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完成体少女  作者: 有原優


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第七十話 お出かけ

「ウェルツさん、デートしようよ」


 とある日、ユウナはウェルツにそう言った。


「俺は訓練しなければならないんだ。だから――」

「えー、最近ウェルツさんと絡めてなくて嫌なんだけど。それに、ラバルディアの街も全然観光できてないし。……お願い」


 そう、ユウナは上目使いでウェルツに頼む。


「……分かったよ」


 ウェルツは仕方がないなと言って、ユウナを連れて町にでる、


「わあ、ねえねえ活気があるね、すごいね」

「テンション高すぎるだろ。少しくらいはおさえておけ」

「えー、いいじゃん。せっかくのお出かけなんだからさ」


 そう言われるとウェルツも調子が狂う。


「仕方ないな」


 そう言ってウェルツも笑うのであった。

 そうして街にでると、イングリティアとはまた違った景色が見られた。

 活気があるのは勿論そうなのだが、イングリティアと人の様相がまず違った。

 イングリティアの民に比べ、ラバルディアの民は陽気な人が多いと言った様子だ。

 だからこそ、このように明るい市場ができるのだろう。

 皆楽しそうで、皆それぞれ顔見知り知りみたいな感じで、仲がよさそうだ。


「ウェルツさん、そんな気難しい顔をしないで、どんどんと見て行こうよ!!」


 そう言ってユウナはウェルツの手を引っ張る。

 そして、早速「これが欲しい」と、ユウナが言った。

 彼女が指さしたのは焼き鳥だった。

 鳥の皮を焼いて、塩で味付けをした、単純な料理だ。


 ユウナたちはそれを買い、一串食べる。


「美味しい……!」


 ユウナは満面の笑みを浮かべる。

 幸せそうだと、ウェルツは思った。


「ねえ、これ無限に食べられるよ」

「確かに美味しいな」


 味はイングリティアの物よりも若干塩っぽいが、十分に美味しいと思える味だ。

 むしろ、ウェルツ的にはこれくらいの味の方が美味しいと感じる。


「お代わりしようよ!!

「あまりここで食べすぎてもいけないだろう。別のところで食べるぞ」

「えー」

「えーじゃない。我慢していろ」


 ――しかし、やはり少し高いな。

 全部がイングリティアに比べ、数十ゴールド程度高くなっている。

 恐らくメリダの魔物の襲撃が過熱しているせいで、食材が手に入りにくいのだろう。

 あの日以来、魔物の襲撃はひとまずは治まってはいるが、またいつ来るかは分からない。



「またウェルツさん、難しい顔してるー。今日はオフなんだから楽しまなきゃだめだよ。行こうよ」

「あ、ああ」


 ウェルツは自分には考えすぎる癖があるなと思いながらユウナの後をついていく。

 その間もユウナはどんどんと買い食いをしていく。

 それに、ウェルツも突き合わされ、だいぶお腹がいっぱいになった。


「それで、今日来たかったのはここなの」

「ここは……」


 そこはこの国随一の興行施設。


 そう、魔法を使ったサーカスだ。


「ここね、前から予約してようやくとれたんだ。たまにはこういうのもいいと思って」


 祖言って笑うユウナにウェルツは「ああ、そうだな」と、返す。



 席に座ると、会場はすでに大盛り上がりしていた。

 まだ、始まってすらいないのにだ。


 それほど皆楽しみに待っているのだろう。

 それを見てウェルツも段々と興奮してきた。

 ああ、自分はこれを見に来ているのだと。


 それはユウナも同様だ。



 数週間前、ウェルツが落ち込んでいた時にウェルツとのデート計画を考えていたのだ。

 その際に目についたのが、まさにここという訳である。


「ねえ、楽しみだね」

「ああ、そうだな」


 そうしてサーカスが始まる。

 その光景はユウナにとってもウェルツにとってもいい光景だった。


 それぞれの人が魔法を使ってショーを見せてくれる。

 例えば魔法を撃ち合い、綺麗な花火を見せたりとか、魔法で物を壊す爆撃ショーなど。

 本当に来てよかったと思えるものばかりだ。


 そして、サーカスが終わった後。


「ウェルツさんどうだった?」


 ユウナは訊く。


「よかった」


 ウェルツはそう頷く。


「今日はここに来れてよかった」

「うん私も!!!」


 そして二人は手をつなぎながら帰ろうとする。


「あ、ユウナ」


 すると、向こうから見知った声が聞こえる。


「二人もお出かけしてたのですか」


 そう言うのはミアだ。


「ミアちゃんもお出かけしてたの?」

「だって、ユウナが外に出かけてたのですから」

「え?」

「一人だけずるいと思ったのです。宮殿にいてもあの人がうざかったので、出かけたのです」

「なるほど……」


 そう言ってユウナはミアが手に持っている鳥を見る。

 沢山食べた後の九市があるのにもかかわらず、まだ一〇本以上がある。


「欲張りだね」

「大丈夫なのです。これでもまだまだ食べられるのです」

「化け物だね」


 ユウナはすごいと思った。だあ。そんなユウナに対してウェルツは「お前もすごいんだけどな」と、言った。実際ユウナもミアには勝てないものの、管理の量を食べていた。

 人のことは言えないとウェルツは思う。


「まあでも、せっかくだから一緒に歩く?」

「はいなのです」


 ユウナはウェルッとつないでいない方の手をミアに差し出す。


「これは?」

「手をつないだ方が楽しいでしょ」

「むむ、まあいいのです」


 ミアは一瞬葛藤したもののすぐにつなぐ。

 そして三人仲良く手をつなぐ。

 そんな時だった。


「ひったくりよ」と叫ぶ声が聞こえた。ユウナがその声の発信元を見るとおばちゃんがいた。

 そして、その目先を見ると、盗人が恐ろしい速さで走っている様子が見えた。


 なんだか、イングリティアでも、こんな事件あったなと、ユウナは少しだけ興奮する。

 そしてユウナは追おうとするが、先に動いたのはミアだった。


「待つのです!!」


 そう叫び、全速力で走っていく。


「あ、うん」ユウナはそう軽く首を縦に振り。


「死んでないと良いけど」と、呟いた。

 勿論ミアに対してではない、盗人に対してだ。

 そして、三十秒もしないうちに、「捕まえたのです」と言いながらミアが走ってくる。


「殺してはないだろうな」


 ウェルツは心配そうに言う。


「私を信用するのです。勿論殺してなんていないのです」


 そう元気に言う。盗人は気絶しているだけに思えた。

 それを見てウェルツとユウナはほっと胸をなでおろした。


 そして、衛兵に突き出すように頼んだ後、ウェルツとユウナはその場を後にしようとした。

 別にその場に留まって賞賛を貰ってもいいのだが、なんとなくそれもむずかゆい。


 だが、二人が立ち去ろうとする前に、おばちゃんは言った。


「ありがとう、本当にありがとう。お礼にうちでご飯を食べていかない? 勿論ただで」


 その言葉に対してユウナとウェルツは断ろうとしたが、その前に。


「是非食べたいのです」と、ミアが言ってしまった。



 ★★★★★


「はあ、美味しいのです」


 そう言ってミアは目の前の肉をパクパクと食べる。


「実はあれにはたくさんのお金が入っていたもので、取られていたら明日の路銀にも困ってたかもしれなかったわ」


 そう言ったおばちゃんに、ミアは、


「それなら私がいて本当に良かったのです」と言った。


「それにしても、貴方は食べなくてもよかったんですか?」

「俺は、お腹いっぱいなので」


 ウェルツの前には何も置かれていない。

 ただ、ウェルツのその発言は遠慮ではなく本心からだった。


 すでにユウナの買い食いに十分付き合い、お腹はいっぱいだし、


 ユウナは一人分を味わいながら食べている。

 ミアは三人分くらいをパクパクと食べている。

 何より、そんな二人に合わせるのはもう無理だった。


「でもさ、このお肉本当においしい。今日食べた料理の中で一番だよ」


 流石にお世辞でも王宮の高級料理よりおいしいとはいえないが、町で一市民がやっていると考えれば十分美味しい。

 今日食べた料理で一番だろう。


「ねえ、ウェルツさん」

「どうした?」

「一口あげようか?」


 そう言ってユウナは肉を一つ差し出そうとする。が、ウェルツは「いや、大丈夫だ」と、断った。


 だが、その時ウェルツが感じたのは向こうにいるおばちゃんだ。

 もしここで一口も断ったらおばちゃんに悪い。

 そう思い、「やっぱりもらうわ」と言った。


「なんだよ。やっぱりもらうのね」


 そう言ってユウナはフォークをウェルツの方に持っていく。


「あーん」と言いながら。

 それを聞き。ウェルツは顔を真っ赤にした。

 ユウナは精神年齢がまだ幼いとはいえ、一六歳。

 そこからのあーんは普通に効く。


 ウェルツとしてはユウナのことは恋愛対象として見ているわけでは無いのだが……。


「いや、自分で食べれるよ」

「いや、あーん」


 ウェルツはそのユウナを見て、にやにやしているなと思った。


 ★★★★★


 だって、こんな機会なんてないでしょ。ウェルツさんをいじる機会なんてさ。

 明らかに動揺しているウェルツさん。

 普段クールぶってるけど、でもウェルツさんっていじってて楽しいから。


「ほら、あーん」

 ウェルツさん顔を真っ赤にして何かを考えてる。

 絶対照れてる。


 もっといじりたいけど。

「あれ、あーんに照れてるの?」とか、「ドキドキしてるの?」とか。

 でも、それはなんとなくウェルツさんに悪い。


 それにウェルツさんは恋人なんかじゃなく、私の親みたいなものだから。


「はあ、おとなしく受け取ってよ」


 そう言って、逃げるウェルツさんの口にえいっと突っ込んだ。


「どう? ウェルツさん」

「美味しいな」

「でしょー!! 食べなきゃ損だって」


 そして私はもう一口ウェルツに差し出す。

 ウェルツさんにはこの味をもっと味わってもらわないとね。


「いや、もうお腹いっぱいなんだが」

「そう言わないでよ。ほら、あーん」


 お腹いっぱいでも、味わってほしい。

 それにこれは先程とは違い、魚のフライだ。

 とりあえず、この全種を食べさせないと気が済まない。


「わ、分かった」


 しぶしぶだけど、ウェルツさんは私のフォークをつまむ。


「美味しいけどな」


 そしてウェルツさんはそう呟いた。


「お代わりなのです」


 そして、ミアのその声が響くのであった。

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