第五十七話 最強の男
その頃ロランは剣聖とミア二人かかりでも全く引けを取っていなかった。
二対一なのに、まったくロランを倒せる気がしない。
どんな攻撃をしても止められるイメージがついてしまっている。
「はあはあ、強いのです」
ミアは再びロランに向かって拳を振るおうとするが、すべて剣で受け止められてしまう。
剣聖も同じくだ。
すべてにおいてロランの方が上。そんな絶望的状況だ。
「おいおい、ハールンクライン、そして完成体。お前ら二人がかりでこのざまかあ? みっともねえなあ」
「うるさいな」
「うるさい。お前自身もそう思ってるんだろ? アーノルドがくるまで粘ればいいって。そんなの自分の弱さを認めているみたいなもんじゃねえか。やっぱりお前に剣聖という言葉を名乗る資格なんてねえぞ。たまたま名家に拾われただけのお前には!!」
そう言ってロランは剣を振り回す。剣聖はそれを必死に受けるが、剣の動きがそれに追いつかない。
さらにロランは魔法も飛ばしてくる。
ミアも剣聖の援護に入ろうとしても、ロランが生み出す魔法で、なかなか前に進めない。
なんだこの魔力は。圧倒的すぎる。
しかも恐ろしいのは剣聖と戦いながら魔法をミアに向けていることだ。
ミアには拳以外の攻撃能力がない。
師匠となったのが魔法が得意なミドレムなのにだ。
それは、ミアに魔法の才能がなかったという事がある。
だからこそ物理方面を強化してきたのだ。
だが、そのせいで遠距離攻撃に弱い。
あの時はミドレムがユウナの攻撃を引き付けていたからだ。
だからこそ、多対一でも中々に戦えていた。
だが、今は違う、
物理も魔法もできるロランに対して苦戦するのは当然のことだった。
「はあはあ、なのです」
決定打がない。
剣聖にしてもミアにしてもだ。
そんな時、向こうから光が走った。
そして、ロランに向かって火の玉が豪速で飛んでくる。
「ちぃ、なんだ?」
ロランは叫ぶ。すると、魔法の出力が弱くなる。それを見て、ミアは剣をたたき折り、そのまま本体であるロランに向かう。
ロランは剣聖と剣をぶつけあっていた。
そのロランの背後からミアの拳が飛んでくる。
ロランはミアの拳に気付き、急いで背後を魔法で生み出した剣で守る。だが急造した剣にミアの攻撃を防ぐ力はなかった。
「ぬおおおおお」
ミアの拳をもろに喰らったロランは吹き飛ぶ。
だが、うまく受け身を取って地面にうまく着地する。
「ちぃ、三対一か」
そう、手で口元の血をぬぐいながらロランが言う。
「違うよ。四対一よ!」
そう、ミコトが言う。実は先ほどミアに強化魔法をかけていたのだ。
「どちらにしろ分が悪い。マイルツのやつめ……いや、マイルツはよくやった。死んだとはいえアーノルドを戦闘から離脱させたからな。問題はゲルドグリスティか。魔物は役に立つが、あいつは瞬殺されたからなあ。魔物ももう数が少なくなってしまった。俺一人でお前たちを掃滅するしかねえなあ!!」
ロランは空に火の玉を作り出す。
「俺は魔法剣士なんだよ!!」
そう叫ぶロラン。空から火の玉がミコトに降り注ぐ。
それも一つや二つじゃない。大量の火の玉が。
「それと一つ弱点を教えてやろうか。マイルツのやつの炎は思念の炎、つまり精神的ダメージを与えるだけの炎だった。あいつもこの城が燃えるのを避けていたようだからな。
だが、これは! 物理的な炎なんだよ。どうせ、まだ避難が達成できてないだろ? さあ、お前が逃げればこの城は燃える。どうするんだ?」
「まつて、そしたらあなたのための城も燃えちゃうじゃない」
「いいんだよ。それは作り直せば。マイルツが死んだ今、俺は賭けに出るしかねえ。
さて、俺は飛べる。ユウナお前も飛べる。だが、ハールンクラインとそこの完成体二人はどうかな?」
「私も飛べるもん」ミコトが抗議する。
「そうか、だが、飛べない無能を二人も運ぶのは至難の業だろ?」
「っ」
それにだ、ロランの言う通り、ロティルニアとアーノルドがまだ中に残っている可能性も高い。
手負いの二人だ。日に巻き込まれて死んでしまうかもしれない。
「さあ、くらえええ!!」
ユウナは空にバリアを作り、火の受け皿とする。
「なるほど。だがな」
ロランはユウナに斬りかかる。
「そこからどうするんだ!」
ユウナは今空のバリアに手がいっぱいで攻撃をよけられない。
だが、その剣はユウナに届く前に剣聖によって止められる。
「そうか、ハールンクラインお前もいたなあ」
「私がお前を倒す」
「そういきがるなよ」
ロランはハールンクラインのお腹をけり、そのまま雷弾を二つぶつける。
剣聖はぎりぎりでその雷弾を斬る。
そして次に動くのはミアだ。
ミアは剣聖とロランがぶつかり合ってるさなか、周りを走り、仕掛ける隙を見計らってた。そして剣聖をけった瞬間に攻撃に転じた。ロランの背中に向かって思い切り拳を振るう。
「見えてるよ。バーカ」
ミアの攻撃はロランの剣に阻まれる。
そして三人目、ユウナもロランの攻撃を完全に鎮圧後、岩をロランの方に思い切り発射する。
「お前もか」
ロランはシンプルに後ろに下がり、その岩をよける。
「っやっぱりわかってたけど」
手ごわい。一人しかいないのに、まるで三人対三人の混戦みたいだ。
ミコトもしっかりとサポートしている故、こちらの方が数は多いのに。
だが、そんな時ロランの目は後ろからとびかかってくる人物の姿を捉えた。
「何?」
「くらえええ!」
ロランはすぐに王魚は間に合わないお判断し、よけることを選択。だが、ゼロ距離に来てしまった今、よけきれなかった。
結果軽く肌を斬られる結果となった。
「ウェルツさん」
「ああ。待たせた」
先ほどまで、モブ兵士たちの処理に徹していたウェルツ、その第五の男に切られてしまったのだ。
「ちぃ、モブ過ぎて忘れてたぜ」
そうロランが悪態をつく。
「ごめん完全に存在忘れてた」
ユウナもそう言ったのに対しウェルツは頭を抱えながらため息をつく。
「はあ、忘れてたって。……だが、こちらにはさらに数が増えた。もう終わりだ」
「ふふふふふ、これで終わりか。なめややがって!!」
ロランは、地面に足をたたきつける。すると、建物が倒壊し始めた。
そう、城がだ。
「何?」
ユウナは叫ぶ。すると、不敵な笑みを見せるロランが、「この建物にはもともとマーキングしてたんだよ。本当は燃やした方がダメージになると思っていたが、こうなれば……な!」
そしてユウナ達は地面にたたき落される。だが、ユウナがぎりぎりで岩の足場を作り、最低限のダメージで済ます。そんな中空からたくさんのガーゴイルが岩の上の剣聖たちに向かって一気に襲い掛かる。
「そう、これだよ。これだよ、俺がしたかった攻めはよお!!」
そう高らかに笑うロラン。その傍ら剣聖とミアはガーゴイルたちを必死にたたき落そうとしている。
「こいつうざいのです。飛び回るななのです!」
ガーゴイルは攻撃しては退き、攻撃しては退きを繰り返す。
「このままじゃ、ダメだよね」
そう、ユウナは剣聖たちに言う。
「ロランが飛び回ってる以上、私も岩を使ってみんなを支えなくちゃいけない。その場合魔力も精神力も使っちゃう。でも、地上に降りたら空中からの集中砲火を喰らっちゃう」
遠距離攻撃型は飛べて、近接型は飛べないのもまた難題だ。
「だから、私一人でひとまず戦いながら、位置を固定させる。そして、隙を見て岩を背後に持って行くから、隙を見て岩にロランを載せて。そしたら……私が何とかするから」
「おい、だが」
その剣聖の言葉が終わらないうちにユウナ飛んで行った。
ロランの方に。
「一対一か? それとも隙を見て岩を動かすのか? どちらにしろ俺に勝てる道理はないけどな」
「黙ってて。あなたは今から私が倒すから」
あくまでユウナ一人じゃあロランは倒せない。それは分かっている。
今の勝負はどうやってロランを岩の上に持っていくか。それだけだ。
ユウナは剣をロランにぶつける。だが、もちろんあっという間に防戦一方、攻撃に移ることすらできない。
そんな時、ユウナは「今!」
そう叫んだ。その時、ミコトが岩を動かした。
最初はユウナが移動させるつもりだったが、結果ミコトがやった方がいいとなったのだ。
「そっちが移動役か」
「そうだね」
だけど、、それで奇襲を仕掛けるだけのつもりじゃない。実際岩の上ではまだガーゴイルとの激しい戦闘が続いている。
だから、剣聖やミア、ウェルツはただの囮だ。
「今かな」
そしてユウナは念話でミコトにタイミングを伝える。
防戦一方のユウナは、そのタイミングで、あえて、後ろに下がる。
「ふん、読めたぞ」
そう言って近づいてこないロラン。だが、
「それが狙いだよ」
そう微笑むユウナ。そう、ユウナは魔法でもう一つ岩を作り出し、その岩の上にもちゃんと魔法で製造してたウェルツ達を造り、ミコトが本物の岩を見えにくくしていたのだ。そしてロランは岩の上に載ってしまった。
その瞬間岩はミコトの魔法により大きくなり、ユウナの魔法によって岩の上に魔法の檻を作る。
むろんロランの力なら本気で破ろうと思ったらものの数分で破られてしまう。
だが、この岩の上には剣聖やミコトがいる。
「さあ、ラストバトルだよ」
ユウナは低い声でそう言った。




