第六十六話 ミノタウロス
そして、翌日。
ユウナたち一行は、近くの草原に住む魔物を討伐して来いと命じられた。
そこには魔物が住み着いてしまい、村民が追われてしまったらしい。
そのせいで国の農作物が不足している。
しかもそのような村の被害は一つや二つではない。
魔王軍は村を制圧し、食料不足を生み出させ、内争いをさせようとしているのだ。
これは非常に困ることだ。何しろ魔王軍には守るものはほとんどないのにも関わらず、人間側には大量にある。
その人間の弱点を突いた攻めなのだ。
「そして私たちが今から向かうのはその中でも被害が最もひどい村、ラムル村だよね」
ユウナが確認とばかりにウェルツに訊く。
この村で活躍している魔物は主にミノタウロスだ。しかも恐るべきことに人語を話せる魔物だ。
樹海で出会ったドラゴンのように知能がある恐ろしい魔物だ。
知能が高いという事はつまり、それだけ戦いが上手いという事。
生半端な感じでは負ける。
本気の中の本気を絞り出さなければ。
ユウナ達は到着してまず村の様子に驚いた。
もはや村の体をなしていない。その村には魔物が大量にいて、もはや土地は荒らされていた。
「これじゃ、取り返しても農作物は育たないだろうな」
そうウェルツが呟く。土地が荒れており、まずは元の状態に戻さなければならない。
ウェルツは農作の知識はないが、これを元に戻すとなればかなりの時間を有するだろう。
「でも、倒さないと何も始まらないよな」
「それはそうだな」
ウェルツはそれに頷く。
そしてその瞬間、ユウナの後ろから斧が振り下ろされ、ユウナは咄嗟にそれをよける。
「早速来たってこと?」
ユウナはミノタウロスを見ながら叫ぶ。
牛のような見た目で斧を振るってくる。
まさに特徴通り、討伐対象そのものだ。
「私が戦うのです」
ミアが走り出す。そして、ミノタウロスのお腹向けて拳を振るう。
その拳は斧で受け止められる。
均衡状態だ。それを変えようと隙を見て、ユウナが炎をミノタウロスに向けて発射する。
素早い日の弾丸だ。当たればミノタウロスの体勢は崩れミアの拳が当たりミノタウロスは倒れるだろう。
だが、ミノタウロスはその弾丸を即座に避けた。ミアの拳をいなしながら。
そしてミノタウロスはユウナの方をちらりと見る。
「お前だな」
そう言ったミノタウロスは咄嗟に上に飛び跳ね、ユウナの方に斧を振り下ろす。
今ここで厄介なのはユウナと判断したのだろう。
実際ユウナは魔法で援護することが出来る。そんな邪魔者を放っておく道理などない。
「私……!?」
狙われたことに気付いたユウナはは炎の剣を作り出し、その斧を受ける。
だが、ミアのようにはいかなかった。
斧の力がユウナの筋力を上回り、段々と押されていく。
「私を忘れるななのです!」
ミアはミノタウロスに対して拳を背後から振るう。
どちみちユウナが倒れればこの場は崩壊する。
この場の最大戦力であるミアがミノタウロスを抑えなければ。
「ガキが」
ミノタウロスはそのままユウナを蹴り飛ばし、体を捻ってミアの攻撃を受けた。
だが、その際剣がミノタウロスに襲い掛かる。
ウェルツが剣でミノタウロスに襲い掛かったのだ。
「多いな」
斧をぶんぶんと振り回して、ユウナ達を近づけないようにしようとするミノタウロス。
その斧を振り回すスピードでウェルツとミアは弾かれてしまった。
「でも、私の魔法は通るでしょ」
ユウナはそう言うと、すぐさま地面を凍らせていく。それに続き、ミコトもだ。
ミノタウロスはそれに気づき、斧を振り回すのをやめ、四人から距離を取る。
「今なら」
ミアが駆けていく。そのミアの跳躍に合わせてミコトもミアにかけているパフをスピードに費やす。
「終わりなのです」
ミアの攻撃が一気に襲いかかり、ミノタウロスがぐらついている間にユウナのの放っていた氷がミノタウロスの足を凍らせ、移動を防ぐ。
その隙にウェルツも動き、剣を真上から振り下ろす。
その剣をミノタウロスは斧で防ぐ。だが、そこに来るのはミアだ。斧が封じられたミノタウロスはミアの攻撃をまともに喰らってしまう。
「これで終わりなのです」
ミアの連撃、ミノタウロスはそのままその場に倒れた。
「ふう、案外楽だっ――」
ユウナがそう呟いた瞬間魔物の大群がやってきた。
「そっか、一体とは限らないものね」
ユウナは早速炎を発射して魔物を一体一体丁寧に倒していき、ミコトはミアの体力を回復させる。
そうして残った魔物を掃討したユウナ達、そんな彼女たちの前に、
「いやーすごいすごい」
拍手しながら歩いてくる女がいた。髪は赤色で濃い化粧をしている。
更に特徴的なのはその身に宿しているオーラ。これにだけは関わってはいけない。
そんな予感がした。
「あははははは、まさか私の人造魔物をここまで追い詰めるとは。見事ですよ。だからこそ是非とも手に入れたいものです」
そして、地面を揺らし、体勢を崩してくる。
「楽ですよ。魔王軍とか言うふざけた連中がいるから、私の研究もばれにくい。それに私に協力までしてくれてるんだから。さて、援軍としてこれはどうかな?」
その場に十体もの物ミノタウロスが現れた。さらに二体のドラゴンも。
「私ね、狙った獲物は絶対に手に入れたいのよ」
そして女は一歩ずつ歩みを進める。ユウナ達のもとに、
「どんな手を使ってもね」
魔物達が一気にユウナ達のもとに向かってくる。
「このメリダ・ルーダ。あなたたちを捕獲しましょう」
ミノタウロス十体に、ドラゴン二体。決して倒せない、いや、逃げられない相手ではない。ただ、厄介なのはメリダだ。
魔法でユウナたちの動きを牽制してくる。
彼女自身もただの一介のマッドサイエンティストなだけではなく相当な実力者なのだとすぐさま分かる。
「あははは、この数は無理でょう? 諦めて捕まりなさい」
そのメリダの言葉で、三人に浮かび上がるのは、組織の実験だ。
捕まれば似たようなことをされる。そんなことは決して認められない。
「諦めるわけにはいかないのです!!」
ミアは自身の拳に力を溜め、一気にメリダに向かう。
「あら、私に向かってくるの? 可愛いね。でもね、」
メリダは姿を消す。そして次の瞬間空にいた。
「あはははは、貴方が一番厄介だってことは分かってたわよ」
そして、ミアの周りには六体のミノタウロス。
――まずい。
ミアが拳で一帯を吹き飛ばした瞬間、ミノタウロスによって足を引っかけられ、そのまま転ぼされる。
そのまま斧がミアに振り下ろされる。
「ミア!!」
ユウナはミアの方に駆け寄り、手で炎の剣を作り出し、ミノタウロスに襲い掛かる。
「私の剣で」
ミノタウロスを斬り、その傷口を炎で焼く。
「ぬあああ、オデを苦しめるのか」
ミノタウロスはくるしっむそぶりを見せる。このままいけば。
だが、ミノタウロスは即座に斧を振るい、ユウナを吹き飛ばした。
「あはは、愚かだわ。そんなちんけな攻撃が私のミノタウロスちゃんに通じるとでも思ってるの?」
その狂女が叫ぶと、ミノタウロスが残りの二人も狙ってくる。最大戦力の二人がやられた今、ミコトとウェルツに抵抗するすべはなかった。
そしてあっけなく全員捕らえられてしまった。




