第七十五話 ウェルツ
ウェルツは元来捨て子だった。
ウェルツの両親は貧しい家の出だった。
そんな彼らは子供を養えなくなるとすぐに近くの山に捨てた。
その時ウェルツ三歳。その年齢で捨てるとなると、もはや殺害されるのと何ら変わりない。
彼はいつか戻ってくると信じその場で待ち続けていた。
だが、誰もこない。いつしか寒さで震え、その場で寝そうになる。
寒いため。寝たら死ぬ。そう思いながらも立ち上がる元気すらない。
そして、彼は重たい瞼をゆっくりと閉じた。
「君、大丈夫ですか?」
声をかけられ、体をゆすられる。それで目を覚ましたウェルツは、「ん、なんですか?」と、弱弱しく返事をする。
「君は愛を与えられなかったかわいそうな子。そんな子を僕は見捨てられません。どうですか? 僕たちの家に来ませんか」
その問いに、ウェルツにははいという選択肢しか残されていなかった。
もしも、断ればウェルツの運命は死のみだったのだから。
そして組織に着くと、ウェルツには暖かい食べ物が用意された。どれも、暖かく。冷えたウェルツの体を温めてくれた。
「いいでしょ、これが温かい食事だよ。ゆっくり味わって食べなさい」
その声はまるで本当の父のように感じられた。
その翌日からウェルツに対してのトレーニングが始まった。
「もっと、しっかりと降りなさい」
そう、怒鳴られる。しかし、父の愛情のある訓練にしっかりとウェルツは向き合った。
弱音なんてはいたらだめだ。
この人に恩を返すんだと。
そうして月日が流れていき、ウェルツは十四歳となった。
その頃には体つきもしっかりとしていき、大人の構成員に対しても互角以上に戦えるようになっていった。
そしてしっかりと、身も心も組織に染まっていった。
そしてある時、初任務が与えられた。
「ウェルツ、この村から才能の原石を連れ去り、そのほかの物は皆殺しにするのです」
その言葉は普通に考えれば妙なものだ。
だが、その当時のウェルツには何も感じなかった。
「お任せください」
ウェルツはそう言って任務に就いた。
彼にとっての初任務だ。
軽く緊張はするものの、彼には絶対に成功するという自信があった。
単身乗り込んだ村は平和そのものだった。
何の脅威もないのどかな村。
それが今からウェルツの手によって地獄へと化す。
「この村を今から火の海にするのか……」
多少心は痛むが、仕方がない。
何しろ、組織のためだ。
恨むなら運命を恨めばいい。
ウェルツ達組織に狙われたことがまさしく運の尽きなのだから。
「行くぞ」
ウェルツはまず、村の入り口にいた男二人を一瞬で切り刻む。
そしてとことこと入っていく。その一番に目に入ったのは女だった。
ウェルツは単身その女に近づいていく。
「ひぃ」
女はおびえる。目の前の十四歳ほどの男子が鬼のように見えた。
怖い、殺される。
ただ、ウェルツは足を緩めない。
そのまま女の手を一瞬で切り落とし、そのまま腹を切り裂いた。
「まずは一人」
ウェルツはそう呟く。
その頃にはウェルツ討伐に動いてきた男十人が周りにいた。
「一瞬で終わらせる」
ウェルツは一人一人丁寧に腹を切り裂き、あっという間に十人を殺した。
ほんの十四歳ほどの子供が、大量の大人たちを切り刻んて行く様。それは、まさしく異様なものだった。
そしてそのまま修羅のような勢いで村の男を全員切り殺し、一番奥の家に着いた。
「ここか」
ウェルツは扉を強引に開け、中の女二人を見る。
その中一瞬で思いついた。
確保するべき人材は目の前にいる少女だと。
「な、なに」
少女はおびえている。
「娘は絶対に渡さないわ」
「いいよ別に。どちらにしろお前を殺して連れ去るだけだから」
ウェルツは少女の目の前に立つ女を、「くだらない」と言って斬り殺した。
「さてと」
少女の頭を剣の塚で軽くたたき、意識を失わせ、肩に担ぐ。
「おっと、忘れないうちにな」
そして建物に火をつけた。
そうして村はあっという間に火の海となり、隠れていた村人から阿鼻叫喚の叫びが聞こえる。
しかし、ウェルツは一切振り返らなかった。
「さて、連れ帰って来たぜ」
そう言い、ウェルツは少女を目の前に乱雑に投げる。
「よくやった。ウェルツ」
「それで俺はこのまま帰っていいのか?」
「いや、話はこの後だ。……この少女はこれから完成体に移行するための実験が行われる予定だ。そこでウェルツ。……その役をお前にやってもらいたい」
「俺にこいつを扱えと?」
「そうだ。お前はこの少女の良き親に慣れ」
「……親っつっても、兄と妹じゃね?」
八歳しか離れていないし。
「それは別にいい。飴と鞭方式だ。よく扱え」
「へいへい」
そして、少女を釣れ、気絶している少女の手を牢の中の拘束具にはめていく。
華奢な手が拘束具にはめられ、自由を失われている。
だが、ウェルツはそのことに対して何も思わなかった。
「ここ……は?」
「目が覚めたか」
「ひぃ」
少女は驚きの表情を見せながら、「あなたは誰なの?」と聞く。
完全におびえている。
だが、そんな彼女にウェルツは「怖がることは無い。ここはお前の新たな家だ」と言った。
その後も警戒をとてくれる様子はなかったが、ひとまず言われた通り、彼女を連行し、最初の実験を行った。
その実験で苦しそうにしていたが、ウェルツはただ、これを耐えれば世界のためになるのにとしか思わなくなった。
そして、牢に戻り、泣いているユウナ。
そんな彼女に少しイラついてきた。
「いつまで泣いてるんだよ。お前はせっかく組織の役に立てるっていうのにさ」
そう言ってウェルツは動けないユウナの頬をぶった。幾度も幾度も。
ユウナはそれを受けてもなくだけだった。
それがウェルツにとってはイラつくばかりだ。
そしてウェルツは新たな任務に出かけた。
其れもまた新たな完成体候補を捕まえてくるという物だった。
底でもウェルツは良さそうな子供をさらい、村に火をつけた。
「ほら」
ウェルツはさらってきた子供たちを乱雑に投げ捨てた。
「もう少し丁寧に扱ってもいいと思うんだけどなあ」
カミンはそう呟いた。その頃には支部へと移っていたのだ。
「どうせそんなもの変わらないだろ。とりあえず俺は戻る。別の仕事もあるからな」
「はいはい」
そして、ウェルツはユウナに薬を与えるついでにほかの完成体候補も厚かった。
彼ら、彼女らはみな薬を与えると、「きゃあああああ」「ぐわあああああ」「いやああああ」
阿鼻叫喚の叫びを発す。そして、半数の体から生命反応が失われた。
そして残りがまた実験に使われる。
今のところユウナがわりと良好な成長を見せているものだが、他はてんでダメだ。
皆あっさりとくたばってしまう。
まだ、魔力すら強くなってすらいないというのに。
それに対してユウナはもう、かなりの魔力を手に入れている。魔力総数なら、組織に所属している大人よりもはるかにでかい。
「これさえあれば……だな」
ウェルツはそう呟いた。




