第五十六話 マイルツの最期
だがその直前。「待って!」と言って一人の少女がやってきた。
そこで現れたのはミコトだ。
「私が回復する」
そう言って、アーノルドの体を回復させる。
「ありがとう」
実際完全には回復したわけではないが、ひとまずの応急処置としては十分だろう。
そいして続いてユウナも回復させた。
ミアは爆発に巻き込まれてはいたのだが、ぎりぎりでバリアを張って直撃を避けていたのだ。
「これで、こっちが優勢だね」
そうユウナが言う。
「なるほど、完全回復っていうわけか。面倒くさいなあ!!」
そう、地面を踏むマイルツ。その口調はいつもの丁寧口調から、荒々しいものに変わっている。
そして岩が空に浮かび上がる。巨大な岩だ。大きさ的には半径三〇メートルを超えている。
「これでも喰らええ」
岩がアーノルドの方へ向かってくる。
「っち、なるほど。これじゃあ人間の力を超えているな」
こんな岩はよほどの魔導士にしか作れない。少なくとも、男であり剣士でもあるマイルツに作れるものではない。
「そうだ。この力は素晴らしいぞ!!」
「いくら素晴らしくても、自分で手にした力じゃないなら意味がない。そんな借り物の力でやられてたまるか!」
アーノルドは岩を剣で木っ端みじんにする。その岩は一瞬で一六等分に斬られる。
「流石にその程度は防がれますよね」
そのマイルツの言葉が終わる前にアーノルドはマイルツの方へ走って向かう。
「人が言い終わる前にですか? ふざけんなよ。俺はただの通過点じゃないんだ」
「いや通過点だよ」
アーノルドの剣がマイルツの体に傷を入れる。
「ぬおお」
「強化した程度で俺に勝てるとでも思っているのか? 滑稽だな。俺の方が上だってところを見せつけてやる!」
そのままアーノルドは再びマイルツの方へと走りだし、剣でその肌を斬り、斬り、斬りまくる。
マイルツも必死に応戦しようとするが、その対応すべてが後手後手に回り、アーノルドの攻撃に追いついていない。
だが、
「ははは、ふざけたこと言ってんじゃねえよ。攻撃力が足りねえんだろ? 現に俺の体には全然傷がついていないぜ」
アーノルドは魔法を身体強化だけにとどめている。効率よく剣で戦うために。
だからこそ、だ。アーノルドには火力が足りない。
マイルツに勝っているのは素早さしかない。
「これじゃあ、いつまでたっても心臓にはたどり着けねえぞ」
「分かっているよ、そんなことは。だからこそ、お前を倒すのは俺じゃない」
そして、後ろにいるユウナをちらっと見る。
「任せて!!」
ユウナは手に力を籠める。巨大な火の玉を作ろうとする。
「さあ、お前の命もユウナが魔法を作り上げるまでだ」
事実、アーノルドにはユウナの魔法の実力が高いことはわかっている。
あの戦いのとき、メイリン相手には負けていたとはいえ、持ちこたえていたし、巨大な球を作り上げていた。それが魔法使いの力を受けているのならさらに強い力になっているはずだ。
この、マイルツを焼き尽くせるような。
「それまで俺と楽しい戦いを繰り広げようぜ」
「貴様あ!!」
そして、マイルツの強靭な手で剣が再び振り下ろされるが、やはりよけられる。
「単調なんだよ、その動きがあ!!」
剣が振り下ろされるたびに避ける、さらに避ける。
「確かに守備力と攻撃力が上がったみたいだが、スピードを犠牲にしてたらそりゃあ勝てないぜ。さっきまでの君の方が強敵だったよ!!!」
アーノルドはマイルツの体に再び斬りこむ……がダメージはやはり与えられない。
「その守備力が貴様にとっては厄介なのだろうが」
「俺の仕事はあくまでも時間稼ぎだからね。それよりいいのか? さっさと俺を倒さなくてさ」
「うるさい!」
そしてマイルツの手から強力な波動が放たれる。全方位攻撃だ。
「やべ」
アーノルドはすぐさまに身体強化を守備に回す。
「くそ。痛いな」
アーノルドはとっさに守備を取ったおかげであまりダメージも喰らっていない。
ならばと、マイルツは炎の球をぶつけに行く。
だが、そのすべての火の玉は軽々しくよけられる。
「おせえよ。のろま」
そう煽るアーノルドは、口に手を当て、欠伸をする真似をする。
「そろそろたまったかな」
ユウナは炎の出来具合を確かめる。
いい感じだ。
あとは二人の戦いの中で、きちんとマイルツだけに当てなければならない。
(そこが難しいんだよね)
何しろ、攻撃をアーノルドに当ててしまったら元も子もないのだから。
動きを観察する。マイルツが怒り狂ってアーノルドに火の玉を連続でぶつけようとしている。
この動きの中マイルツにだけ攻撃を当てる。
やっぱり難しい。だが、いつまでも攻撃をしなかったら、それこそ剣聖側の戦況が悪くなる。
早く隙を見つけなければ。
「お姉ちゃん。私に任せて」
そんな時、ミコトがそんなことを言った。
「どうして」
「私、お姉ちゃんの目になる」
そう言って、ミコトはユウナに強い魔法をかける。そう、目のエンハンスだ。ふつうこれをしたら自分の体も相手の動きも遅く見える。その場合、体の異常な遅さに、慣れてない人の場合感覚と身体能力のバグが生じて、気持ちが悪くなる。だが、それはあくまでも戦いの途中だからだ。体を動かしながら、目の急な強化に慣れなければならない。
だが、今回はユウナ自体は動かなくてもいいのだ。ただ、戦いの中に炎を投じればいい。
「これなら」
いける。スロウにになったマイルツに攻撃を充てるだけ。
「行けええー!!!!」
強烈な速さで炎球がマイルツに向かっていく。
「ここで来るかあ」
「ふん、終わりだな」
マイルツはよけることなくその炎球を喰らう。
「ふぬううううう。やられてたまるかああああ」
そして、強靭な体で受け流そうとする。だが、体はマイルツの思い描いていた未来とは違い、段々体が耐えきれなくなった。理想よりも体は柔かった。ユウナの炎球に耐えきれないくらいに、
体が焼ける。だめだ、これは耐えきれない。
「くそおおおお!!!!!」
マイルツはその球によって消滅し……なかった。
「危なかった。あと少し威力が高かったら消滅するところだった。だが、少し甘かったようだな。その程度では俺はやれんぞ!!!」
そう、笑った時だった。マイルツの目がアーノルドの剣を捉えた。
「これは、これはあ!?」
「終わりだ。お前の命のな」
そのままアーノルドは弱ったマイルツの体を二等分に切り刻んだ。
マイルツはそのまま体が消滅……しなかった。最後に爆発したのだ。先ほどのゲルドグリスティのように。
「ぐああ」
アーノルドはその爆発の衝撃をもろに喰らってしまった。
「っしまったな」
そのおかげで先ほどのゲルドグリスティの自爆の傷も開いていく。ミコトの回復魔法では「完全には回復していなかったのだ。
「……マイルツ……いや、葛藤は後だ。ロランを倒しに行くぞ」
アーノルドは立ち上がり、ロランの方へと向かおうとする。だが、
「参った。思ったよりもダメージが出かかったみたいだ」
そう、アーノルドは膝をつく。ダメージが思っていた以上に高かった。
「悪いな。俺はここでリタイアだ。ロランの相手は任せたぞ」
そう二人に言う。
「私もいるわ」
そんな三人に話しかけるのはロティルニアだ。
「私が戦う」
だが、ロティルニアがゲルドグリスティは置いといても、ロランとの戦いで戦力になるかと言われたらNOだ。
何しろ、その実力に差がありすぎるからだ。
それに王女という絶対に死んではならない立場でもある。
もしロティルニアが死んだら、後継ぎがいなくなり、次の王は分家の物になる。その際に内乱が起きる可能性があるのだ。
アーノルドは一瞬考え、
「……王女様は俺の護衛をやってくれませんか? このままでは雑兵にやられかねない」
「分かったわ」
アーノルドが言ったことは事実でもある。今の状態では危険がある。
そして、二人は王城の外に向かった。ユウナとミコトはそんな二人を見送ってからロランを倒しに向かう。
アーノルドとロティルニアが抜け、ユウナとミコトはロラン戦の助けに入ろうと、剣聖のもとへと向かう。




