第五十五話 マイルツの過去
ゲルドグリスティの体がすぐさま膨れ、爆発した。
「ぐああ」
「きゃああ」
アーノルド、ユウナの両名はその場に倒れる。
「っくそ、爆発する仕組みだったのか」
「もう!!」
アーノルドは何とか受け身を取れたが、ユウナはその場に転がっていく。
「大丈夫か」
アーノルドがユウナに話しかける。だが、ユウナは気を失っていた。
その時後ろから一人の男が入っていき、剣でアーノルドの背中を切ろうとした。だが、アーノルドはぎりぎりでその剣を受け、体勢を整える。
それから襲撃者を見る。
「やっぱりお前もか」
そこにいたのはマイルツだった。
「ぎりぎりで受けられたか、この隙を狙っていたんだが」
「馬鹿か、そんなもんで死ぬと思ったか? マイルツ」
アーノルドはマイルつをにらむ。
「お前も裏切っていたのか」
「当たり前っしょ。ロランの野望は俺の野望。ロランの右腕として今回の謀反は必要なものだ。さて、悪いが、ロランの助けには入らせねえ」
「だが、お前ひとりだけで俺を止められるとでも思っているのか?」
「思う!」
マイルツの魔力が膨張していく。
「まさか、お前」
「そうだ。自身の体に魔物の血を入れた」
体に魔物を取り入れる。つまりキメラのようなものだ。
それをしたら、莫大な力を得られるが、デメリットも起きい。
「まさか、ロランのやつが国を取ったその時、お前はいないつもりか」
「ああ、そうだ。ロランは俺のすべてを救ってくれた。だから、この身がどうなってもロランのもとにはいかせねえ!!」
なんという決意だろうか。ユウナはそれを見て思った。
元々マイルツは孤児だった。
「こらー」
「くそ、今日こそは捕まえてやる」
そんなことを町の人々が次々に言いながら少年を追いかける。そう、マイルツだ。
だが、小柄な体を生かし、細道へと逃げて行った。
「はあはあ、今日も生き延びた」
そう言いながら盗んだパンを食べた。
「美味しい」
だが、そんな生活も長くは続かなかった。
ある時から、全面的に顔写真が貼られ、まるで指名手配犯のような扱いを受けたのだ。
警戒される中で食べ物を盗めるほど甘くはなかった。
そして、食料も得られず、死ぬ寸前だった。
そんな彼を救ったのが、ロランだった。
「大丈夫か? 食べるか?」
そう、パンをマイルつに差し出すロラン。周りの仲間たちは「お前何か狂ったか? 虎児に食料を分け与えるなんて」「お前は与える側じゃなく、略奪する方だろ」「こりゃ、明日は雷でも降るだろな」
そんなことを次々に言う。
だが、ロランはその周りの声を一蹴した。
「こいつは将来強くなる。俺がそう断言する」
「はあ? そんなわけないですって」
そう、腹心だったミレが言った。
「大丈夫だ。俺の勘を信じろ」
その言葉通り、マイルツはすくすくと成長し、ロランの軍の主力となった。
ミレをはじめとした他の主力を押しのけて軍のナンバーツーになっていた。
「本当にお前を拾ったあの日、ここまで強くなるとは思わなかったな」
そう、ミレが言った。
「本当にミレは俺を信用してなかったよな」
「だって、そりゃあんな成長するとは思わないじゃないですか」
「まあ、私だって驚きですよ。こんなに力になれるとは」
「そうだな。これからも頼むぞ」
「はい!」
だが、そんなある日、ロランたちは絶望を知ることとなる。
潜伏先を完全にばれてしまっていたのだ。
そこにいたのはヒョウギリ、当時の彼らでは到底勝てない相手だった。
「お前らはここでとらえさせてもらう」
「ちぃ、逃げるぞ。マイルツ」
本来、たかが盗賊に当時成長株だったヒョウギリを充てるなんてプライドが許さない行動だった。だが、それをしなければならないと思わせたのは、ロランたちの成長力だ。
国に目をつけられたという事だ。
「ロランさん、俺たちが殿を務めます。ロランさんたちは逃げてください」
「いや、俺が殿を務める」「だめだ! あなたは死んだらだめだ。殿は私が勤めます」
マイルツがロランを説得する。だが、「お前も生きろ。ロランを支えられるのはお前だけだ」
そう、ミレが言う。
「俺はここでロランを逃がすために死ぬ。だから、マイルツお前は逃げ延びた先でロランの手助けをしろ」
「だけど、ミレさんの方」
「いいんだ。ロランのために死ねる。そんな幸せなことはない。ロランを頼んだぞ」
ロランとマイルツ含む数名はイングリティアに逃げ延びた。
ヒョウギリにとらわれたミレたちは即刻捉えられ、全員牢獄にぶち込まれたと知ったのは国にたどり着いてから数日後のことだった。
今更助けに行くことはできない。なら今できることは、そう考えたときに、マイルツがロランにとある提案をした。
「国の軍に入ってしまいましょう」と。
最初はロランもその発言には否定的だった。だが、マイルツの国家転覆作戦の全貌を聞いて、ロランは納得した。
なにしろ、国を取るというのは、ロランの長年の夢だったからだ。
そして、ロマイルツの作戦通り、国軍に入り、どんどんと位を上げていった。
そんなある日、マイルツのもとにある男が現れた。
「私はゲルドグリスティ、この世に魔王を復活させようとするものです」
「魔王だと」
その言葉はマイルツにとって信じがたいことだ。何しろ魔王なんて伝説上の人物。はるか前に勇者と名乗るものに滅ぼされたとされている。
何ならもう創作上の人物とも思われている人物だ。
マイルツも当然最初は頭のおかしい人間だと思った。だが、そのゲルドグリスティは、件の戦場で魔物を操って見せたのだ。そうなれば信じるしかない。
そして、ロランにそのことを告げると事実だと判明し、本格的にゲルドグリスティと手を組んだ。
そして計画は進んでいった。
そして実行日、彼らは内部から国王を捕らえた。
そして現在。
「たとえお前であろうと。容赦などしない。国を狙ったやつを俺は決して許さない」
「まあ、そういうと思ってましたよ。あなたは愛国心がありますからね」
剣を振るって、アーノルドの剣がぶつかり合う。
ゲルドグリスティの自爆のせいでユウナは倒れ、自身は多大なダメージを受けてしまった。
実力はアーノルドの方が上なはずだが、傷のせいで互角になっている。
向こうを見る。
そこではミアと剣聖が戦っている。だが、防戦一方。
やはり、二人だけではロランにはかなわない。
ロティルニアとウェルツは魔物の掃討に苦戦している。
「なるほど、このままだとまずいな。いずれ剣聖は倒れ、こちらに向かってくる」
「その通りだ。せいぜい私ごときに手間取るがいい」
「私ごとき? 今の君は強敵だよ」
そして、アーノルドは剣を構えなおす。
「そんな君を一瞬で切り殺すけどね!」
アーノルドは剣を全力でマイルツに振りかぶる。
マイルツはそれを剣で受け止める。だが、アーノルドは剣を素早い動きで打ち直す。その衝撃で、マイルツは後ろに下がる。
「時間がないんだ!!」
そのまま剣でマイルツの剣を打つ、うつうつ。
「俺をなめるなよ。傷を負ってても、お前が体を強化してても、俺にはかなわねえ!!」
「本当にそうか?」
そしてマイルツはその姿を偉業へと変えていく。
「やはり、ロランを王にできれば自身はどうなってもいいと思っているのか」
「勿論だ。俺の命よりもロランの夢の方が重要だ!!」
その姿は化け物の姿だ。角が生え、犬歯が口に生えている。
「この力で、貴様を倒してやるぞ、アーノルド」
「やってみろ!!」
そして二人はぶつかり合おうとする。




