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完成体少女  作者: 有原優


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第六十八話 逃走2

「ウェルツさん!!」


 ユウナはウェルツの檻の方に向かう。


「そう簡単にはいかせないわよ」


 鬼の形相で向かってきているメリダ。

 早く解放しなければ。

 ユウナは急いで檻を壊し、ウェルツに手を貸す。


「ユウナ、すまんな、ありがとう」

「お礼は後、今はとにかく逃げなきゃ!!!」


 ユウナがそう叫び、ウェルツの手を引っ張る。


「ふふふふ、もう逃げられないわよ」


 だが、ウェルツを開放するのに有したその時間。

 メリダがユウナの元へたどり着くのに十分足る時間だった。


「あはははっはは、逃げ道はないわよ。また私の元へと来なさい」


 そう叫ぶメリダ。


 嫌だ、戻るわけがない。


 ユウナはメリダの放つ攻撃をぎりぎりで受けていく。

 この場にはもう魔物はいない。

 となれば重要な相手はメリダだけ、そのメリダも生かして捕えなければならないという制約のせいで本気はそうやすやすとは出せない。

 これが近接パワータイプなら、締め付けて意識を失わせるだけでいいのだが、メリダのような魔導士だと、手加減して魔法を放たなければならない。


(行ける)


 ユウナはメリダが魔法を放った一瞬の隙を踏んで、必死になって走り出す。



「ウェルツさん、このまま右奥の小道に入るよ」


 ユウナが指さしたのは、小さな小さな道だった。そこに転がり込めば何とか助かるかもしれない。

 だが、道が続いている保証もない。


 これは一種の賭けだ。

 道が続いていれば生き、続いていなければ死ぬだけだ。



「メリダ、貴方にとってはこんな狭い道で魔法を放つわけには行かない。だって、私が死んだら困るからね。悔しかったらこっちにおいで、この魔法が怖くなかったらね」


 ユウナは挑発する。

 向こうは殺せない、自分は殺せる。

 その壁は大きい。

 結果、横道へは追ってこなかった。


(これで行き止まり説は亡くなったけど、待ち伏せされている可能性があるよね)


 という事は急がなければならない。

 ユウナはウェルツを連れて勢い出口に向かっていく。


 そしてその先に光が見える。

 ここさえ抜け出せれば勝ちだ。



「ねえ、なんでいるの?」


 目の前にいたのはドラゴンだった。

 ドラゴン、前戦ったのよりははるかにでかいドラゴン。

 元来ドラゴンとは、一体で国を半壊させられるほどの力を持つ。

 あのアーノルドや剣聖でも止めるのは難しいとされている。

 そんな敵が目の前だ。

 そしてちょうどミアが戦っている。

 この前と同じ展開だ。


「ユウナ、助けてほしいのです」

「分かった。メリダは来てる?」

「向かってくる気配を感じるのです。早くしないとだめなのです」

「分かった」


 ドラゴンは絶対に倒さなくてはならないわけでは無い。

 その力は甚大だが、隙もも大きい、戦っていけば逃げる隙も生まれるであろう。


「行くよ」


 ユウナは牽制とばかりに炎をドラゴンの頭にぶつける。

 今回は倒すことが目的じゃない。逃げることが目的だ。

 後ろに迫ってきているメリダも警戒しなければならない。


 ドラゴンはあまりダメージを受けていないようで、ユウナを見てギヒッと笑った。


「メリダ様のために再び牢に送る」

「黙れなのです!!」


 ミアの拳がドラゴンに直撃する。しかしダメージを受けない。


「あの時と同じなのです」


 鱗をはがさないとダメージが入らない。隙を作るためにはダメージを与えないといけないのに。

 そんな時ユウナははっと考え、空に炎を打ち上げる。

 これには二つの意味がある。一つは狼煙の意味、もう一つは、空から火を落として木々に火をつけるという物だ。


 そして森が燃える。


「ウェルツさんミアちゃんミコト行くよ!」


 ユウナはそう叫び、火の間をバリアで囲いながら逃げる。


「火の中だったら、視界が悪いから追ってこられないかなと思って」

「流石ユウナだ」


 ウェルツはどや顔で言うユウナに対して、ほめる。

 その言葉でユウナは上機嫌になる。

 だが、それもつかの間、後ろにはメリダが追ってきていた。


「はあはあ。逃がさないわよ!!!!」


 そう叫ぶメリダ。火は激しく、ユウナの魔法で空気を洗浄しないと死ぬような一酸化炭素の量だ。

 だが、メリダもやはりは魔導士、魔法の心得はある。


(町まで逃げきれたら私の勝だけど、如何せん遠い。それに、はぐれないようにメリダから逃げきるには……)


 打てる手が少ない。メリダをここで叩くのも手だが、情報が少ない分、戦っているうちにドラゴンまで来るかもしれない。


「待てよおおおおおおお」


 鬼気迫る。その勢いは衰えない。少しずつ追いつかれる。


「戦うのです」

「だめ、危ない。それにもうすぐ出口のはず」

「私もお姉ちゃんに賛成。数が違いすぎるし」

「うぅ」


 総すかんを喰らい凹むミア。

 だが、そんなミアを横目にユウナは「見えた、出口!」そう叫ぶ。

 そこには町があり、複数人の兵士がいた。ユウナはその一人に。


「援軍を呼んで。今から戦争になる」


 そう言った。そして森から出てくるのはメリダ、そしてその雑兵。


「早く!!」


 ユウナがそう叫ぶと、すぐさま兵士は駆け出して行った。


「さあ、ここで、終わらせてあげる。メリダ!!」

「ふふふふ、コテンパンにやられた癖に何を言ってるのかしらあ? ミノタウロスたちよ、行きなさい」


 ミノタウロスたちが一気にユウナに襲い掛かる。ユウナは即座に地面を氷にしていく。

 ミノタウロスの後ろに待っているのは、火の森。逃げれるはずもない。


「さあて、足場を奪った後は、」


 ミアが駆け出している。そしてそのまま足場の不安定なミノタウロスに上から攻撃を加える。


「このままいくのです」


 ミノタウロス一体を地面に叩きつけた後、ユウナが追撃とばかりに水の激流を放つ。その水がミノタウロスを吹き飛ばして森の中に追い込んだ。

 そのミノタウロスは森の炎に焼かれていく。


「よし、まずは一体なのです」

「なるほどねえ、でもこの子もいるのよ」


 そこにドラゴンが現れる。一番の難敵だ。


 状況は依然最悪。援軍のみが頼みの綱だ。

 だが、この国にはもともと援軍としてきた身だ。

 そこまでの戦力を送れるのがが問題だ。他のところにも魔物が来てて軍を出せるのかが問題。


 だけど、ここにいるのがほぼ確定で首謀者、魔王軍と手を組んでいる人物だ。

 援軍なんて出せなくても出してほしいところ。


 目の前にはドラゴン一体と、ミノタウロスが9体だ。


「俺も行くぞ」


 ウェルツが走りだす。それを見てミコトがウェルツの行く道に足場を作り出す。

 そしてミノタウロスに攻撃する。その間にユウナが氷をミノタウロスの後ろに作り、逃げ道を防ぐ。

 ミノタウロスが逃げ出す隙にユウナは攻撃を加えた。


 これで二体だ。


「あははははは、これだけかしら? これで二人やられたけど、まだ八体いるのよ。一斉にかかりなさい。そして息の根……はだめね、心を折ってあげなさい!!!」


 再び向かってくる魔物達、今度は一斉にだ。

 ユウナは一旦大きな壁を自身とミノタウロスの間に作る。だが、ドラゴンの拍炎であっさりと溶かされる。


 あそしてドラゴンのかぎ爪がユウナを襲う。ウェルツが間に入りユウナへの直撃を防ぐが、その衝撃でウェルツが吹き飛ばされる。そのウェルツの体から血がだらだらと出てくる。

 ユウナもウェルツが気になるところだが、この隙を生かさないと、ウェルツの頑張りが無駄になる。


 ウェルツが作ってくれた一瞬の隙を使い、咄嗟に後ろに下がる。そのおかげか、二撃目をぎりぎりで回避できた。

 そして、そのままゼロ距離で氷の槍をぶつける。

 その間にドラゴンの攻撃が再び飛んでくるが、そこは大丈夫。ユウナには向かってくるミアの姿が見えた。


 そして次の一撃はミアが受け止め、その間にユウナは更にドラゴンに氷の槍を突き出す。その氷の槍が刺さり、ドラゴンは軽く痛がる。


 氷の槍、これは効くんだ。そんな中ユウナはそう言えばドラゴンは氷に弱かったことを思い出した。

 これならと、ドラゴンの足元にさらに低温度の氷を突き詰める。


 そして、ドラゴンの体温を奪った後、氷の槍を持って自ら突撃する。


 まずは先にミアが攻撃を加え、その隙にユウナが氷で指す。


 だが、その攻撃はメリダの炎によって防がれる。



「やだもう、私の存在を忘れないでよ」

「メリダ」

「もう、これ以上殺されたくはないもの」


 そして、魔法がビュンビュンと空から降ってくる。

 この化け物じみた魔力量。魔力切れは期待しない方がいいだろう。


 ミアとユウナはよける。だが、一瞬回避行動が遅れたミアとウェルツは攻撃を喰らう。


「うぅ、ヒール」


 ミコトは自身に回復魔法をかけ、その後急いでウェルツのところにも行きウェルツにも回復魔法をかける。だが、瀕死のウェルツにはもう雀の涙ほどの回復寮だ。

 死を食い止めただけで、再び戦いには戻れそうではない。


「粘れない、粘れないでしょ?」


 いつの間にか地面の氷も解けてしまっている。ミノタウロスも向かってくる。

 これは詰みだ。最強の魔力に、最強の戦力、かなうはずがない。


「終わりよ!」


 手を空に加賀げ、火の玉を作る。その弾はどんどんと大きくなっていっている。

 そして、メリダはその弾を一気に地面に向けて、ユウナ達に向けて落とす。


「くそぅ」


 ユウナは嘆きながら必死で魔力でその火の球を受け止める。


「でもね、私もその間に動けるのよね」


 メリダが一気にユウナのそばに来る。


「あなたたちは殺すわけには行かないしね」


 メリダはユウナの手をつかみ、地面にたたきつける。


「ユウナ、くそ、今戦うのです」

「おで、お前は通さないぞ」

「っ、うざったらしいのです」


 ミノタウロスに行き場を防がれているのは何もミアだけじゃない。だれも助けには入れない。


 終わりだ。ユウナはそう思った。

 だが、その時、


「助けに来たぞ!!」


 一人の緑髪の青年が向かってくる。


「あら、援軍?」

「そう言う事だ」


 男はメリダを素早い動きで蹴り飛ばし、ユウナをそのままお姫様抱っこをする。


「あ、ありがとう」

「撤退だ」


 そのまま男はユウナを連れて逃げる。後ろには数百人の兵士がいた。

 それを見てウェルツ達も後ろに下がる。


「はあ、危ないところだったな。ここから先は俺たちがやる」

「あら、良いわね。このままこの国を亡ぼすのも。……でも辞め辞め、今から混戦状態になったらさすがの私も戦力が足りない。残念だけど、ここで下がらせてもらうわ。……またね、ユウナちゃん」


 その声を聴いてユウナはぞくっとした。


「待って! なんで、そんな人間を改造することにこだわるの?」

「んー? そうね、楽しいから。それだけよ」


 そう言ってメリダは火の森に消えていった。


 その後、ユウナ達は城の方へと戻る。

 結果だけを見ればミノタウロス二対を撃墜。ユウナ達の勝ちのはずだ。でも、そんな気持ちにはなれない。


 帰りの馬車でユウナは深いため息をついた。


「お姉ちゃんは悪くないよ。私も何もできなかった」

「ああ、俺もだ。ユウナとミアに引っ張ってもらう形になった。……実力不足だ」


 ウェルツは塞がりかけた胸の傷をさすりながら言う。


「そんなことないよ。ウェルツさんは助けになってるよ」

「……それだけじゃダメなんだ」


 ウェルツは悔しそうだった。

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