第七十九話 記憶消去
「ふう」
ウェルツは焦燥した様子で、組織のアジトに戻って来た。
お疲れさまと言ってくれるはずのラメリアはもういない。サルサに殺されたからだ。
そしてそのサルサを自分は殺した。
「俺はだめだな」
そう、ウェルツは呟いた。
こんなところで、罪の意識にさいなまれるとは。
実際この戦場で命を落とした人間は多い。
特に王国軍の兵士は何人命を堕としたんだろうか。
今まで例置くな人間を演じてきたというのに、ここに来て、だ。
「とりあえずユウナだな」
そう彼は呟き、ユウナの投獄されている牢獄に向かう。
「あ、帰って来た」
そう牢で相変わらず拘束されているユウナが言った。
ユウナか、とウェルツは思った。
以前に比べユウナのみる目が変わっている。
このままじゃだめだ。自分はユウナに甘くなってしまう。その結果は目に見えている。
完全なる失敗だ。
「くそ」
ウェルツは思わず床を叩く。
このままではだめだと分かっているのに、目の前の少女に錠が沸く。
だが、ウェルツにも手が無いわけでは無い。
組織には、記憶消去の使い手がいるはずだ。それを頼れば、記憶の消去が出来る。
それを使えば、この人間らしくなった部分が消えるはずだ。
だが、それで本当にいいのだろうか。
人間にとっ大切な物を捨てて大丈夫なのだろうか。
「なあ、ユウナ。俺が優しくなったら嬉しいか?」
「はあ? 嬉しいに決まってるでしょ。じゃあ、優しくなってくれるの?」
「そうか」
その言葉を確かめた後、ウェルツは本部へと向かった。
「ウェルツか、久しぶりじゃないか。大手柄なんだって」
「ええ、ボス」
「それで、ここには何をしに来た」
「記憶を消しに」
そうウェルツは告げた。
もう、これ以上ユウナに施されてはいけないというウェルツ自身の考えだ。
それに対し、ボスは静かに、「どうしてだ?」と訊いた。
そこからウェルツは自身の考えを告げた。
すると、ナットlくしたかのように、ボスは「ああ」と言った。
そして、ウェルツは、組織お抱えの魔導士によって、記憶を消去させられた。
主に王宮内で過ごした記憶を。その際に、いくつか記憶のほころびが出たが、ウェルツが望んだことだ。記憶の少しの違和感は後遺症で済まされる。
だが、ウェルツの奥底に宿った人間らしい心はそれからも消えなかった。記憶を消去したというのに。
そして、その日からユウナに対して優しくなった。
ユウナは少しだけその変化に対して違和感を感じたが、別にいいやと思った。
ウェルツが優しくて、損なことは何もないのだから。
そしてあの事件が起き、ウェルツはとうとうユウナを連れだして逃げた。
当初の予定では、ウェルツはユウナの扱いに困っていた。だが、ユウナの楽しそうな顔を見ていると、組織に戻そうだなんて思えなかった。
それからだった。ユウナに自由に生活してもらおうと思ったのは。




