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完成体少女  作者: 有原優


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第六十話 真の完成体

「さあ、第二ラウンドの開始です」


 ミアはそんな事を言うゲルドグリスティのお腹に向けて思い切り拳を振るう。何発も、何発も。


「効きますね。だけど、この体の私に勝てるほどではないですね……!」


 そして、大降りに拳を振るう。ミアはそれを間一髪でよけ、下に落ちそこから浮上。

 下からゲルドグリスティの体を貫きに行こうとする。


「ふ、そんなの見え見えですよ」


 その攻撃を見事に足で食い止めるゲルドグリスティ、そしてそのまま「私にはこれがあります」と言って火の玉をミアの方に向ける。


 ミアはその攻撃をよけようとするが、回避行動にとっさに移ることができなかった。

 その攻撃を喰らい、地面に落ちていくが、すんでのところで何とか体勢を取り戻した。


「まだなのです。まだまだ」


 ミアはさらにスピードを上げる。


「なるほど、パワーにはスピードでという事ですか」

「そうなのです!」

「いいですね」


 そしてミアと、ゲルドグリスティの戦いは熾烈を極めていく。だが、そんな中、地上のウェルツはそれを見て一言呟いた。


「あのままだとまずい。真の完成体になりきってしまう」


 あの感じだと、ミアはかなりの怒りを持って戦っている。

 その怒りの湧きどころがどこなのかはどうでもいい。

 だが、このままだと、人格が真の完成体に奪われてしまう。

 これでゲルドグリスティを倒せたとしても、そこには真の完成体がいるだけだろう。

 完成体は強い。それは分かっている。

 それにミアは罪を犯している。洗脳されていたとはいえ、はっきりと無実の人を殺しているのだ。

 だが、このまま見えていいものとはウェルツは思えなかった。

 人を殺しているのはウェルツも同様なのだ。


 ミアは騙されていただけだ。

 彼女がこのまま人格を乗っ取られるといったことが許されていいはずがない。

 今空を飛べるのはミコトとユウナだが、ミコトは魔力を使い果たし、今は休憩中。ユウナは倒れている。

 ミアを救える人物が誰もいない。


「くそ」


 ウェルツは思わず自身の膝をたたいた。


 無力だ。せっかく助っ人に入ったのに、ほとんどなにも出来ていない。


 今上を見ても、ミアの動きがさらに過熱するのが見えるのだ。

 ミアは戦いの中で速度を上げている。


 これでは本当に時間の問題だ。



「おい!」ウェルツは叫ぶ。だが、その声はおそらくミアには聞こえていない。何の反応もないのだ。

 ミアにも、ゲルドグリスティにも。

「もう戦いはやめるんだ。人格を乗っ取られるぞ」と言っても無駄だろう。


 ただ、黙って真の完成体になるのを見ているしかない。



「くそ、誰か飛べるやつはいないのか」


 ミアは体力切れ、ユウナは致命傷を喰らっている状況だ。



 そして黙ってみているしかないウェルツの前でその時はやって来た。


 ゲルドグリスティが空から降ってきた。その姿はもう絶命しているらしかった。

 今度は爆発していないので、偽物である可能性は少ないだろう。


 とりあえずは勝ったようだと、ひとまず安心する。だが、まずはミアの状態だ。

 組織の情報によれば真の完成体になれば従順に従うわけではないらしい。

 つまりもう一戦この状態で戦わなくてはならないことになるかもしれない。


 空中から降って降りてくるミア。


「ふう、みんな殺すのです!!」


 その姿は狂暴な獣のようだった。

 手を足のように地に這いつくばって、四足歩行をしている。


「恐ろしいな」


 ウェルツはそう感じた。

 直感で、これはまずいと思った。

 ぎりぎり理性を保っているが、あと少しで真の完成体に覚醒してしまう。


「おい、戦いは終わったんだ。戻ってこい!!」


 ウェルツは叫ぶ。だが、返事がない。


「くそ、本格的に飲み込まれつつあるか」


 その裏の人格によって。


(ああ、くそ。できれば殺したくねえ)


 彼女は彼女で利用されていただけなのだ。

 元に戻ったならそれで大万歳な話なのだ。

 戦力的にもそうだし、何よりミアが死んだらユウナが悲しみそうだ。


 だが、まずは止めなければならない。


「私が出る」


 そこに剣聖が来た。


「先ほどの戦い、ほとんど役には立ってなかったからな。ようやく剣聖の名にふさわしい戦いができるよ」

「殺さないでくれ」

「分かった」


 そして剣聖がミアと戦う。


 その戦いは熾烈を極めているが、体力という概念をなくしたミアの方が、優勢だ。

 何しろ剣聖は先ほどから戦いつくしだった。

 体力が残っているわけがない。

 それに、ミアの力は恐ろしく、剣聖は守備に徹することで、互角の状況を演出しているだけだ。

 勝ち目なんてない。


「おい! もう敵は死んだ。だからもう戦わなくていいんだ」


 返事はない。


「もういいんだよ」

「私は……強くないといけないのです。強くないと必要にされないのです!!!」


 強くないと必要とされない……

 もしや、ミドレムの影響か。


「私はあああああああ」

「もういいんだよ」


 いつの間にか後ろに座っていたユウナがそう言った。


「私は、強くなくてもあなたのことが大好きだよ。まだかかわった時間は少ないけど、でもあなたは十分すごいじゃん。あなたにここで死んでほしくないよ」


 そのユウナの目から涙が出る。


「だからお願い。帰ってきて」



 そのユウナの言葉が聞いたのか、ミアの体はそのまま倒れて行った。

 そしてそれに応じてユウナもまた意識を失った。


 結局戦いの結果、裏でイングリティアは裏で多数の死者を出しながらも、ロラン率いる反乱軍に打ち勝った。


 ユウナ達はぎりぎりの体力ながら、簡易避難場に行く。ユウナとミアはぞれぞれ剣聖とウェルツが背負っている。


 そこにはロティルニアと、アーノルドがいた。勿論国王もだ。

 何とか主要人物は死んでいなかったようだ。



「剣聖、その様子だと倒したのか?」

「ああ、ロランも、ゲルドグリスティもだ」

「ゲルドグリスティ……生きていたのか」


 そして、ウェルツと剣聖は事の顛末を伝えた。


「そうか、肝心な時にいなくてすまなかった」

「いや、アーノルドが謝ることじゃないさ」


 そして、いよいよ話はこれからのことに移る。

 何しろ城は燃え落ち、ロランのいなくなった今戦力が落ち、色々と目下の課題が残っているのだ。

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