第六三話 出発
出立の日、ユウナ達は国を出た。目的地はもちろんラバルディア。その国はロラン出生の地でもある。
彼が幼いころに、国を出たのだが。
「これから行く場所は魔物が多いとされている場所だ。警戒しながら進むぞ」
「勿論なのです。それで……」
ミアがウェルツの前に行く。
「私が先頭を歩くのです」
「おい、道知ってるの俺だぞ」
「勿論警戒しながら進むのです」
「え、えーと」
ミコトはそんな二人の顔をチラチラ見る。
「大丈夫だよ、ミアには好きなようにやらせてあげれば」
「そうは言っても」
「ミコトは優しいね」
ミコトをユウナは優しくなでる。
「えへへ」それを受けてミコトは笑顔になった。
「大丈夫だよ。いざとなったら私とウェルツさんが止めるから。
そしてユウナが先頭をちらっと見ると、ミアが先頭を歩いていた。ウェルツを見ると、少し落胆しているようだった。
ミアを御せないとでも判断したのだろうか。
「ウェルツさん、がんばれ」
そう、ウェルツにユウナが耳打ちする。
「ああ」
そう、一言で返事した。元気なさげに。
そして歩いていくうちに、魔物が目の前に現れた。
巨人だ。ユウナが洞窟の中で出会ったのと同種なのだろうか。
「私がやるのです!!」
そして、ミアが巨人の腹を思い切り殴る。すると巨人はズシンっと音を立ててその場に倒れる。
「さあ、行くのです」
ミアはそう言って歩き出す。
(私があの時苦戦した魔物がこんな一瞬で……)
ユウナはミアをもう敵に回さないでおこうと思った。
そのまま歩くこと二時間。さすがに体力がつきかけたので、いったん休憩することになった。
ラディルディアまではそこまで遠くはない。だが、それでも二日もかかる。
本当は馬車で言ってもいいのだが、ラバルディアまでの最短ルートまでには魔物の住まう樹海がある。さすがにそこへは馬車では入れないのだ。
しかももう郊外に入り町はない。
ゲルドグリスティの魔物騒動の際に、ここら辺の住民は殺されるか避難しているかで、誰もいないのだ。
「明日はいよいよ樹海だ。さすがにゲルドグリスティ以上の魔物は出てこないと思うが、さすがに気を付けて進みたい。わかったな、ミア」
ウェルツは名指しでミアを指さす。
「流石に団体行動をわきまえていない行動が多すぎる」
先頭を歩きたがったり、道草を食ったりなどだ。もちろんこれは比喩だが。
「私は……決して単独行動などしないのです。……単独行動しても私の身に降りかかる魔物はみんな倒すのですけど」
「そういうところだよ」
ウェルツは深くため息を吐く。
実際本当にミアの扱いには困る。ミア以外の三人で戦ってもミアには勝てないのだから。
「まあ、いいや。どうせ、自己中心的行動をして困るのはミア、お前なんだからな」
そうウェルツは吐き捨てた。
そしてベッドは、無人の宿を使わせてもらった。
ベッドはトリプルサイズのベッドで一緒に眠ることになる。
「なんで、私が真ん中なのですか」
ミアがそう愚痴を言う。
「いいじゃん。私はあまりミアちゃんと一緒に寝たことあまりないんだし」
「あの国の宿では、一緒には寝てなかったのです。なのになぜ」
「細かいこと気にしないでよ。ね」
「はあ、分かったのです」
今のユウナに何を言っても無駄、ミアは直感でそう感じた。
「ねえ、ミアちゃん。昔、組織でどんな生活してたの? 教えてよ」
ユウナが興味津々で聞く。
「はあ、あなたも教えてくれるのなら教えるのです」
「それはよかった。もちろん私も教えるよ」
「はあ、なら……私はあの人とずっとトレーニングをしていたのです。そこで筋トレや、拳の教え方などを習ったのです。本当は魔法の訓練もしたかったのでしょうけど、私にはまったく魔法の才能などなかったのです。もちろん訓練だけじゃなく、完成体としての力を引き出すための薬を投薬されていたのです。それは本当に痛かったのですが、あの人のためなら頑張れる、そう思っていたのです」
言葉を紡ぎながら、ミアは何を言っているんだろうと思った。
だが、昨日と同じく、「うんうん」と熱心に聞いているユウナの前ではそんなことどうでもいいと思った。
自分の話す言葉を熱心に聞いてくれる人がいる。それだけで悪い気がしないのだ。
「そしてそんな日にあなたたちが来たのです。その時は拘束されながら薬を投薬されていたのですが、ミドレム様はすぐに動き出し、私を拘束から解放させて、私を向かわせたのです。そこからはあなた達の知る通りなのです」
そう告げたミアに対して。
「そっか、今でもミドレムさん好き?」
そうユウナは訊く。
その言葉に対してミアは即答ができない。もちろん好きだ。でも、あの生活が普通ではないことを知った。
そんな今無条件であの生活を肯定できるわけがなかった。
「ユウナ、あなたっていう人は私の心を狂わせるのですね」
そうミアは呟いて。ゴロンっと、ミコトの方を向く。
「ミコト……あの時のこと覚えているのですか? あなたが捕らえられたあの日のことを」
あの日、ミコトが連れてこられた日、ミアはミコトに話しかけていた。
「私はあの時に友達ができたと思ったのです。しかしあなたは組織での生活を拒んだ。あの時はなぜと思ったのです。でも、今となっては分かるのです」
組織での生活がすべてではないという事を。
「改めて、あの時に怒って申し訳なかったのです」
ミコトが組織から出てお姉ちゃんのもとに行きたいと言った時にミアは怒っていた。なぜ、組織に恭順しないのかと。
「別にいいよ。そんなことは」
「私はあの時ミドレム様に完全なる依存をしていたのです。だから、あなたの気持ちをくめなかった。だから本当に申し訳ないと思ってるのです」
「私はミアちゃんの気持ちもわかるよ。その依存してしまうという気持ちも。だからね、謝らなくてもいいんだよ。今私がお姉ちゃんを好きなのと同様に、貴方もミドレムさんが好きだった。それでいいじゃない。……まあ、単独行動とかはやめてほしいけどね」
「それは善処するのです」
そのミアの顔は反省している様子を見せていなかった。
「本当にね。だって、ミアちゃんが迷子になったら私たちはあなたを探さなきゃならないんだよ。それで隊列が崩れて、魔物が来た時に対処できないかもしれない。ミアちゃん、あなたが強いのは分かるけど、でも、私がバフをかけてあげた方が強くなるでしょ。だからね、みんなで行動しよ。そしたらさあ、危険なんてないんだから」
「はいはい分かったのです」
ミアはしぶしぶ反省の気持ちを表した。ミアとしては年下に説教されるなんてこの上ない羞恥な事だ。でもこの場は謝らないと場が収まらないとミアが判断したからこその反省だ。
ミコトもそのミアの態度は分かったが、今はこれ以上責めても仕方がないと思い、言葉の刃を下おろすのであった。




