第七十八話 戦闘
その当日組織本拠地へと向け、およそ3万もの兵が出立した。
各々の目的はみな同じだ。
組織をほろぼすこと、それのみだ。
だが、二人ほどその目的を違えているものがいるが。
ウェルツは、ロランに作戦実行前に、組織が今得ている情報全てを話した。その代わりに、作戦の大半を教えてもらい、その情報を組織に伝えた。
それにより、情報が完全に漏れている。
日取り、作戦、そのすべてが漏れているのだ。
「なんだこれは」
ロランが叫ぶ。完全に包囲されていたのだ。
それも、数千の兵によって。
無論、数では八倍もの兵力がある。だがその数の利も、戦略の差で簡単に覆る。しかも地の利もあり、さらには谷の上に敵兵が大量にいる。
そこからの攻撃をしのぎ切るのはいくら洗練された王国兵とて、簡単な事ではない。
「くぅ」
ロランは攻撃を見事に受けきるも、上からの攻撃で、兵士たちがみるみるとゴミのように死んでいく。
(ああ、いいさ。てめえらはくたばっとけ)
ロランの目的は将来的な王国掌握。そのためには、多少の犠牲は見過ごせる。
ウェルツもまた必死で、魔法弾を避ける。
その容赦のない攻撃を。
俺もよほど信用されているな。そう、ウェルツは思った。まだスパイ作戦の決行中だというのに、容赦なく、攻撃が放たれていくのだから。
しかし、別に構わない。今は裏切れネイトことはウェルツには分かっている。
裏切るのは、そう。ここを突破し、王国軍が、組織の主要たいとぶつかった後だ。
それまでは自分も屋tら郲ていないといけない。
そして、王国軍は多数の犠牲を払いながらも、突破した。だが、そこに襲い掛かって来たのはさらなる兵五千。
その塀の奇襲に対応できないまま、どんどんと中央まで兵が突き進んでいく。無論、主戦力足るロランを打つためだ。
何しろ、同盟関係は情報を交換するまであり、ここでもう協力関係は終わっている。
今、ウェルツ達組織側から見たら、ロランはただの敵の主力。討つべき敵だ。
ここではロランは強敵。さっさと潰した方が良い戦力だ。
「はあ!!!」
カミンが叫び、どんどんと兵を切り捨てていく。そしてあっという間に、ウェルツの持ち場に来た。
そして一太刀ぶつかり合う。
「おお、いいぞウェルツ」
サルサが言う。だが、その瞬間、ウェルツは近くにいた王国兵たちを切り裂いていった。
組織側の兵では無くだ。
「急にどうしたんだよ、ルチェル」
「悪いな」
ウェルツはサルサに見向きもせず、どんどんと周囲の王国兵たちを切り裂いていきながら進んでいく。
その勢いはとどまるところを知らない。
そのまま王国軍のトップ――ロランを狙って行った。
「お前はここに来ると思ってたよ。ルチェル!!」
そして、ロランとウェルツの剣がぶつかり合う。
そして地獄と化した戦場で一人、動けていないものがいた。
「なんなんだよ、どうしたんだよ。なんでルチェルが裏切ってるんだよ」
サルサの剣の持ち手が震える。
情報がかく乱していて何が何だか分からない。
祖のサルサの目の前に一人の男が現れた。
「戦場でそんなことしてたら死ぬぞ」
ラメリダだ、その剣がサルサの首元へと伸びる。が、サルサは危機一髪首を後ろに下げ、避けた。
「悩む暇すらくれないってことか」
サルサはそう呟き、剣を構える。
だが、この戦場での立ち位置は変わっていない。
ウェルツが仮にスパイだったとしても、組織を壊滅させる、そのサルサ自身の目的は変わっていないのだから。
「うおおおおおお!!!」
サルサはラメリダの剣を果敢にさばいていく。
サルサ自身も、組織憎さで、剣の腕は鍛えている。
前のアスティニアとの戦場では対して活躍できなかった。だからここで、活躍できないのは嫌だ。
サルサの剣が、ラメリダの首元を切り裂いた。
ラメリダの首から血が飛び出、そのまま倒れていく。
「はあはあ、やったぞ。まずは一人」
「ラメリダ!?」
ウェルツは後ろを振り向く。
「よそ見すんなよ、ルチェル!!」
ロランの剣が振り抜かれ、ウェルツの肩をかすった。
油断していたのだ、
「いいから別のところで戦えよ。俺はお前に用があるんだ」
そう、ロランはカミンをにらむ。
「いい心構えだ。お前を打ち取ってこそ、我らの勝ちが決まる」
そう言ったカミンは剣から炎を出す。
「ファイヤーウォール!!」
炎の壁がロランに向かって行く。
「サルサ」
ウェルツはサルサをにらむ。
「ルチェル。お前は組織の人間だったのか?」
「ああ。そうだ。お前の村を壊滅状態にしたのも俺だ」
「そうか、お前のせいなのか」
「ああ」
サルサの剣がロランに向かって行く。
「俺はお前を信頼してた。なのになぜ裏切った」
「俺は裏切っていない。元から味方になってもいない」
サルサと、ウェルツの剣がぶつかる。
「サルサ、今ならお前だけなら見逃してやる」
「はあ、なんだそれは。お前を殺してやる!!」
「そうだな、恨まれても仕方がない。ただ、俺は俺の正義に従っただけだ。それに、実験体はこっちで元気に育ててやる」
「はあ、その育て上げた姿がなんぼの物なんだよ!!」
段々とウェルツが押されていく。
サルサの剣に怒りというエネルギーが込められているからだ。
ウェルツはその剣を避ける避ける。
ウェルツがどんどんと後ろに追いやられていくが、決して勝機が無いわけでは無い。
サルサの剣は重いが、動きは鈍い。
隙を見て飛び込めば、サルサの首など容易に取れるはずだ。
だが、ウェルツが躊躇っているのはそこではない。
(俺に、こいつの首が取れるのか?)
ウェルツにはサルサの首を取るという未来が見えなくなっていた。
組織に道具として育てられてきた柳瀬留津だが、今まで殺した人たちは皆顔も知らない他人だ。なのに今目の前にいるのは顔見知りのサルサ。
ウェルツは顔見知りの首を何も考えずにとれるほど、人間はやめていなかった。
だが、逃げ延びるのは難しい。彼が諦めてくれるとは思えないし、何より、ここでウェルツの手が緩めば、最終的には押し負けるだろう。
組織のためを思えば、サルサを斬らない選択肢はない。
ウェルツはそれが分かっていながら、中々決行に移せない。
だが、そんな中サルサの剣が、ウェルツの脇腹をかすった。
その瞬間、ウェルツは「うわあああああ」と叫び、サルサの体を真っ二つに切り裂いた。
「え?」と言ってその場に倒れるサルサ。
ウェルツは命の危機が迫ってから、仲の良かった同僚を切り裂いた自分にも嫌気がさした。
「すまんなサルサ」
ウェルツはそう呟いた。今のウェルツの脳内は、
(俺が正しい、俺が正しい。こうするしかなかったんだ。だから俺は悪くない)
そんな自己暗示の様な物が流れていた。
その後、段々と王国軍は、押し戻され、ロランはついに撤退の指示を出した。
組織の勝利だ。だが、ウェルツの心は晴れなかった、




