第六十五話 ミア・ハーグス
ラバルディアに無事についた一同は、早速王宮に向かう。
そこで、国王に謁見するのだ。
「そなたたちがイングリティアからの使者か」
「はい、我々はこの国を救うために着ました」
そうウェルツが礼儀正しく言うと、
「本当にそなたらの来訪には感謝する」
そう国王は言う。そして、
「早速だが、頼みたいことがある。ラバル樹海、そこにドラゴンが住み着いているのだ。そいつを倒してほしい」
「それは、一体ですか? 二体ですか?」
「一体じゃ」
「それなら私、倒したよ! いや、正確に言えば逃げられただけなんだけど、とりあえずはあの樹海を離れたと思う」
ユウナがひょうひょうと言う。事実、もうドラゴンは倒した。
「そうか……予想以上だな。なら、今日は少し休んでくれ」
「分かった」
「分かったのです」
そしてユウナ達は部屋に行く。
「はあ、ここの布団もふっかふかだね!」
ユウナは元気よく言う。
「そうだな」
「これからご飯だよね」
「そうらしいのです」
「どんなご飯が出るかなあ。おなか減ったよ」
「私もなのです」
「お姉ちゃん食べ過ぎないでね」
とある日に、ユウナがご飯を食べすぎてお腹がいっぱいになったことがある。
その時。
「大丈夫だよ。お腹いっぱい食べても、消化したらいいだけなんだし」
それを聞いて、ミコトはため息をつき、ウェルツは肩をすくめた。
そしていよいよご飯の時間だ。
ユウナとミコトは運ばれてきたご飯をモグモグ食べる。
「美味しいのです」
「うん、美味しい」
二人はパクパクと食べる。その光景に比べてミコトとウェルツの食べる量の少なさ。
二人が悪いわけではないのだけど。
「あれ、」
そこで、一人の女性が呟く。
「どうしたのですか? ハーグス婦人」
「彼女は……」エリス・ハーグスは息をのむ。
「私の娘じゃないですか?」
その青髪、そして、その特徴のあるしゃべり方。八歳の時に行方不明になった彼女の娘にそっくりだ。
「あなたは……ミアと言いませんか?」
そう、彼女はミアに話しかける。
ミアは数秒沈黙して、そして一言。
「え?」
ミアは、そう驚きの顔をした後、
「何を言っているのですか? 冗談はやめるのです」
「いえ、冗談じゃないわ、あなたは私の子供よ!!」
「ふざけたことを言うななのです!!」
そして抱き着いてくるマリアをミアは思い切りぶん殴る。
その攻撃でマリアはその場で気絶した。
「ミア様、何をするのですか」
「変なことを言うやつを殴っただけなのです!」
そう言うミアを傍目に三人は焦っていた。
早速ミアがやらかした。
これで早速ラバルディア側からの心象が悪くなる恐れがある。
「もう……!」
ミコトが早速、ミアを抑える。
「私は悪くないのです!!」
「落ち着い……てよ」
そこにユウナも来て、ミアを一発本気で殴る。
「本当に信じられない。ここで、問題起こすなんて」
「先に仕掛けてきたのはあっちなのです。私は悪くないのです!!!」
相変わらずの強情さ。
ユウナにはもうどうすることもできない。
「私は……あなたのことを忘れたことはないわ」
マリアが目を覚まして、そう小さな声で言った。
ミコトが回復魔法をかけたとはいえ、早すぎる。ミアもあれはあれで手加減していたのだろうか。
そしてユウナがミアの手を抑え込みながら。
「どういうことですか……?」
「私はその子のお母さんなの。……説明するには十年前にさかのぼらないといけないわね」
そして、彼女の説明は始まった。
「まず私はマリアハーグス。この国の貴族よ。そして、この国を創設した七貴族の子孫として、一応王族の血もはらんでいます。そしてその子、ミアの境遇に関しては、私と亡き夫、アドワ・ハーグスの娘よ。この子は十分育っていったわ、不思議な語尾を除いてね」
なのですの事だろう。
「でも、ある日変わった。ある日国は襲撃を受けたの。この国の元研究員によってね。そして、王宮内から幾数人の子供が消えたの。私の娘のミアも含めてね。アドワも必死でミアを守ったんだけど、守り切れずに殺されてしまった。だから、それから私たちは娘を探した、でも見つかることはなかった。それがあなたがここに来てくれた。もはや覚えていないだろうけど、私があなたの実母なの」
「そう……なのですか」
「そしてここからは政治の話だ」
そこに加わってきたのはひげを生やした男。国の重要事項を決める賢人会の一員だ。
「この国には今世継ぎがいない。国王はもはや老齢で子供などできないし、他の国王の息子、娘もさらわれてしまった。つまり君が本当にハーグス家の一員だとすると、君は今王位継承一位となる」
そう言った賢人会の一員、ラグレスの言葉をミアもユウナも全員が無言で目をぱちくりとさせた。
「そう呑み込めないのも無理はあるまい。少し君にはついてきてもらいたい」
「……分かったのです。実際ロランも言ってたのです」
「ロラン……? あの大盗賊か」
「大盗賊?」
ユウナは聞く。
「過去の話だ。あいつはこの国を半壊させた。それだけだ」
ロランは恐ろしいと、思った。
そしてミアがいなくなり、三人残された。
「ミアちゃんうまくやってるのかなあ」
ユウナは机に頭を寝かせながら言う。
「うまくやってると思わないよ」
ミコトがそう言う。
「ああ、あいつがこの国の重臣を殺してないかだけが心配だな」
「というかさ、私たちこれからどうなるの? てか、ミアがこの国の貴族の娘って国王さん知ってたの?」
「確かにな。あいつらは俺達四人を指名してたし」
何か知っていたという可能性は高い。
「まあ、それは置いておこう。ミアがもしも戦場から離脱した場合、俺達だけでうまく戦えるのか……?」
そのウェルツの言葉にミコトとユウナは考え込む。
ミコトは先の戦いでは気絶していたし、ユウナはまだ戦えていたが、ミコトの超パワーがなかったら戦い抜くのは厳しい。
あのゲルドグリスティを破った時ほどの力はないが、重要な戦力であるという事は変わらないのだ。
「というか……」ミコトが言う。「あの人が王位を告げるとは思えない」
そのみことのことばにユウナとミコトは頷いた。
政治をすればすぐに国が滅びそうだし、飾りの王だとしても問題を起こしそうだ。
その頃ミアは。
「私は、そんな難しいことは分からないのです」
そうミアは前置きした後、
「でも、私はあなたたちの言うその王位継承者にはなれないのです。私には私の人生があるのですから」
そう、毅然とした態度で断った。
そもそも、人生は長くないと思っているミアにとって、今は戦い抜くことが大事なのだ。
「私は戦うためにここに来たのです。国の政治を行うためには来てないのです。……私は、私自身の血筋なんてどうでもいい。ただ、弊害となる敵を殺すだけなのです」
そう、組織と、仲間たちの弊害となる敵を。
つまり魔王軍を。
「私にはただ、国というくだらない世界じゃなく、ただ戦うだけなのです」
「分かった。ただ、そなたがいては国は荒れる。このことはなかったことにする。いいか?」
「勿論なのです。そんな貴族とか言うくだらないものなど心底どうでもいいのですから」
「ただ、気が変わったなら言ってほしい」
「分かったのです」
そう言ってミアは部屋から出た。
「ただいまなのです」
ミアが返ってきた。
ミコトはすぐに、「変なことしてないよね!!」という。
「大丈夫なのです。決して変なことはしてないのです。毅然な態度で断ったので安心してほしいのです」
「塩対応とかしてないよね? 不敬な真似してないよね?」
ユウナが畳みかけるように言う。
「大丈夫なのです。むしろ私をなんだと思っているのですか?」
「え? ただの馬鹿」
ユウナのその言葉に対してミコトがわなわなと声を震わせ。
「殴ってやるのです」
そう言った。
結局それはウェルツがミアを落ち着かせることで収まった。
その頃。
「主様、樹海で強い人たちと会った」
「ふふ、そう。なら、少し」
女は魔物を作り出す。
「さて、この子で試し打ちでもしましょうか。私の気に入る子だと良いねえ。あはははははは」
女は狂気じみた笑顔を見せた。
「主様やっちゃって」
ドラゴンはそれに対して笑顔で翼を打った。




