第五十二話 裏切者
そして城にも踊ると、もう全て遅かったみたいだった。
「ねえ、これ……」
ユウナがつぶやく。王宮は見るからに違和感があった。
その中で何か事件が起きているという事は明らかな感じがした。
「ねえお姉ちゃん。これ」
「え?」
ミコトが指さした先にいたのは、鎧と兜を被った男性だ。城の中に入ろうとしている。
顔は見えない。ただ、見た目からして怪しそうなのは言うまでもない。
「突撃するぞ」
剣聖の指示により城に突入する三人。アーノルドはその一方、することがあると言って別のところに行った。
剣聖は深くは聞かなかったが、ユウナとミコトには疑問がのころばかりだ。
特にミコトに関しては、国が村を襲った=怪しい人物がいるという事だ。
慎重に中に入っていく。
中にはあまり人がいない。だが、その中には惨殺死体がいくつも転がっている。これを見ると、この中で大規模な戦闘があったという事がうかがえる。だが、行われているのか、行われた後なのかは、剣聖含め誰にも分からない。
ロティルニアは無事なのだろうか、ユウナは、少し焦る。
そのため、足も少し早くなり、どんどんと上に上がって行く。ケンセイも、ミコトすらもおいていくスピードで。
「おい! 一人で突っ込むな」
そう、剣聖が叫ぶが、ユウナには聞こえていない。ユウナはそんなのよりも、心配なものがあったのだ。
するとそこには、ロティルニアをたった今後ろ手に縛っている兵の姿があった。
それを見てユウナは「うわああああああ」と叫びなあがら、兵士を斬る。
「おい、取り押さえろ」
「させるかあああ」
ユウナは取り押さえに入る兵士たちをどんどんと斬っていく。修羅のような勢いで。
「ユウナ!!」
その光景を見て、ロティルニアも叫んだ。
そして剣聖が来た時にはロティルニアは開放された。ユウナがあっさりと全滅させていたのだ。だが、
ユウナも、新たな敵を警戒していた。
まさかこれだけの戦力で、あんなに沢山の死体の山が積もっているわけがない。
敵はまだ全滅していないと。
そんな時だ。
「お! 先に王女様を助けていたのか。偉いぞ、ハールンクライン」
「ああ、ロランか」
「ああ、ってなんだ。つーかお前らはあっちで魔物と戦ってたんじゃねえのか?」
「それはさっさと終わらせてきた。……それよりも」
剣聖はロランを睨む。
「なんで、こんな事態になっているんだ。お前というやつが居ながら」
「はは、仕方ねえじゃねえか。流石に一人でこの数は対処できねえよ」
「対処も何も、ここにはそんな数はいなかったはずだが」
「そりゃあそうさ、だって、他のところにも入られてるんだもんな」
「お前というやつが居ながら、まあいい、とりあえず行くぞ」
そう剣聖はロランを手招きする。
「おい、待てよ。まだ状況把握が終わってないだろ。まあ、いいさ。俺はとりあえず王女様を安全なところまで連れて行くわ」
「ああ、頼む」
そして、ユウナと共にいるロティルニアの手をロランがつかむ。だが、その瞬間にミコトが叫んだ。
「だめ! 逃げて!」
そしてミコトは魔法を数発ロランに向て放つ。だが、その攻撃は軽くいなされた。
「ミコト、なんで?」
ユウナは疑問を口にする。味方のはずのロランをなぜ、ミコトが攻撃したのだろうか。
「そうか、お前あの時のガキだな」
「あの時って?」
「まあいいや、王女様は連れて行くぜ」
「……ユウナ、助けて!!」
ロティルニアがそう叫ぶと同時に、ユウナは走り出す。
ロランに向かって剣を握りながら。
「ロラン、まさかお前が……」
「っち、ばれたら仕方ねえ。そうさ、俺がこの城に反乱を起こした。俺がこの国のトップに立つためになあ!!」
そう言ってユウナの攻撃を剣で防ぐ。
「そんなことはどうでもいい、ロティルニアをいじめるのは許さないから」
「いじめてないさ、まあ、国を取ったら即処刑はするがな。何しろ、新しい王にとって古き王なんて反乱のもとにしかならねえからな」
「っ、そんな身勝手な理由で」
「身勝手じゃねえよ!」
そのロランの一撃でユウナの剣ははじかれ、後ろに飛ぶ。
「古き王に死んでもらわなきゃ、反乱がおきちまう。旧王や、旧王女をリーダーに仕立ててな」
「あぅ」
ユウナは、地面を転がる。剣聖はユウナの助太刀に入ろうとするが、その目の前に一〇〇もの敵が現れる、
「俺の勝ちだ。だが、てめえは面倒なことに剣をいくらでも作り出せるんだろ?」
「うん。そうだよ」
そしてユウナは再び魔法で剣を作り出す。
そして、立ち上がり、再びロランに向かって走り出す。
「まあ、その剣もすぐに折ってやるがな!!!」
そしてロランは素早く地面を蹴り、ユウナの剣を叩き落す。それもユウナが反応するのが難しいレベルの速さで。
「期待させやがって、これくらいで終わるくらい雑魚なのかよ、完成体というものは。それともなんだ? 覚醒しきってないから雑魚なのか? 俺には分からんなあ」
そしてロランは再び斬りかかる。その攻撃でユウナの体から血が出、ユウナは手で傷口をさする。
「結局ミアとかいうやつからは、完成体に関する情報を聞き出せなかったが、お前は何か知ってるかな?」
「ミア……もしかしてミアに何かしたの?」
「ああ、ほんの拷問さ。それで、目から血を流し、手枷を自分で外したことには驚いたけどなあ。ああ、すぐにひねりつぶしてやったわ」
「……許さない」
同じ完成たいとして、ミアに対して理不尽に攻撃を加えたことが。
「許さない? なら俺を倒してみろよ!!!」
そしてロランはまた斬りかかりに来る。その勢いや強しで、ユウナを再び圧倒する。
「まさかもう殺される気なのか? まあいいさ、お前が目的でもないからな」
「……」
「お前も拷問の末殺してやる」
そう言い放ったロランの口調は低く、ユウナとミコトには恐ろしく感じた。
「お姉ちゃんを馬鹿にするな!!」
そしてそんな中、ミコトが炎の球をロランに放つ。だが、それは剣の一振りであっさりと消された。
「まさかそんなもので俺を足せると思ったのか? 滑稽なことだ」
「え? 嘘」
「嘘じゃあない。これが現実だあ!!」
ロランがそのままミコトを切り殺そうとする。ユウナはまずいと思う。だが、その時にはロランはユウナよりも後ろに来ており、もう手出しができない。
「ミコト―!!!」
叫ぶが、どうしようもないことはもうユウナにはわかっている。どうすればいい、どうすればいい? と、意味のない事ばかり考えてしまう。
そんなことをしている間に、ロランの剣がミコトの首元に来る。
ユウナとミコトは思わず目をつぶる。だが、ミコトの剣が斬られることはなかった。
その直前に剣聖によって止められたからだ。
「何しているんだ。ロラン」
「させるか!」
剣聖が即座にロランの目の前に出る。そして、ロランの剣を受ける。
「間に合ったか」
剣聖の通った後からは死体が転がっている。
「ほう、俺の部下を全員倒したってわけか。まあ、完成体よりは戦いになるだろうなあ!!」
「ロラン。私はいまだに信じられない。……お前が裏切り者だったなんて」
「だとしたらどうする? 今ここで殺すか? 長年共に戦ってきた同志を」
「殺すに決まっているだろ」
「はは、しょうもねえ絆だな。俺達の絆は」
「裏切り者にやる絆はない!!」
剣聖は空中に数十もの剣を生み出し、そこから連続で剣をロランの方へとむけて放つ。
「無駄だ! 俺が飛べることを忘れたんじゃねえだろうなあ?」
「忘れるわけがないだろ。だからこその剣だ!」
「ふん、それで俺が倒せるとでも思っているのか?」
ロランはそのまま炎を生み出し、剣の方にぶつける。その攻撃で剣は燃え尽きる。
「俺の方が、魔法も得意なんだよ!!」
だが、その瞬間炎の魔法がロランの死角から放たれる。だが、ロランは「っち、忘れてたよ。雑魚が」と言い、あっさりと避ける。
「むう、良い不意打ちだと思ったのに」
「そんな単調な攻撃が効くかよ」
「じゃあ!」
ユウナはそう言って、空中に飛んだ。もちろん、ロランと相対するためだ。
「へえ、てめえも飛べるのかよ? だけど、飛んだからって俺の相手になると思ったらそれは到底違うぜ」
そしてロランは剣をユウナの方に斬りに行く。
「私を忘れるなよ」
その瞬間、剣聖が剣をロランの方に向ける。
「忘れてないぜ」
ロランがそう言った瞬間、剣聖の剣はすべて叩き落された。
「なるほど、お前も仕込んでいたわけか」
その剣とは、見えない剣だ。その剣が剣聖の剣を防いだ。
「まさか私の上位互換と言いたいのか?」
「当たり前だろ。俺は、魔法剣士なんだ」
「だが、この魔法の扱いは私の方がなれているはずだ!!!」
そして剣聖はロランの剣を上手く押しのける。
「さあ、食らえ!!」
今ロランの剣はユウナと打ち合いをしている最中だ。これで終わる! はずだった。




