第六十二話 ミアの気持ち
ラバルディアへの出立の前に三日の猶予が課された。
その期間の間に各々一緒にメリー達の宿に泊まることにした。
「あなたがミアちゃんね」
そう、メリーがミアに対して言う。
「私メリー、よろしくね」
メリーは笑顔だ。その笑顔に思わずミアがたじろぐ。
「私は……ミアなのです……よろしくなのです」
「ミアちゃんって、意外に恥ずかしがりや?」ユウナが訊く。
「うるさいのです。利害の一致はしてこそ、あなたは味方ではないのですから」
「私は味方だと、友達と思ってるよ」
「うるさいのですよ」
そうそっぽを向いてしまう。そんなミアを見てユウナとメリーはほほえましく笑うのであった。
そして、部屋。
ごろごろするが、今になったユウナが、
「ねえ、ミアちゃん。一緒に遊ぼうよ」
そう言いだした。
せっかくだし人数が多い方が楽しいはずだ。
「私は遊ばないのです」
そう冷たくユウナの誘いを突っぱねて、自身のベッドに寝転がるミア。
その顔はユウナには少し寂しそうに見えた。
そして、一〇秒寝転がった後、
「魔物を倒してくるのです」
そう言ってミアは外に出ようとする。
この状況が居たたまれなくなったのだ。
それをユウナが出口で止める。ウェルツが所用で出かけている今、ミアを止められるのは自分だけだ。
「私には、平穏な生活は似合わないのです。通してください」
そうミアは強く言う。
「だめだよ。体を休めないと」
「はあ、どうしたのですか、私は……」
ミアは数秒考えこむ。だが、次の瞬間再びベッドに座る。
別に今は魔物を倒しに行きたいわけでは無い。ただ、この場を離れたかっただけだ。
「もしかしてミアちゃん。迷ってる? 組織に戻るか、このままいるか」
そう、ユウナが言うとミアは図星を付かれたかのように、黙り込む。
その姿を見てユウナはつぶやく。
「一緒に遊びに行かない?」
ミアは数秒の間をおいて、「行くのです」そう、小声でつぶやいた。
ミアはユウナの言う通り迷っていた。
本当は開放されたタイミングで組織に帰還しようと逃走してもよかった。
あの時は共通の敵である魔王軍がいたからともに戦っただけだ。
だが、なぜか体が動かなかった。
ミアはユウナ達の雰囲気に混ざりたいと思ったのかもしれない。だが、それは本人にも分からなかった。
組織にいたときは訓練ばかりだった。
地獄のような訓練だ。ミドレムに褒美として愛されてはいたものの、それは確かに者としての扱いだった。
そんな中ユウナ達の、人のやさしさを享受できた。
これではだめだ。自分は魔王軍を、魔王を倒すためだけに存在しているのだ。
ロランとの戦いに加わったのも、魔王軍が裏にいることを知ったからなのだ。
いや、目的は魔王軍撃退なのだからいいのではないか。
自分は光の中ではなく、闇の中で行動した方がいい。
そんな考えが巡る。
だが、組織に戻るとしても、闇の中で存在している。
もうミドレムもいない。
帰る場所なんてあるのだろうか。
「いくよー!」
ボーとしてたら、ユウナがボールを投げようとしている。ミアは咄嗟に手を出し、ボールを取ろうとする。
すっぽりと、手にはまった。
次はミコトだ。
ミアはミコトにそこそこのスピードで投げる。
本来なら一七〇キロ以上ものスピードで投げれるのだが、あくまでも軽く。
そしてそのボールをミコトがとり、ユウナに返す。
そんなやり取りを脳内でミコトはくだらないと、一蹴する。だが、不思議とやめたいとは思わなかった。
こんなやり取りにも意味があると思ったのだ。
だが、数回投げた後、
「ユウナ、もっと早いスピードで投げてほしいのです」
流石に遅すぎるボールは取るのが余裕すぎて欠伸が出てしまう。
「分かった」
そう言ったユウナは魔法をかけ、ボールの速度を速め、そのボールはかなりのスピードのものとなってミアのもとに飛んでくる。
「いいボールなのです!」
ミコトはそのボールを全力で捕球する。
手ごたえを感じる。いいボールだと、ミアは思う。
そして、何とかボールをキャッチした。
「では……」ミアはボールを全力で持つ。「お返しなのです!!」
ユウナに向けて投げられたそのボールは驚異的なスピードでユウナに向かっていく。
ユウナに届くまで一秒もしないでそのボールはユウナのもとへと届く。
「これはすごいね」
ユウナは全力を込めてボールを覆い包むようにしてつかもうとする。
だが、ぎりぎりでボールを跳ねのけてしまった。
そして、そのボールは地面を転々とする。
「流石にこれは無理だよ」
「ふふふ、私の勝ちなのです!」
ミアは上機嫌となる。
「私が最強なのです」
自信に乗るミア。そんな彼女に対してユウナは「調子に乗らないでよ」そう言ってボールを返すのであった。
そして二時間くらい遊んだ後、部屋に戻る。その前にミコトは尿意を感じるという事で、トイレに向かった。
「ユウナ、私は思うのですよ」
その瞬間ミアはそう呟く。
「私は、生まれたときから意思がなかったのです。物心ついた時から、ミドレム様の手によって、教育されてきた。私はミドレム様のことが好きだったからそれでよかったのですが……今は少し気持ちが揺らいでいるのです。私は戦う事しか能がない人間なのです。でも、そんな私でも、他の人と一緒に遊んでいいのだろうか。分からないのです。戦うという以外の感情が分からないのです。私には組織しかなかった。なのに、仲間と戦うことを知って。……私は何を言っているのですか……」
ミアにはもはや自分が何を言おうとしているのかすらもわからなくなっていた。
だが、そんな彼女をユウナが優しく抱きしめる。
「ミアちゃん。自分の気持ちに正直になっていいんだよ。私はもうミアちゃんの友達だよ。私は組織を否定したりしない。私は嫌いだけど、でも魔王に対抗しようとしてはいた。でもね、組織のことはもう過去の思い出として乗り越えていったらいいと思う。もうミアちゃんだけの人生だから自分で決めていいんだよ」
「なら私は……ユウナ達と一緒に楽しく戦いたいのです。私一人で孤独に戦いたくないのです」
「分かった。じゃあ、一緒に戦おう。ね、」
「はい……! なのです!」
そして二人はしばらくの間互いに抱き着いていた。
トイレから戻ったミコトが一言、お姉ちゃん何してるの? と、冷たく言うまでは。




