと、ミアに人殺しをさせてしまうことになる。そしたら誰も喜ばない結果になると思うから」
打算とかではない。
さっさとミアを見つけ、大声で救助を呼ぶ。
「だから、その時まで他のヒーラーに回復させてもらってください」
「あああ、分かった」
そして、二人は必死に残滓を追う。
ミアが今どれくらいの体力かは知らないが、この枷を使えば封印できるはずだ。
さすればメリダももう倒れた今、こっちの勝利がほぼ確定する。
メリダはすでに、拘束されているのだから。
「ミアちゃんはどこ、ミアちゃんはどこ」
ユウナはそう言いながら周りをきょろきょろする。
「お姉ちゃん。まだまだ距離があるから、そんな今から本気で探さなくてもいいんだよ」
ミコトはそう言う。まだまだ森の中だ。今は、まだ人にあ危害を加えていないだろう。
とはいえユウナはそれを聞いてもなお、警戒を解くことは無い。
ミアを一秒でも早く探し当てたいのだ。
そして歩くこと十五分。ようやくミアの姿を発見した。
まだ、森の仲だった。
まだ、そこまで被害は出なさそうでよかった。
だが、その反面、すぐに攻めに出たら負けることも明白。
様子をうかがって、奇襲で仕留めないと。
それにここは森の中とはいえ、市街地にかなり近い。
あまり派手にやっては、市街地が壊れてしまう。
ユウナが視線の先に捉えたのは、サーカスだ。
つい数日前に見に行ったサーカス。
そこが壊れてしまうのは、ユウナにとって避けたいことなのだ。
「行くよ」
ミアが市街地の方へと歩き出したとき、ユウナは姿を消して、ミアの方へと魔法を飛ばす。正直もう魔力はあまり残っていない。
ミアはその攻撃を受け、一瞬怯む。
それと同時にユウナは真上にも魔法を飛ばす。
こちらは合図だ。
ミアを見つけたという狼煙とでも言おうか。
準備が整えば、ルベンとグレイルが向かってきてくれるだろう。
そして、その間にミコトもまた動き出し、ミアの手に向かって走る。
「小癪な羽虫どもよ。散れ」
ミアはミコトとに向けて手を振るう。
一瞬ユウナの攻撃で怯んでたとは思えないほどの判断速度だ。
だが、勿論ユウナ達も何も考え無しで向かったわけでは無い。
ミアの攻撃はミコトに直接あたるも、当たった瞬間ミコトの姿は消えた。
「何!?」
ミアがそう言った瞬間、ミアの背後にユウナが来る。
「という事は……」
ミアが向こうを見ると、ユウナと思わしき人物はミコトに変わった。
そう、ミアはミコトをユウナだと誤認させられていたのだ。
ミアの魔法によって。
「なるほど」
ユウナの手に持っていた枷が一つミアにハマる。
後はもう一方の手も枷で覆えば勝ちだ。
だが、鎖で稼はつながっており、その両方をミアにはめなければならない。
まだ勝ちではないが目的の半分は済ました。
後は、ミアの動きを封じ、いかにも一方の枷をはめるかどうか。
こちらの勝利条件としては、ミアに両方の枷をはめるというのと、味方の援軍を待つ間の時間稼ぎに成功するという物がある。
時間稼ぎなら出来るはずだ。
ユウナは早速、ミコトと一緒に煙を作り出す。
煙を作るだけならそこまでの魔力を消費しない。
ただ一つ、作ってる間はほかのことが出来ず、また少しでも緩めると、すぐに視界が復活するという問題が。
ただ、時間稼ぎにはうってつけだ。
これならユウナの残り少ない魔力でもできる。
「卑怯だぞ」
「卑怯と言われてもいいよ。勝つためならどんな手を使っててもいい。私は絶対ミアちゃんを元に戻す!!」
ユウナとミコトは煙を継続的に作り出す。
「私が、こんな煙、跳ね飛ばしてくれる」
そう言ったミアは、雑に手当たり次第に拳を振るってくる。
これじゃあ、運よくユウナやミコトに当たってジエンドの可能性もある。
何より、それで木が倒れると、ミアのユウナまでの道も生まれる。
煙がどこから送られてくるかは見破りやすいのだ。
そしてユウナの隣一メートルの距離に拳が飛んできた。
その拳は当たらなかったものの、ユウナは危険だと判断し、煙を作るのをやめた。
ならば次はどうするか。
「ファイヤー」
魔法を当て続けるという物だ。
こうすることで、進行を遅らせる。だが、これにもまた問題点がある。
今回魔法を放っているのはミコトだが、ミコトは攻撃魔法が得意ではない。
魔力消費効率の悪い魔法はミコトの体力を削っていく。
この二人ではこれ以上は止められないか。
一応効果があるのだろうか、魔法で少しは動きが鈍っているはずだが、誤差の範囲だ。
「これじゃあ」
すぐに全滅だ。一旦距離を取る?
いや、それはできない。
何とかこの二人だけで粘らなければならない。
今はこの怪物さえ押さえ続ければ勝機は生まれる。
出来るだけ無駄な魔力は使わずこの場を保ち続ける事50秒。
「分かった」そう、ミアは一言呟いた。
「お前たちには私を滅ぼす力は今残ってはいない。ならば私は今から貴様たちを放置してもいいってことだ。お前らは駆除対象だが、今最優先事項は王城だ。……そこで指をくわえてみてろ」
今のは強者特有の煽りだろうか。
今の二人には言い返す気力はない。
ただ、逃がすわけには行かない。
今は、こいつは放っておけない。
「待てえええ!!」
ユウナは真の最後の魔力を使い、火炎弾を放つ。
だけど、その攻撃によってミアに振り替えさせることはかなわなかった。
数分後、ミアはいよいよ城の前に来た。
「ここの中に、真の使い手がいる」
ユキヤだ。今では完成体としてユウナやミアを超える完成度を持ち、ほぼ覚醒状態に入っている。
ほぼというのは。人格はまだ残っているという事だ。
今のミアは人格は完成体の物になっているが、魔獣化によって無理やりなった半端物だ。
そう言う意味なら二人は似た者同士だろう。
半端物という意味ならば。




