第六十九話 会議
その後、会議に出席しあった内容を話した。
「魔物使いのメリダ。奴がこの事件の首謀者か」
「知ってるの?」
「ああ、この国で30年前に王宮の研究所に勤めていた女だ。奴はこの国をはるかに発展させる基礎を造り、魔術の教科書なるものを造り、この国を豊かにした。所謂偉人的な人物だ。だが、ある時に彼女の本性が発覚した。彼女の研究所と国に申請されていたものは実は偽物だったのだ。本当の研究所は別の場所にあり、そこでは恐ろしい実験が行われていた。所謂人体実験だ。当時の為政者はそれをとがめた。非人道的だと。だが、メリダは言ったのだ。そんなもの知らないって。魔術の発展には犠牲が必要だって。それからロランと言う男と手を結び、メリダはこの国を襲い、多くの人たちを誘拐した。二人ともに逃げられ、捜査は難航したが、それから二年後、研究所を発見し、彼女を打つための討伐隊を軍の主力三〇〇名で組んだ。その結果彼女は死――」
「死んだって、じゃあ今ここにいるのは?」
「分からん。ただ、魔王軍とつながっているという事はそう言う事である可能性が高い。我々はロランを軍に引き入れるというイングリティアの言葉には反対したんじゃ。やはり奴は危険だった。っと、いらん話をしたな」
ロランのことは置いといて、
メリダは、魔王軍に肉体を復活させられ、今も魔王軍に忠誠を誓っているという事。
「あの一〇年前の討伐戦。あの時執拗な粘りによって三〇〇人中一二七人が戦死した。主力が討伐隊に加わっていたのと、もうロランがいなかったのにも関わらずな。……奴は恐ろしい。それが魔王軍と手を組んでいるという事は更に危険な存在になっている可能性が高い。今回も一筋縄ではいかないだろう」
その言葉の意味をシンプルに受け取るなら、生きて帰れたのが奇跡と言ったところか。
「それでこれからどうする?」
ウェルツが訊く。
勿論このまま放置していたらまた被害は拡大するだろう。
今のうちにメリダを捕獲し、さらにあわよくば魔王軍に関する情報を集めたい。
「後日討伐隊を送りたい。全軍全部を送り込むつもりだ。だが、そうなっては他国からの襲撃を受けるかもしれない。他国と協議をする時間が必要だ。少なく見積もっても二週間後、その時に討伐する。皆さまはゆっくり休んで英気を養なってほしい」
その話を聞いた後、ユウナ達はいったん部屋に戻る。
だが、その前に、「ユウナ、一つ伝えておきたいことがある」そうウェルツが言った。
「今回の件、恐らく組織も一皮からんでいる」
「それってどういう?」
「組織にいたときに資料を呼んだことがあるんだ。金の流れがあったんだ」
「でも、魔王運を足すために組織はあるんでしょ? 確かにどっちもゴミで同じだけどさ、目的は違うじゃん」
「そうとも言えない。互いに利用し合っているんだろうな。ともかく、動機は何にしろこの事件で組織も出張ってくる可能性があるという事を伝えたかっただけだ。それに、ミアがさらわれた後、組織に送り込まれていたという事になるからな。こうなっては魔王軍と、メリダと、組織が混ざり合っていてよくわかってはいない。ただ、両者とも関わってくる可能性がある。今回の件は互いが利用し合っているみたいだからな」
ユウナにとってはまた悩ましいことになる。少なくとも、状況が複雑すぎて理解が追い付かない、
ただ、唯一吉報となるのは、ユウナにとってメリダをたたく理由が増えたことだ。
これで、組織にも大打撃を与えることが出来たなら、何よりも嬉しい戦果となるのだ。
「ねえ、討伐に向かうまで三週間だよね、今日はウェルツさんの部屋で寝ていい?」
「ああ、いい……ん?」
「いいよね」
戸惑うウェルツに対してユウナは全く遠慮をしない。
結局ウェルツはユウナの申し入れを受け入れた。
★★★★★
「ねえ、」
マリアがミアに話しかけた。
「今度の襲撃、危険な物になるのでしょ、行かなくてもいいんじゃないの?」
その言葉は悲壮感が出る。
実際ミアは今回魔物に変えられても仕方がなかった。
それにこれはマリアが知らないことだが、ミアがもし覚醒へのステップを踏んでいたら今度こそ戻れなくなっていた可能性が高い。
その点でマリアのその言葉は親として当然なるものだ。
だが、
「いやなのです。私は絶対に向かうのです」
ミアはきっぱりとそう言い切った。
はた目で見ても自信のあるよどみなき目だ。
その目から絶対に引き下がるつもりがないという事を示している。
「やっぱり、王様にならなくてもいいから、戦地から離れた場所で、安全に暮らしましょうよ」
「私は、そんな事絶対にできないのです。私は、私は! ユウナ達と一緒に戦う。それが私のしたい事、それができるのなら死んでも後悔なんてしないのです」
「あなたは、生き別れの娘。生きててほしいと思うのは、親の我儘ですか?」
「私にとってはただの他人なのです」
ミアはそう言って部屋に入っていく。
所詮親と勝手に名乗る赤の他人、そんな人に気を遣う義理などない。
「私は、私の道を行くのです」
ミアは部屋でボソッと呟いた。
「ああ、なんで、なんで」
マリアにとっては認め互い。
別に娘をコントロールしようだなんて気持ちはない。
ただ、
「幸せになってほしいだけ」
そうボソッと呟いた。
★★★★★
「ウェルツさん、強くなりたいって言ってたでしょ?」
ユウナは布団でそう呟く。昼に行っていた出来事が気になっているのだ。
「ウェルツさんも完成体に慣れるならなる?」
「いや、それはお断りだ。お前たちには悪いけど、あれはリスキーなものだ。強くなると言われても絶対になろうと思えるものじゃない。ただ、最近思ってしまう。完全なる足手惑いになっていると、このままでは役に立てていないと。元からわかってはいたんだ。ユウナの進化を見続けていつか完全にユウナ達の役に立つことは不可能になるんじゃないかという事にな。これでも必死に戦闘の勘を取り戻そうと苦労してきた。だが、いつの間にかおいていかれている。だから本当に思うよ。俺にはお前たちと一緒に戦う資格はもうなくなっているって」
もう、ユウナも自立している。
そして先の戦闘では、ウェルツを助け出したせいでピンチに陥り、そして助け出されたことによる働きがウェルツに出来ていたとは、ウェルツには思えなかった。
「……もう、ウェルツさんってば!!」
ユウナはウェルツに思い切り抱き着きに行く。
「ウェルツさんと一緒にいる理由なんて、一緒にいて楽しい殻しかないでしょ。それにね、ウェルツさんと一緒にいると、私も熱くなるんだ!! 頑張らないとねって。勿論ウェルツさんが戦いたくないならそれでいいけど、私としてはウェルツさんと一緒に戦いたい!!」
「そうか」
ウェルツはユウナの頭を優しくなでる。
「ただ、俺も戦うには新たな力が必要だ。それは分かっているんだ。だが、その方法が分からない。俺にはどうしたらいいのかも」
「疑問だけどさ、ウェルツさんって、私の村を滅ぼしたんだよね?」
「あ、ああ」
「その時にさ、邪魔って入らなかったの?」
「邪魔は入った。だが、俺が全員殺した。援軍の国軍の連中をな」
そう言うウェルツの顔は深刻だ。
「その時のウェルツさんって、強かったの?」
「ぞりゃ、今よりははるかに強いはず」
「その強さを取り戻せないの?」
「あの強さか……」
ウェルツは考え込む。
「確かあの時は、俺もある薬を投与されてたな」
「薬!?」
薬という響きには恐ろしいものを感じる。
もしや、体に害をなす危ない薬なのかとも。
「大丈夫だ、ユウナ。体には害のないはずだ」
「はずって……」
そんなこと信用できない。組織なんて疑わしいことしかない。
もし仮にそれが万が一にもそんなはずがない。
「俺は、待てよ」
ウェルツは考え込む。何かを思い出したみたいに。
「そんなことがあり得るのか?」
「どういうこと?」
「薬の効果の事だ。確か組織のあれは死薬品と言っていた。という事は……」
ウェルツはカパッと起き上がった。
「もしこれが本当なら、俺は……」
意味深なことを呟くウェルツ。ユウナはその顔をじっと見る。
「俺は、あの力をまた出せるかもしれない」
ユウナはそのウェルツの顔を見て、これは少しまずいと思った。
この顔は何か良からぬことになると。
「ウェルツさん、それは命を削るようなことではないよね?」
命を削る。
組織に関係する薬なら、命を削って力を発揮する薬な可能性もある。
「大丈夫だ。そんなものではないはずだ」
「ウェルツさん……」
「れは死なないから大丈夫だ」
そう言ってウェルツはユウナをそっと抱きしめた。
ウェルツはその翌日広場に来た。
念のためユウナとミコトを連れて。
「じゃあ、行くぞ」
ウェルツはそう言って力を込める。すると、体から紫色のオーラが出た。
「はは、今まではこんなことなかったのに、実感したらだ。なるほど、俺にはこんな力が隠されていたのか」
「ミコト」
「うん、お姉ちゃん」
ミコトはウェルツの体を見る。すると、体から生命エネルギーがあふれ出すのが見えた。
「だめ!!!」
ミコトは叫ぶ。
「それは身を殺す力。絶対にダメぇ」
ミコトのその言葉を聞き、ユウナは動く。今のウェルツは自我があるようには見えないのだ。
そして、ウェルツに水の球を当て、その中で息をできなくする。
すると、ウェルツはすぐさま意識を失った。
「だめかあ」
ユウナはそんなウェルツを見て呟く。
やはり異世界の漫画みたいに急に力を得ることなんてできないのだ。
ただ、今はとりあえずウェルツの体調が心配だ。
ユウナはウェルツを運んで部屋に持ち帰る。
「ここは……」
部屋でウェルツが起き上がろうとする。が、
「っ、なんだこの痛みは。それよりも新しい力は……」
「失敗したみたい」
ユウナが躊躇なく言う。
「そうか……」
ウェルツは悲しそうな顔をしている。
無理もない、自身の力を開放するための秘策が経った今失敗に終わったのだから。
「そう落ち込まなくてもいいよ。ウェルツさんは十分私の役に立っているのだから」
「それは分かってる。だが、」
ウェルツは相変わらず悩んでいるようだった。
ウェルツには魔法が使えない。正確には魔法は使えるけど、日常生活レベルだ。
決して戦闘に応用できるレベルではない。
とはいえ剣だけだったら自分よりも上がいる。
つまり一芸に特化しているが、その一芸でトップ層なんて遠いという形だ。
「俺は……戦闘に参加するべきではないのかもしれない」
全開の戦闘でも思ったが、ユウナはウェルツに対して死んでほしくないと思っているという事は分かる。
そしてウェルツを開放しなければもっっと早く逃走することが出来た。ピンチに陥らなかった。
ここからは自分の我儘など通らない。
どこぞのモブだったら死んだとしてもユウナが我慢できることは知っている。
戦争時に人の死にはられているのだから。
「ユウナ、俺は守備側に回る。三人で言ってくれ」
そう言うウェルツ。
「分かった」
ユウナはそのウェルツの言葉に対し、こっくりと頷いた。
元々攻め込むとは言っても、守備側も大事だ。
攻めている間に反撃を喰らい、国が落とされれば元も子もない。
たいそう面倒くさくなる気がする。
そしてその日からウェルツとユウナの行動は二分された。
ウェルツは個で剣術のトレーニングを受ける。剣のトレーニングを受けて、剣を振りまくる。
事実、イングリティア王城では捕らえられていたので、自分だけトレーニングなんてものはできなかったのだ。
師を見つけ、その場でトレーニングを受ける。
ユウナ達に追いつくために。




