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完成体少女  作者: 有原優
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第八話 町の中

「おい起きろ、ついたぞ」

「うーん、着いた?」

「ああ、着いた、お前が寝ている間にな」


 と、ウェルツが少しプンプンとしたような顔でユウナに言った。


「怒ってる?」

「起こってはいないが、暇だったな。話す相手がいなかったしな」


 実際、ユウナが寝てる間にも二時間程度ウェルツは歩いていたのだ。誰とも会話せずに。


「そう、いつもの私の気持ちわかった?」


 それを聞いてユウナは逆に攻勢に出た。


「わかったわかった」


 それをウェルツは苦笑いをしながら、平謝りを決める。あくまでも悪いのはこちらなのだからユウナの言う文句はおとなしく聞かなくてはならない。そう思っているのだ。


「まあ寝ちゃったのは悪いけど」

「そこは認めるのか」

「それで……まずはどうする?」


 ユウナは周りを見渡しながら言った。



「宿を探す」

「でもお金ないんでしょ」

「ああ、でも二,三日は過ごせるさ」

「じゃあ探そう!」


 と、ユウナは前を指さすが……


「とはいえ俺もこの街に来たの12年前だからな、町については詳しいことは知らん」


 看守はおとなしく現実を言う。


「そっか私も知らん」

「当たり前だな」


 ウェルツは思わず突っ込みたくなったのを我慢して言った。


「あそこのでかい建物に行ったらいいんじゃない」

「いやあそこは宿じゃない。魔物を倒す人たちのための組織だ」

「魔物って昼に倒したやつ?」

「ああ、奴らは人間に害を及ぼすからな。魔物に懸賞金をかけて倒してもらうんだ」

「ふーん、じゃあ昨日の魔物連れてきたらお金もらえたかもしれないってこと?

「いや多分あいつは雑魚だったからお金もらえないな。肉も食えないし」


 実際、本来は自衛のために人々は魔法愚を持ち運んでいる。それがあれば昼の魔物は瞬殺できるのだ。


「そっか……て宿探さないと!」

「そうだな」


「ねえ」


 ユウナとウェルツがそんなことを話していると、一人の銀髪の少女がウェルツに声をかけてきた。


「ん? なんだ?」

「宿探してるんでしょ」

「ああ、それがどうしたんだ?」

「私が宿を教えてあげよっか」

「ぼったくりじゃないだろうな」


「大丈夫一日五〇〇〇ゴールドしかとらないから。しかも夕食朝食つき!」

「そうか」


 五〇〇〇ゴールドは、一日の宿泊代としては安めの値段とも言えよう。詳しくはウェルツも詳細を聞かないとなんとも言えないが、ぼったくりの恐れはおそらくないと感じた。


「お母さんから客引き頼まれてるんだ」

「そうか」

「ついて行っていいの?」


 堂々とついて行くウェルツに対してユウナは少し不安そうだった。


「大丈夫よ! うちのお母さんの料理の腕は確かだから」


 そんなユウナの手を少女は笑顔で握りながらそう言った。





「あら、いらっしゃい」

「お母さん! お母さん! お客さん連れてきた」


 その声を聞いて、宿の主人は振り返る。するとそこにはウェルツとユウナが居た。


「あら、いらっしゃい」

「お母さん! ほめてほめて」

「偉いねーお客さん連れてきて」


 と、主人は少女の頭を撫で撫でする。


「俺たちはまた泊まるって決まっていないぞ」

「えー泊まろうよー、疲れたし」

「いやお前は寝てただろ」

「早くベッドで寝たい」

「しがたがないな。詳細は?」

「詳細と言っても大したことはありません。朝夕二食付きのお替り自由です。部屋は二部屋空いてますけど、どうなされます?」

「部屋は一緒がいい! か……ウェルツさんもそれでいいでしょ!」

「ああ」

「わかりました。後は、自由にしてくれていいので」

「そうだ、部屋だけ、契約する前に見せてもらってもいいでしょうか」

「ああ、そうね。メリー。案内してあげて」

「はーい」


 と、ユウナとウェルツはメリーによって二階の部屋に案内される。



「ふかふかだー」

「はしゃぎすぎるなよ、ほこりが舞う」

「わかってるよ……このままゴロゴロしよー」

「じゃあ契約するってこと?」

「うん。まあそうしようかな」


 ウェルツがメリーの言葉に肯定的な言葉を返した。


「やったー! お母さんに伝えてくるね」


 と、メリーはウェルツの言葉を聞いてすぐに下へと走って行った。


 そしてすぐにユウナはベットに寝ころんだ。部屋としては、二つベッドが分かれてある感じで、ダブルベッドじゃないようで安心した。だが、


「さっき寝ていなかったか?」


 もう半分寝ているユウナに対してウェルツは言葉を発した。


「寝れるよこんなふわふわな布団だったらね」

「そうか、お前はずっと横になって寝たことなかったんだな」


 ウェルツは寝ているユウナに対して暖かい目をする。


「うん、気持ちいい。てかもう寝ていい? 眠たい」

「俺のほうが寝たいよ」

「じゃあ寝よー」

「いやもうすぐご飯だから」


 そう言ってウェルツは今にも寝そうな自分を偽り、なんとか意識を保つ。


「えーいいじゃん。もうご飯抜きにしよ?」

「お腹減ったって言ってなかったか」


 団子のもう少し食べたいと、ユウナは確か言っていたはずだと、ウェルツは思った。


「一日ぐらい食べなくても大丈夫だよ」

「きっとおいしいぞ」

「じゃあご飯の時に起こしてよ」

「俺のほうが眠いんだけどな、まあおやすみ」




「ご飯だよー。……ってあれ二人とも寝てる」

「んーもう朝」

「朝じゃなくてご飯!」


 メリーは寝ぼけてるユウナに対して、突っ込みを入れる。


「もうご飯の時間か」


 それを聞いて完全に目が覚めたウェルツは、そう一言呟いた。


「やったー。ご飯だー! いこ!」


 と、ユウナは元気良く歩き出そうとする。


「お前歩けないだろ」


 そんなユウナに対してウェルツは突っ込んだ。今のまま歩けば、普通に足を怪我しかねない。


「そうだった。椅子に乗せて!」

「わかったわかった」


 と、ウェルツはユウナを抱き抱え、椅子に座らせる。


「そういえばその子歩けないの?」

「うん、今は歩けないの」


 ユウナが返事をした。それに対して、


「この子は足を怪我しているんだ」


 ウェルツが一言付け加えた。


「そっか、かわいそうだね」

「いやでもすぐ歩けるようになると思うから」

「そうか、てか早くいかないとご飯冷めちゃうよ。いこ!」

「うん!」

「私が椅子を引くよ、いい?」

「ああ」


 そして、メリーに椅子を引かれて、移動した。



「お母さん! 連れてきたよ」

「まあ」

「おなか減ったー」

「すぐ用意するね」

「やったー」


 そして食卓にご飯が並べられる。



「おいしい! こんなの食べたことない! やばいやばいこれおいしすぎる。最高! ウェルツさんも食べてよ」

「はしゃぎすぎだ。でも確かにこれはおいしいな」


 ウェルツはテンションの高いユウナに若干呆れながらも、ユウナの言葉を肯定した。


「まあおばさんのご飯はおいしいからな」


 一人の男性が会話に加わって来た。


「本当ですね」

「俺も時々食べに来てるんだが全然飽きないぜ、また一人虜になっちまった見てえだな」

「うんもう虜になった」

「それはよかったねえ」

「うんおいしい」

「お代わりいただけるか」


 そんな会話の中、ウェルツは立ち上がり、主人の元へと行った。


「え? もう食べ終わったの?」

「ああ、おいしすぎてな」


 ユウナの前の食器にはまだ半分程度ご飯が残っている。


「でもお金って」

「最初の説明聞いてなかったのか、お代わり無料って言ってただろ」

「そうだっけ、じゃあ後でお替りしようかな」




「はーお腹いっぱい」

「満足したか」

「うん」

「おいしかったー、今までで一番おいしかった」

「もうあのお団子ぬいたのか」

「うん」

「更新早いな」

「仕方ないじゃん今まであんなもんしか食べてなかったから」

「なら仕方ないな」


 ユウナにとってご飯とはその場しのぎの栄養があるだけの不味い料理というものだったのだ。ランキングが素早いスピードで入れ替わってもそれは無理もない事だ。


「でしょ!」

「よし、寝るか」


 と、ウェルツはベッドに横になり、それを見てユウナも弱々しい力でベッドによじ登り、寝転んだ。


「そういえばお金ってどうするの?」

「働くしかないだろ」

「どうやって?」

「魔物を倒す」

「さっき言ってたやつ?」

「ああ」


 先程見えたこの町一番の建物だ。


「お金稼げるの?」

「ああ沢山な」


 実際命の危険のある仕事だ。給料はその分高い。そのため夢や憧れのある仕事だ。


「そっか贅沢できるね」

「ああ、まあまだ入ってないんだけどな」

「まあね」

「寝るか」

「まだ話そうよ」

「お前は寝ていたけど俺はずっと歩いてたんだよ」

「そっか。仕方ないね! 許そう! 寂しいけどお休み」

「おやすみ」


 ユウナに許されたウェルツは布団を被り意識を闇に落とした。


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