第七十三話 ミア・ハグルティス
メリダは研究所内に入っていく。ミアを連れて。
魔物化にそこまでの時間はかからないはず。
でも、放っておくわけには行かない。
今すぐに、追わなければ。
だが、目の前に立ちふさがるのはドラゴンだ。
「そこをどいてええええええええ」
ユウナは叫ぶ。そして、炎剣でドラゴンの頭に向けて剣を振り下ろす。
「燃やし尽くしてあげる。それとも氷の方がいい? 選んで!!!」
「お前、暴力的」
「っうるさい!!!」
ユウナは灼熱の炎を繰り出す。
その業火もドラゴンには通じない。
「やっぱり炎はだめね。なら」
当初の思惑通り、氷で固めるしかない。
氷で凍らせ、中で凍結死させる。
魔力の消費量なんて関係がない。
早く追わなければ。
「凍ってええええ」
ドラゴンの体はどんどんと氷結していく。内も外も。
「オデがこれくらいでくたばるか」
ドラゴンもドラゴンで体を炎で温めてていく。
「うざい」
ユウナはそう言って、ドラゴンの口を無理やり氷でごじ開けていく。氷が解けきる前に。
「喰らえ!!!」
氷の槍を口にぶち込む。
その勢いでドラゴンは倒れる。
その隙にユウナは研究所へと飛んでいく。だが、すぐさまドラゴンは意識を取り戻して夕寝を追っていく。
「動きを止められたのは一瞬だけね」
ユウナはそう呟いた。
そして、背後に氷のつぶてを飛ばす、飛ばす。
ドラゴンは傷が回復しきっていない状態で、この戦場に現れた。
だからこそ、体力も残り少ない。
突如目の前に飛んできた氷の礫をぎりぎりで避けるも、段々と動きが鈍る。
最終的にユウナの攻撃を避けられずに、その場に沈んだ。
「さて、早く次に行かないと」
そしてユウナは研究所に向けて飛んでいく。とはいえ、そこまでの魔力はユウナには残っていない。
全力で魔力を振り絞った代償と言えるだろう。
この状態で戦えるのかは疑問なところだ。
本来このレベルのドラゴンは負傷しているとはいえ、ユウナ単騎で倒せるレベルの敵ではない。
だが、手負いだったこと、怒りで完成体のリミッターが一時的に解放された事、魔力を出し惜しみせずに出したことによって倒せただけだ。
「待てええ」
ユウナは研究所に入っていくメリダを追いかけ内部に入っていく。
中は相も変わらず臭く、前回投獄されたことを思い出させてくれるようだった。
「嫌な記憶が……って、そんなこと言ってられない」
最優先事項はミアの奪還だ。今は無駄な考えを持つべきではない。
時間をかけるわけには行かない。
幸い中には魔物はほとんどいないし、構造もだいぶわかっている。
「えっと、ここを抜けて、こういって、こうか」
ユウナはメリダのもとにたどり着いた。
「あらあ、来ちゃったの? でも無駄よ、あと少しで荒治療だけど実験は完了するわ、さあ、足止めをお願いね、私の子供たち」
そして、魔物がユウナの行く手を阻む。主力は向こうに向かってるからか、ここにはそこまでの魔物はいない。
「そこを……どいてえええ」
ユウナは鬼のような強さで敵を斬っていく。
一体一体は大したことがないが、数が多い。
「はあはあ、まだなの」
魔物が次々に襲い掛かる。
雑魚でも塵が積もれば山になるだ。
段々と、ユウナの体力が削られていく。
「私には、あなたたちに構ってる暇はないの――」
「大丈夫よ、そろそろ終わるから」
「うるさい!!!」
ユウナはいともたやすく敵を斬っていく。
そのたびに、ユウナとメリダの距離はどんどんと近づいていく。
そしてユウナが次の一撃でメリダを斬りされそうな距離に近づいた時、メリダがふと呟く。
「完成よ」
そしてユウナの目の前に、巨大な怪物が現れた。
巨大な角を持ったでかい怪物が。
「あははは。これが私の全力よ」
「あなたが私をこの世に生誕させたのか?」
「そうよ、そうよ」
「じゃあ死ね」
その言葉でメリダは押しつぶされそうになる。
だが、メリダは素早くよけた。
「なんで?」
「私は誰にも支配されない」
メリダは必死に魔法を当てる。だが、ミアはメリダへおろした手を全然止めない。
「ちい」
メリダはよける。だが、そんなメリダにどんどん近づいていくミア。
「私をなめないでよねええええええ」
メリダは激高し、巨大な炎を放つ。先ほどミアごとドラゴンを焼き尽くしたあの火炎級レベルのでかさだ。
「せっかく生み出したけど、とりあえず眠れえ。そのあとで封印するから」
メリダは炎球を全力で投げつける・
「ああ、さっきのあの球ね、前の持ち主なら聞くだろうけど、私に対しては効かない」
ミアの体を焼くことには成功するも、結果としてかき消されてしまった。
「く。きついわね」
ミアは膝をついた。
「や、やったわあああ」
「でも、それだけね」
「え?」
ミアはそのまま立ち上がり、無抵抗のメリダをつかんだ。
ダメージは追っているように見える。だが、行動不能には陥っていない。
かすり傷だけとは言えないが、重症までは負っていない。
「ば、化け物。そうだ、あれを――」
そう言い残して、メリダはミアに捕まれ、そのまま命を落とした。
「さあて、次はあなたね」
そう言ってミアはユウナに向けて拳を振り下ろす。
ユウナはそれを間一髪で避けるが、その拳は地面に突き刺さり、建物を倒壊させた。
(まずい)
ユウナは咄嗟にバリアを張り、建物から離れる。
「ねえ、ミアなの?」
「ミアと言っても私はミア・ハグルティスだ。……ミア・ハーグスではない。まあ、通称でミアと呼んでくれてもいいのだが。さて、お前は前の人格と仲が良かったようだな。そんなミアに押しつぶされるようでかわいそうにな」
「冗談だよね」
「冗談なわけあるか。お前は誤解をしているようだが、私はこの世に生誕し、魔王の代わりに世界を牛耳る存在だ。まずは手始めにお前を殺す」
ミアは空に飛び上がり、ユウナに向けて拳を何発も何発も放つ。
ユウナは間一髪で避ける、よける、よけるが、段々と体力が尽きてくる。
ミアを魔物にさせてしまったという失望感と、体力の消費の激しさによって。
そもそもユウナは連戦続きだ。
魔力もだいぶ減ってきている。
「はあはあ、一体どうしたら」
全く持って糸口がつかめない。
一体どうしたら勝てるのか、どうしたらミアを元に戻せるのか。
何しろ相手はあのメリダを瞬殺した女だ。
しかも、ミア・ハーグスの時に、つけられた傷も回復しきっている。
攻めたい、今すぐに何とかしなければならない。
ただ、ユウナは冷静だった。
今戦っても勝てるわけがない。
一旦引くのが賢明。
そう判断したユウナは走って撤退した。そして、
「大変。皆聞いて、ミアちゃんが捕らえられ、魔物化した」
その言葉はその場にいた全員に衝撃を与えた。
その中で一番最初に反応したのは、グレイルだ。
「っくそ、敵が増えるのか。仕方ねえ、やるか」
そう言ってグレイルはミアの方に駆け出す。
実際、もう魔物はだいぶ少なくなっており、数名抜けても何とかなる戦況だ。
「行くぞ!」
グレイルは剣でミアの頭上に飛び、剣を振りぬいた。




