第六十一話 戦後処理
「本当はゲルドグリスティを捕えたかったんだがなあ」
そう緊急会合の場で、アーノルドが言う。
「ごめんなさいなのです」
「いや、君は倒しただけでも十分だ」
アーノルドは優しく言う。勿論ゲルドグリスティから魔王軍に関する情報を取りたかったのは事実だ。だが、ミアがゲルドグリスティをやらなければ、全滅していた。責めることなどできない。
「さて、問題はゲルドグリスティが言っている魔王軍。それがこのまま引き下がるとは思え合いという点だ。これから何か仕掛けてくるだろうという事は安易に予想できる。もしかしたらこの攻撃事態が陽動で、本体はすでに魔王復活のために動いているのかもしれない」
剣聖がそう言うと、アーノルドも「そうだな」、と肯定する。
「この国内だけの問題じゃないという事だ。ま、ゲルドグリスティがいなくなった今アスティニア国がどうなっているのかという点だな。魔物が減って解放できるのかどうか。そして、これからは魔王復活阻止のために国々で手を組まなければならないという事は最重要課題だ」
「そのことだが」国王が玉座から、立ち上がる。「前々からいろいろなところに頼んでいる。だな、大臣よ」
そして一人の男が立ち上がる。
「ええ、魔物の多い国、ラバルディアでは魔物の被害に苦しんでいるとのことなので、援軍を頼まれています。そこにも魔王軍の影はあるかと」
その大臣は有事の際に国外に出ており、ついさっき帰ってきたばかりだった。
まさに今ラバルディアへと外交に行っていたところだ。
「今の状況だと援軍はそこまで出せんな。それも陽動という可能性もある」
「ですが、敵の勢力は治まってきています。あんなに攻めてきてた魔物が、撤退して行っているという報告があり、さらに弱体化しているという情報も入っている」
アーノルドはそう言う。
国王の方へも魔物が襲ってきていて手負いのアーノルドとその場にいた兵士たちで対応していた。
だが、急に魔物が弱くなったのだ。そう、ゲルドグリスティが倒れたとされる瞬間だ。
「まあ、それも罠かもしれんがな」
「アーノルド、それを言ったらすべてが罠に思えてしまう」
「まあな。……しかし、俺が思うに、もうこの国は大丈夫だと思うぜ」
「そうか……」
「それで援軍だが、さすがにロランが消えた今、隊長格を出す余裕はない。だから、ユウナ、ミコト、ウェルツ、ミア、君たちに行ってもらいたい」
そう、国王は言う。それに対してユウナは「私!?」と、驚く。
「いや、待ってくれ」
ウェルツがその国王の宣告に待ったをかける。
「ミアはもう戦ってはいけない。これ以上戦うと危険だ。彼女はかなり真の完成体に近づいている。もし次戦闘中に心が揺らいだら、人格を持っていかれるだろう」
「それは」剣聖が言う。「組織から押収した資料にもあったな」
「私は戦えるのです。……私は、平凡な生活なんて望んでないのです。組織の目的は魔王復活の阻止、つまり私の目的でもあるのです。だから……死んでもいい。魔王軍を倒したいのです!!!」
そう、ミアが強く言った。
「それに……私が真の完成体になったとしても、その時はその時で戦力になるのです」
そのミアの決意は簡単には揺るがないものに見えた。
「分かった。だが、そもそもの話俺たちは正規軍ではない。故にわざわざ向かう理由がない」
そう、正規軍が向かえばいいのだ。
「残念じゃったな。ミアとウェルツよ、行けばそなたらの罪を完全に免除してやろうと思ったのに」
国王はにやにやとしている。その顔を見てウェルツは数秒考えこみ、
「強制かよ」と、呟いた。
「いいじゃん、ウェルツさん。行こうよ」
「でも、ユウナ。組織は?」
「あ、忘れてた」
「おい!」
ユウナの頭をツッコミとばかりに叩くウェルツ。そんな二人に対して、
「それに関しては国から依頼を出している。ギルド長のルイスらへんが見つけたら即つぶすと言っていた」
「なら大丈夫だね」
「おい、だがユウナ」
ユウナは言っていたはずだ。自分の手で組織を潰すと。
「いいの。私だって国内の事だけを考えるよりもさ、世界全体を見たいから」
そして、たくさんの人を救う。
「適材適所だよ。いこ!」
「お姉ちゃんが言うなら、それでいいよ」
「なら決まりだな」
そして、ユウナ、ウェルツ、ミア、ミコトの四人はラバルディアに向かう事となった




