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完成体少女  作者: 有原優


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第七十一話 温泉

 

 そして、三人は食事所から出た。

 ウェルツはもうすでに結構な量を食べ、お腹がいっぱいになっている。

 しかし、真に驚くべきことは、ミアの食事量だ。

 恐らくだが、八人前は余裕で食べている。


 ユウナが思うに、最後のおばちゃんの表情は、まさかここまで食べるとは思わなかったと、少し選択を悔やんでいるようだった。


 まあ、そんなことはユウナの気にするところではないのだが、


「次はね、私の計画では」


 ユウナは地図を見る。

 次行こうと思っていたのは、軽いおやつと思っていたのだが、思わぬところでお腹いっぱいになってしまったので作戦を練りかえる。

 そうは言ってももう二時なのだが。

 そして、最終的にユウナが行こうと思った場所は、向こうにある温泉だった。


 そこで日々の疲れを癒そうという事だ。


「でも、ウェルツさんには悪いけど、一人になっちゃうね」


 流石に混浴なんてものはできない。

 男女分かれてしまう。


 だからこそ、元々の計画にはなかった。

 それに、そこそこの距離を歩く必要があるし。


「それは仕方がないさ」

「そ」


 そしてユウナはウェルツの手をぐっと引っ張り、


「じゃー、走ろう」


 そう言って走った。


「おい、なんで走るんだよ」

「楽しいからじゃないのですか?」


 ミアまでユウナに同意した。

 そんな二人にウェルツは今日何回目か分からないため息をこぼすのであった。



「しかし、結構歩いてないか?」


 ウェルツは訊く。

 もうすでに、三〇分も山道を歩いている。しかも、山道を。

 流石のウェルツの体力も尽きてきた。

 そして、それはユウナも同様にだ。


 最初は走りまくっていたユウナだったが、一〇分も走っていたら体力が切れてしまった。

 ……唯一体力が残っているのはミアだが、それは例外と言えよう。


「もう少しだよ。多分」


 ユウナが息切れしながらそう返す。

 山の頂上まであと少しという高さまで来ている。


「二人とも元気ないのです。もっと頑張るのです」

「お前が異常なだけだよ」


 そんな会話をしながら歩くこともう一〇分。ついに三人は温泉までついた。


 そして簡易的な更衣室で服を脱ぎ、中に入る。

 小さな温泉だが、イングリティアには温泉なんてなかった。

 その時点で、恵まれているのだろう。

 実はユウナは温泉という物に、軽い興味があった。

 異世界情報で知り、いつかは言ってみたいと思っていた。

 その念願がかなったのだ。


 入ると、体が温まり、気持ちが良くなった。


「ふう、気持ちいいい」

「そうなのですか?」


 ミアは疑問形で聞いてくる。


「え? 気持ちよくない?」


 ユウナにとって、夢にまで見た温泉だ。


「ちょっと熱いのです」


 ミアは、腰までしかつからない。


 実際この世界ではお風呂に入るなんて習慣はない。せいぜいたまに水浴びをするくらいだ。

 だからこそ、ミアにとっては少し窮屈なのだろうと、ユウナは思った。でも、


「長く浸かったら疲れが取れると思うよ」

「そう……なのですか」


 そう言ってミアは目をギュッと占めながらお風呂に肩までつかろうとした。


 ――可愛い


 ユウナはそう思った。

 そんなミアの頭をユウナは軽くなでる。


「何をするのですか!!」

「可愛いなと思って」

「気安く触らないでほしいのです」


 そうミアはそっぽを向く。

 だが、そんなミアの顔を見てユウナはまんざらでもなさそうだと思った。


 ――それにしても、本当に暖かい。だって、こんなの極楽じゃん。最高だよ。


 ユウナは足を延ばしながら幸せそうな顔をしている。

 苦痛そうな顔をしているミアとは真逆だ。


「もう、上がりたいの……です」


 ミアはそう言って思い切り立ち上がる。

 その際に、ミアの胸が軽く揺れた。


「あーあ、ミアちゃんはまだ子供なんだね。この良さが分からないなんて」

「うるさいのです。ただ、伸びをしただけなのです」


 ――あ、これ単純だ


 ミアの御し方を覚えたユウナはこれでもっとミアをいびることが出来ると思った。

 というよりも、一人でお風呂に入るのが寂しいからだというのが大まかな理由なのだが。


「そう言えば、ミアちゃんって異世界の情報とかないの?」


 そう言えばユウナにはあるが、ミアやミコトにはあるような気配すらない。

 現にミアは温泉のことについてよく知らなかった。


「異世界? 何のことなのですか?」


 やはり、異世界情報について知っているのはユウナだけだった。

 その事実にユウナは数回首を振り。


「なるほどね」と、呟いた。

 そもそも思い返してみれば、ユウナが異世界情報を知ってると言った時、ウェルツは驚いていた。

 そして興奮していた。


 つまり、その点においてはユウナが特異なのだろう。

 ただ、それも驚くことではない。

 筋力ではミア、魔法ではユウナ、回復ならミコトなど、完成体でもそれぞれ得意なことが違う。

 となれば、異世界情報の有無も当然の事だろう。


「はあ」


 新たな事を知れた。

 これをウェルツに伝えたら新たに完成体という実態について知れるかもしれない。


 ――よーし


「えい!!」


 ユウナはミアの脇をくすぐる。


「あ、何をするのですか」

「だって、シリアスな空気にしちゃったから」


 なんとなく空気が悪くなっていた。

 だからこそ、という訳だ。


「止めるのです」


 そう言ったミアに軽く跳ねのけられた。


 軽くと言ってもそれはミア基準だ。

 ユウナにとっては大きな力となる。


「痛い」


 跳ね飛ばされた衝撃で岩にぶつかる。


「わ、大丈夫なのですか」

「うん、ちょっと痛いけど平気」


 そう言ってユウナは軽い回復魔法を地震に賭ける。

 これくらいの物ならばユウナレベルの魔法でも直せる。


「えへへ」


 そしてユウナは軽くはにかんだ笑いを見せるのであった。





「はあ、気持ちよかった」


 ユウナ達は三〇分もの入浴ののち、温泉からあがった。

 そこにはすでにウェルツがいた。


「それはよかったな」

「ウェルツさんも気持ちが良かった?」

「ああ、疲れが吹き飛ぶようだったよ」

「それはよかった。ミアちゃんったら、すぐにあがろうあがろうなんて言ってくるからさあ」

「うるさいのです。だって、熱かったのですから、仕方がないのです」

「そうは言ってもなあ」


 三分おきに言ってたし。


「でも、ミアちゃんにとってもあれだけゆっくり浸かったのは良いことだと思うよー」

「まあ、確かにいつもと違う感じを味わえたのはいい事だとは思うのですけどね」

「じゃ、いいじゃん」


 そしてユウナは一つの便をミアに渡す。


「これはコーヒー牛乳だよ。飲んでみて、美味しいよ」

「なぜ、ユウナお前は知ってるんだ」


 そう言ってウェルツは手に持つコーヒー牛乳――すでに空になっている――を見る。


「だって、ここに連れてきたの私だし、それに異世界にも同じものがあるからさ」

「なるほど」

「だから、その異世界って何なのですか」

「まさか、ユウナお前」

「教えたって。でも、分かってくれないんだって」

「はあ、仕方ない」


 そう言ってウェルツは順序良く、分かりやすくミアに説明する。


「なるほど。……そう言う事なのですか」

「そ、私の方がミアちゃんよりも優れてるわけ」

「なんでそうなるのですか……まあ、いいのです。どちみち私の方が強いのは事実なのですから」

「あー、強がってるー」

「うるさいのです。事実なのです」


 そんな二人のも目を向こうから見てたウェルツが言う。


「それで、どうしてユウナには異世界の記憶があって、ミアにはないのかが疑問だな」

「それはやっぱり、完成体候補として違う能力をそれぞれ持ってるからだと思うよ。それに私が異世界情報知ったの、脱走の2日3日前だったもん」

「そう言えばそうだったな」

「あれはすごかったよ。見れなかったミアがかわいそうだと思えるくらいに」


 そう言ってユウナはミアをニヤニヤと見る。


「私はこれでいいのですよ。……少し気になるのは気になるのですが」

「気になるのは気になってるじゃん」

「そんなことは無いのですっ!!」


 だが、やはりミアは気になっているようなので、一先ず、マッサージ器具に乗りながら、ユウナが異世界情報を話す。


 そこでミアが一番気になったものと言えば、異世界のアニメ情報だ。


 ユウナの話すアニメの情報が面白過ぎたのだ。


「それで、どうなるのですか?」

「えっとね、最後はヒロインキャラが敵に寝返ったと見せかけて背後から邪神を討つの。でも、それでも邪神は倒れなくてピンチに陥るんだけど、主人公キャラがぎりぎりのピンチでヒロインの助けに入って。そして二人で力を合わせて邪神に勝つの」

「中々面白いのです」

「はは、ミアもユウナの話に興味津々だな」

「うるさいのです。別にユウナの話に聞く価値があったから聞いてるだけなのですよ」

「そう。興奮してたように思えたけど」

「それも気のせいなのですよ」

「気のせいねー」

「というか、いつ帰る?」

「そうだね」


 もうすでに時刻は六時を回っている。そろそろご飯が食べたくなってきたところだ。

 降りるのに軽く見積もって三〇分はかかる。

 となればもう、下山した方がいい。


「じゃあ、降りよっか」


 そして、三人は町を降りる。が、


「ミアちゃん……」


 下りの急な坂を元気よく降りていくミア。

 正直言えば、ある意味下りの方が危険だ。

 何しろ転ぶリスクが格段に高まる。

 ミアの身体能力でもそれは避けられないだろう。


「ゆっくり、こけないでね」

「うるさいのです」


 ミアは止まることなく、どんどんと、鬼のようなスピードで坂を下っていく。


 だが、やはり恐れてたことが起きてしまった。

 あるところまで行った時に、遠くから「きゃ、うわあああああああ」という声が聞こえたのだ。


 ――やっぱり転んだ……


 ユウナとウェルツは少しスピード――こけない程度の――を上げ。坂を下る。すると、地面にうずくまっているミアを見つけた。

 ほとんどけがはないが、皮がむけている。


「ミアちゃん、大丈夫? 歩ける?」

「うるさいのです。歩けるのです」


 そう言って立ち上がり歩き出す。

 ミアもユウナと同じ完成体。

 拷問によって痛覚耐性はできているのだ。


「今度はゆっくりね」

「言われなくても、そうするのですよ」


 そうミアは言い張る。

 だが、言葉とは真逆に、その(あゆ)みはゆっくりだ。

 ユウナは一瞬おちょくろうと思ったが、ミアの表情を見てやめた。

 少し怖がっているように見えたのだ。



 その後は三人でゆっくりと坂を下りた。



 そうして、七時に王宮へと戻った三人。


「どうして私もつれて言ってくれなかったの?」


 早速ユウナはミコトに詰められる。


「私も行きたかったのに……」


 その言葉を聞いて、ユウナに軽い罪悪感が芽生えた。

 思えば、ミコトを誘うのを完全に忘れていたのだ。

 というよりも、ミアが合流したこと自体が、イレギュラーなのだが。

 しかし、それは言い訳にはならない。

 ミコトを置いて出かけてしまったのは事実なのだから。

 そう思ったユウナは、


「ごめんなさい。この埋め合わせはまた今度するから」


 そう言って頭を下げた。


「今度は二人で出かけよう」

「本当? 絶対だよ。約束ね」


 そう言って二人で握手をした。

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