第七十二話 襲撃
そして、Xデーとなった。
今日、攻め込む予定だ。
研究所は前回と位置が変わっていないと、密偵が調べてくれている。
という事はメリダはこちらを侮っていると言える。
こちらの襲撃を警戒するならば、場所を変えるはずなのだから。
そしてユウナの今回任務はメリダの討伐だけではない。メリダを捕え、組織の情報と、魔王軍に関する情報を吐かせることが一番の目的だ。
そうして、世界から組織による被害者を減らし、魔王軍の情報を聞き、未曽有の危機となる魔王復活を阻止する。
そして、あわよくば、魔物に変えられてしまった人たちを人に戻すという目的もある。
「今日は頼むぜー」
そう、あの日ユウナを助けた男、グレイル・ダクランディアは言った。
「はい、こちらこそ」
ユウナにとって命の恩人でもあり、その実力は牽制に匹敵するとユウナはその時に思った。
この作戦の重要人物とみて間違いないだろう。
そして、もう一人見知った顔が。
「よろしく頼むぞ」
ルベンだった。ユウナは肩に手を置かれてびっくりとする。
なんで、ここにイングリティアにいるはずの人がいるんだと。
「そりゃ、いるだろ。何しろギルド長の命令なんだから」
ウェルツが一応ギルド宛に手紙を書いていた。
組織とつながっている可能性があるという事を知らせるために。
だが、実際に動いてくれるとは思っていなかった。
「流石にギルド長はやらなければいけない用事があったみたいで、動けないみたいだがな」
そう言ってルベンは笑う。ルイスがいればどれだけの戦力となっただろうか。
だが、無い物ねだりはいけない。
ルベンが絶大な戦力になることは間違いない。
そして、ギルドからレナードが守備に加わっているらしい。守護の方へと向かったウェルツと合わせて守備は完ぺきとでも言えよう。
おかげで攻めにラバルディアの精鋭を使うことが出来るのだそうだ。
「さあ、今こそ魔女メリダに裁きを下す時だ。我が王国を踏みにじったあの事件を許せるわけがない。さあ、行くぞ!!」
その声に「おおお!!!!」と、怒号が鳴り響く。
早速攻めていく。だが、研究所に着いた時に、妙なことがあった。
「入口が封鎖されている?」
総大将のミルゲイユ・ウラグナーは呟いた。
その瞬間雷鳴が降り注いだ。
そしてその中心にいた兵士十名程度があと型もなく消滅した。
「馬鹿な」
ミルゲイユは叫ぶ。その周りには大量のミノタウロスがいた。
流石に数が多すぎる。
精兵部隊とはいえ一気に相手するのは厳しい。
「この前ねえ、ユウナちゃんたちにたくさん潰されちゃったから。改良したの。おまけにドラゴンまでいるわよ? さあ、行っておいで、みんな殺しちゃって!!! あははははははははははははははは」
狂女が笑う。その声にみんな顔をしかめる。
その叫び声は耳を貫くような荒々しい声だ。
「ぎゃははははあっはは」
なおも笑う女の声のせいでうまく連携も取れなく、さらには体の動きに不備が生じる。
これはまさに魔法でサポートしているのだろう。
如何せん、この状態だと、まともに戦うことなどできるはずがない。
ユウナは早速飛び上がり、声の発信元へ動く。
それはミアも同じ考えのようで、二人は一気にメリダに襲い掛かる。
「ふーん、そう言う事しちゃうんだね、死んで」
炎がミアの目の前に放たれる。
ミアは咄嗟に避けるわけには行かないと判断して、拳に魔力を込め、炎を打ち消す。だが、その瞬間ミアは空から叩き落された。
ドラゴンの襲来によって。
「主様狙うやつ、許せない」
「今度は樹海のドラゴンですか、お前は樹海で倒したはずなのです」
「倒しきれなかったから我ここにいる」
「それは知っているのです!!!」
ミアは拳を握りながらドラゴンへと向かって行く。
だが、ドラゴンの鱗に防がれ、ダメージはない。
ドラゴン単体ですら苦戦したのに、今回はメリダとセットだ。
メリダの攻撃を避けながらドラゴンを攻めていく。
大変な事だ。
ユウナはメリダと魔法の応酬を続けながら、ドラゴンの鱗を丁寧にはがしていく。
氷で弱らせることがドラゴン対策なんだという事は分かっていた。
だからこそ、風ではぎとりながら風を冷たくし、ドラゴンの体を冷やしていく。
鱗に熱いドラゴンは並大抵の冷たさでは動きを鈍らせることなどできないかもしれない。
だが、少しずつ体力が減っていく事を祈る。
「うざいな」
そう言ったドラゴンは口からほのおを吐き出そうとする。
「来た!!」
ユウナは氷の槍を生み出し、それをドラゴンの口の中に向けて一気に放つ。
炎のブレスに耐え抜かなければならないぶん難易度が高いが、ユウナの考察だと、このドラゴンは樹海の時にも思っていた事だが、守備力に特化しており、攻撃力はそこまでではない。
炎によって氷の槍は解けていくが、そこからが本番だ。
氷が一気に水に変化し、炎を貫き、ドラゴンの口の中に大量に入る。
その水でドラゴンは一瞬悶える。そして、ミアはその隙を見逃さなかった。
ミアはこぶしを握り締めて、一気にドラゴンに襲い掛かる。
勿論狙いは口の中だ。
「終わりなのです」
ミアの拳はドラゴンの体を内部から破壊していく。
外皮が硬いのなら内からだ。
どんどんと血が出てくる。
「小癪」
ドラゴンは我慢できずに、口を閉じようとする。だが、その瞬間にミアは手を上に突き上げる。
その影響で空ゴンの顎が外れ、苦しむドラゴン。
「これで終わりなのです」
とどめを刺そうとした瞬間、強大な炎がドラゴンを襲った。
無論、ユウナが放ったものではない。
メリダが発したものだった。
その炎はドラゴンの体を溶かしていく。
「なぜですか、メリダ様……」
ドラゴンは炎の中で苦しみ悶えながら脱出を図る。だが、いくら動けど、炎はドラゴンから離れない。
そしてそれは中にいるミアも同様だ。
ミアも同様に脱出しようとするが、炎にもだえ苦しんでいるドラゴンから抜け出す手が見つからない。
(いや、熱いのです。助けてほしいのです。ああ、熱い熱い熱い熱い。ユウナ助けてなのです)
そしてそのままドラゴンの口内で苦しみ、そして意識を失った。
(ミアを助けなきゃ)
ユウナはメリダを無視して一気にドラゴンに向かって行く。
ミアを助けるために。
ドラゴンごとミアを燃やすとは。
非常に徹した方が良いとはこのことを言うのだろうか。
ドラゴンの体は相変わらず猛熱に包まれていた。
その中に考えなしに突っ込んだら、ユウナも同じ目に合うのは自明だ。
だからこそ、ユウナはバリアで自分の体を覆い、そのままドラゴンの口内に突っ込んでいく。
(やっぱり熱い……!!)
バリアだけじゃ熱気を相殺できなく、肌から汗がだらだらと流れる。
早くしないと、脱水症状などにより、死へ近づく。
バリアを張っているユウナだってそうなのだから、ミアはもっとだろう。
時間をかければかけるほど、ミアの生存確率は下がっていく。
しかも、今はメリダを放置している。あいつが変な動きをしてくる可能性だってある。
「絶対助けるから」
そして胃の方へと向かって行く。そこには倒れているミアがいた。
「よし! じゃあ、」
と、ユウナは出口へと戻っていく。
だが、その間にも炎はどんどんと強くなっていく一方だ。
完全に消滅させるためにメリダが火力を追加しているのだろう。
「早く……出なければ……」
ユウナはミアを連れたまま何とかぎりぎりでドラゴンの中から脱出した。だが、その瞬間、ドラゴンが空中から落下した。
完全に力尽きたのだろう。
ユウナ達ももう少しそこにいれば死んでいたかもしれない。
そう思うと、ユウナはぞっとした。
ユウナはとりあえず水を生み出し、自分で飲み、そしてミアの体にも入れる。
あとは治療班に任せた方がいい。
早くしないと、メリダによって現場はもっと大変な事になる。
魔力総量の多いユウナが手助けに入らないと、
「よくもまあ、あれで死ななかったことねえ」
戻った瞬間ユウナはそう言われた。
「死ぬかと思ったけど、あれじゃあ、まだまだ不足してるよ」
「へえ、挑発するのね」
「もうドラゴンは使った。この前のドラゴンも、今は全力を出せない。……でしょ?」
ユウナ的な考察によれば、この前の戦いで深手を負ったはずのドラゴンはまだ回復しきっていない。
「でもね」
メリダは笑う。
「本気を出せないなら、無理をさせればいいじゃない」
そして、メリダは狂気的な笑いと共に、ドラゴンを生み出した。
「あははははは、貴方のお供が必死になって倒したドラゴンちゃんのコンティニューよ」
そしてメリダはユウナに向けて炎を出してくる。そしてそれに、ドラゴンのブレスも加わり圧倒的な炎としてユウナの方に向かって行く。
「私も、前までの私とは思わないでよ」
ユウナは炎を手から発する炎で相殺して、そのままメリダの方に向かって行く。
「ドラゴンを倒さなくても、貴方さえ倒せば、私たちは勝てるもんね」
「やれるものならやってみなさい?」
メリダは柄からつえを取り出し、それに炎を纏わす。
「古来から魔導士と言えば杖よね」
その杖の先端からどんどんと魔法が飛び出してくる。その魔法群をかいくぐりメリダのもとについても杖が飛んでくる。
「この前は杖を持っていなかったけれど、今は持っている。その事実に後悔しなさい。あなたの絶望の顔が私を喜ばせる。そして、貴方を実験台として使えば私は楽しいことが出来る」
下からの援軍は望めない。
確実に今自分一人で倒さなければならない。
魔力もそこそこ使っている。長期戦はだめだ。
今倒さなくては。
時間をかけずに奇襲する。これしかない。
「不意打ちとはいえ、ドラゴンを燃やしきる力、私にとって脅威になるという事は知っている。だからこそ、その力を逆手に取る」
ユウナは必死に考えてきた。
メリダに対抗できる方法を。
そして彼女が思いついた方法とは。
受けだ。
(これで、行く)
ユウナの取った手というのは、魔法を跳ね返すという事だ。
これにはかなりのためがいる。だが、それを悟らせることなく遂行出来たら焼却できる可能性もある。
「私ならいける」
ユウナは呟き、そのままメリダに向かって行く。
手に、跳ね返す魔法を構えながら。
向かって行くと言ってもただ率直に向かって行くわけでは無い。
含みを持たせる。
今のユウナの技術では跳ね返す魔法を用意しながらでは、小さい炎でしか出せない。ただ、その大きさを変えることはできる。
威力はしょぼいものになる。だが、かく乱には十分だ。
その炎の球をメリダはよける。だが、その隙に、上空に飛び上がる。
「うざったらしいわね」
メリダはイライラした様子を見せる。
「殺さない程度の魔力でええ」
雷がメリダの手に集約していく。
これはチャンス。
ユウナは、「放たれる前に止める!!」そう叫びメリダの方に向かって行く。
勿論、ブラフだ。
魔法をより近距離で跳ね返し、決定打を与えるための。
「これで終わりよおお」
メリダの魔法がユウナの方に向かっていく。
「待ってました!!」
ユウナはそう言って、反射魔法を使う。これで雷鳴を跳ね返せれば大打撃を与えられる。
「行けえええええ”!!!」
ユウナはゼロ距離で魔法を跳ね返し、その魔法がメリダ尾法に飛んでいく。
「ぬああああああ」
メリダは自身の雷鳴でもがき苦しむ。
「だけど、」
メリダはそう言って、一気に飛ぶ。
「これでやられると思う?」
そしてメリダが下に強襲する。煙と炎を地面にぶつける。
「まずい」
「あなたの相手はこれよ」
「っ、ドラゴン」
もうここまで来たか。
非常にまずい。
メリダは自分が相手をしなければならないのに、迂闊だった。
「あははははははっはは、この子は貰うわねえ」
その手に抱かれてたのはミアだった。
「すまない、ユウナ」
そう、ルベンが言う。
ルベンはそばにいたが、メリダの急な襲撃に対処できなかった。
「嘘でしょ」
ミアがさらわれてしまった。
また、ニナちゃんさらわれた……




