第六四話 樹海
そして翌日。
樹海に一同は入っていく。高い針葉樹がたくさんあり、空からの光がさえぎられている。
迷子にでもなれば、もう出ることはできないだろう。
いざという時はユウナの魔法で燃やせばいいのだが、そんな時にはあの時みたいに山火事になる恐れがある。そうなった場合環境破壊につながるのであまりしない方がいいだろう。それに最悪中にいるユウナ達が逃げ切れずに倒れてしまうかもしれない。所謂一酸化炭素中毒というやつだ。
そして、樹海の中にはしばらく魔物たちに出会わなかった。魔物が多いとは言っても頻繁に会うわけじゃないのか、それとももっと奥に魔物の巣窟があるという事なのか。
ユウナはぎゅっと手を握り締める。むしろ魔物が出てこないことで恐怖が来る。
だが、ユウナの恐怖とは裏腹に魔物は一向に出てこない。
そのことについて最初に言及したのはミアだ。
「魔物が出てこないのです……」
「ああ、だな」
「魔物が出てこないと、私も楽しくないのですよ」
そうミアはしょんぼりとした様子を見せる。
「私も……魔物が出てこないと不安だなあ」
ユウナもそう言って不安がる。
ミコトとウェルツは魔物が出てこなくてラッキーだと思っているが、ミアとユウナは早く魔物が出てほしいと思っている。
そして、さらに進む中、異変に木付く。
「なあ、ユウナ。あいつらどこに言った?」
ミコトとミアの姿が見当たらない。
はぐれてしまったのだろうか。
「これはまずいな。ユウナ、念話は使えるのか?」
「うーん。対象物の位置がある程度わかっていないと無理だから、多分無理」
正確には視界の範囲内だ。
樹海の中、姿すら見つけ出せないのに念話など到底無理だろう。
ユウナとウェルツは話し合ってとりあえず合流はあきらめて、出口に向かうことにした。
ミコトがいるとはいえ、ミアが合流を図るとは思えない。きっと今頃ミコトも苦労しているだろう。
しかし、そこで問題となるのは戦力だ。
ミアがいなくなったことでこちらの戦力は少し薄くなった。
ユウナがいるとはいえ魔物の大群に襲我たら少し厳しいところもある。
そんなときだった、巨大な蜘蛛が現れた。
その蜘蛛はユウナたちの前に来ると一木にカサカサと距離を詰めてくる。
「来るってことね」
ユウナは早速岩を空に作り上げ、そのまま蜘蛛に向かって叩きつける。
だが、蜘蛛は八つの手足の内二つの手足を動かし岩を破壊する。
「結構強そうだね」
ユウナはそう呟く。
流石に樹海の中、火の魔法は危なっかしくて使えない。となれば、主に岩魔法などで戦うことになる。
そしてその瞬間にウェルツが走り出し、蜘蛛に向かって剣を振るう。だが、その蜘蛛の手足で見事に攻撃を食い止められてしまう。
おまけに、その手足の数でウェルツはだんだんと押されていく。
「サンダー!」
ユウナは蜘蛛に向かって空から雷を落とす。
だが、蜘蛛はその雷をかさかさと高速移動して全部かわす。
「なら」
と、岩を蜘蛛の周囲に落とす。勿論蜘蛛の行動範囲を制限するためだ。
そして、そこにウェルツがくる。蜘蛛は数度ウェルツの攻撃を受けた後、一瞬のスキをついて、岩の上によじ登ろうとする。
初戦たかが六〇センチ程度の岩。よじ登ることは可能だ、
だが、ユウナがそんな蜘蛛の頭上に雷を当てる。
行動さえ読めれば当てることなど造作もない。
だが、蜘蛛にはあまり聞いていなかった。
(これが炎だったらなー)
ユウナは雷魔法を得意とはしていないのだ。
やはり岩で押しつぶすしかない。そう考えたユウナは空に岩を生成していく。
「ウェルツさん、ちょっと待っててね」
ユウナはそう言って岩をどんどん大きくする。
ウェルツはすぐさま、蜘蛛の足止めにかかった。
蜘蛛をユウナの方へと誘導する。
「お前は、俺が食い止める」
そう言いながら。
必死に蜘蛛の全力の攻撃に耐え続ける。
その攻撃は激しく、少しでも木を抜いたらやられそうな感じだ。
「できた!」
そんな中、ユウナがそう叫び、岩を思い切り蜘蛛に投げつける。
ウェルツは慌てて後ろに下がり、岩は蜘蛛に命中する。
「よし!」
ユウナはガッツポーズをした。
そして、蜘蛛の方を見ると、完全なる圧死を見せていた。
「ウェルツさん、私よくやったでしょ?」
「ああ、良くやってくれた」
「もっと褒めて!!!」
「我儘だな」
「ふふふん、そう言我るの久しぶり!!」
最近ユウナはウェルツがいなくなっていたこともあり、ミコトの保護者には慣れど、誰かがユウナの保護者になることはなかった。
「ウェルツさん大好き!!!」
そう言ってユウナはウェルツに抱き着きに行く。
「っおい!」
そんなユウナに対して跳ねのけるウェルツ、
そんな彼に対して「ウェルツさんのことが大好きなのに……」と、ユウナは口をとがらせるのであった。
そして歩いていく中、魔物の襲撃は続いた。
蜘蛛のような強大な魔物に何度も会うことによって、ユウナの魔力は段々と少なくなって行く。
だが、希望も見える。
「もうすぐ?」
ユウナが聞く。明らかに光に満ちてきている。おそらく向こうに見える木々のない空間。
あそこが出口なんだろう、とユウナは思った。
「だな。だが、油断するなよ」
「分かってるって。……異世界情報でそこにはボスがいるって見たから」
「それはどこ情報なんだよ」
そんなことを話しながら森を抜ける。……すると、そこにはミアがいた。
「ミアちゃん!」
ユウナは叫び、そして抱き着こうとする……が、
「来ないで!!」
ミアが叫んだ。そこを見ると、ドラゴンがいた。
ドラゴンなんて伝説上の生き物だ。
魔王討伐の際に、ドラゴンの王が勇者に手を貸したという伝説がある。
「ここにいるとはな」
「魔王軍の敵は我の敵、貴様は我が倒す」
そう言ったドラゴンの体が光り輝きだす。その体からオーラのようなものがあふれ出る。
「魔王軍大大事!」
ドラゴンはミアの方に目もくれず、ユウナに向かってくる。
「えっと、えっと!」
ユウナは急いで剣を生み出しそのままドラゴンの攻撃をぎりぎりで防ぐ。
「私のことを忘れるなです!!」
ミアはそのままこぶしでドラゴンを殴る。その攻撃により、ドラゴンは木にたたきつけられる。
「ミアちゃん強ーい!! このまま行こう!」
ユウナはそう言って手を握るが、そんなユウナに対しミアは「甘いのです」とつぶやく。
そのミアの呟き通りにドラゴンはピンピンとしている。
「こいつはいくら殴っても手応えがないのです」
「我に傷をつけれるものなどいない。それが勇者だとしても」
「そう言うななのです」
「じゃあ、私が!!」
ユウナは手に風を作り出して、風の刃を作り出す。
そして、その風を一木にドラゴンにぶつける。
だが。その刃は見事に皮膚に弾かれる。
「やっぱり、防御力が高すぎるんだ」
ユウナはそう考える。
ミアの攻撃が効かなかったのも単に鱗がダメージを軽減させていたからだ。
「つまり、この鱗を何とかしないといけない」
ユウナは必死に考える。
風で鱗を一枚ずつ斬っていく……流石にユウナの風魔法で鱗を削っていくなんてことは現実的じゃない。
かといってほかの魔法も鱗に弾かれるのが関の山。
つまり、鱗のダメージ減少を超えるダメージを与えないと倒せないという事だ。
少しずつ風で鱗を切り裂いていきながら攻撃していくしかない。
「ミアちゃん。私ドラゴンの背後に回るから、攻撃お願い」
「言我なくてもやるのです!!」
ミアを囮にして、風で鱗をそっていく。この緻密な作業は、何分、何十分、何時間かかるかわからない。だが、そうするしか勝ち目がないのだ。
「えい! なのです!」
ドラゴンが吹き飛ぶ、そしてその隙にユウナが鱗をそいでいく。
「そちら、本命か、青毛が囮」
そう呟いたドラゴンは一木にユウナの方に向かって行く。
「私だって戦えるもん!」
剣を生み出し、それを炎をエンチャントする。
「えい!」
ユウナはドラゴンの攻撃を。剣で受け、その隙に風で鱗をそいでいく。
主にそぐのは一部分。背中だ。そこさえそげればミアが何とかしてくれるだろう。
それでさえ、どれくらい時間がかかるのかは分からないが。
しかし、ドラゴンの攻撃も破壊力が高く、その手の一振りでも、ユウナの剣がおられそうで、剣の鮮度を保つのが大変だ。
ミアも必死にドラゴンに攻撃しているが、ユウナばかり狙うので、攻撃が空ぶってばかりだ。
「いい加減、諦めろ。我の勝ちだ」
そう決めつけてくるドラゴン。それに少しだけ腹が立ったユウナは「馬鹿にしないでよ!!」そう叫びながらさらに執拗に剣でドラゴンを狙う。
「むぅ」
その連撃に少し体制を崩したドラゴン、それに対し、ミアが思い切り全力を込めた拳がドラゴンの背中にヒットする。
その衝撃でドラゴンは吹き飛び、木に当たってその場に倒れる。
「効いてる……」
ユウナはつぶやく。だが、すぐさまドラゴンは目を覚ます。
「人間ごとき、我に傷をつけるなど」
そう言って空を飛び始めるドラゴン。
まさか
ユウナの勘は当たる。空から炎が振ってきたのだ。
「これじゃあ、みんな死んでしまうじゃん」
空を飛び、ユウナはその炎のそばに行き、全力の炎をぶつける。
炎が相殺された後、次にドラゴンのもとに来たのはミアだ。
「私を忘れるななのです!」
その全力の拳でドラゴンは地面に落ちる。そして、そこにウェルツが来て、
「終わりだ!」
剣でドラゴンの背中を突き刺す。
「終わらない。人間に負けていいはずがない。メリダ様にこのことを伝えなければ」
そう言ったドラゴンは周りに煙を立てる。そして、ウェルツの視界が損なわれた隙に姿を消していた。
「勝ったの……?」
ユウナは地面に降り、そう呟く。
「ああ、終わったみたいだな」
ウェルツが頷く。だが、「あいつはおそらく子供だ」
ウェルツのその言葉にユウナが驚く。
「ええ? あれでまだ子供なの?」
「ああ、組織でドラゴンを一度だけ見たことがある。大人のドラゴンはあれよりもはるかに大きかった」
それを聞いてユウナはまさに「ひょえー」と、らしくない驚き方をした。
「という事はさ、早く抜けなきゃじゃん。早くしないと大人ドラギ音が来ちゃうし」
「私としては大人ドラゴンも倒してみたいのです」
「そう言わないでよ。逃げようよ!」
ユウナはそんなミアの手を無理やりに引っ張り、樹海から出た。




