第三十六話 魔王軍
「うおおおおおおん!!!」
狼のような魔物が大量に向かってくる。
「何だこいつは!!」
ロランは叫び、狼を切り裂いていく。だが、あまりにも統率の取れた動きだ。常に三体で、特攻してくることもあり、一匹の狼に注目して戦うと、別の狼にやられてしまう。
さらに、思ったより冷静なその狼たちは、一気に突っ込んだりせず、時に下がって距離を取ったりして、中々こちらのペースにさせてくれない。現にロランやマイルツ以外の兵士どんどんとやられていく。
「なんだよ。この状況はよ!!! まさか、マンゴラス軍に、魔物使いでもいたのか?」
そう呟き、狼を一体一体切り裂くが、中々狼たちはいなくならない。
「っこいつらうぜえな」
森から延々と狼が向かってくる。途切れる気配がないのだ。
「おい! てめえら、マンゴラスが打たれたというのに、諦め悪いぞ!!」
「いや、俺たちじゃあ」
「なんだと!?」
ロランは驚愕する。するとその瞬間、マンゴラス軍の兵士にもどんどん狼が襲い掛かってきた。
そしてその頃ユウナたちがいる戦場でも、狼が来た。
「え? なんで」
ユウナは戸惑う。引き上げようと思ったら魔物が大量に出たからだ。
「どういうこと?」
「分からん。敵軍の罠かもしれない」
「……そう。まあでも、敵なら倒すしかないよね」
そしてユウナは指から炎を数発放ち狼のような魔物に当てる。
その攻撃でオオカミはダウンした。だが、後続の狼、だけでなく、あの時村で見た鬼のような魔物や、ゴブリン、コボルト、などなどの大量の魔物がいる。その魔物達は、死をも恐れずに連携して向かってくる。
アーノルドたちが食い止めているが、アーノルドも傷を負ってしまっていて、体力が持つかは分からない。無理もない、もうこの戦場は最後だと思って全力で戦ったのだから。
「くそ、誰だ! こんな事をしたのは!!」
ルベンが叫ぶ。するとその声に呼応するように空に人型の魔物、通称魔人が現れた。
「答えを教えてあげましょう!! 答えは君たち兵士が国に帰れないようにするためです。ついでに君たちを殺せれば大万歳という訳ですよ」
「だれだ、お前は」
「私ですか? 私は魔王軍参謀のゲルドグリスティです。行こう麻績おしりお気を。とはいえ、ここで消えてもらうのが一番いいのですけどねえ。ちなみに一つ教えてあげましょう。両国ともに私の部下の魔物を送りました。主力がいない今国は、その民はどうなってるでしょうか?」
「まさか……」
「その通り、もう民は虐殺され、国の体をなさなくなっているかもしれませんねえ。とはいえ君たちも安全ではありまっせん。死んでもらいましょう!!」
そして、ゲルドグリスティは大量の岩を持ち出した。
「岩というものは、爆発するためにあるものです。さあ、戦争ごっごの開始です! さあ、耐えきりなさい!!」
ゲルドグリスティが投げた岩はこちらにぶつかると同時に爆発する。その威力は絶大だ。
「ほほほほほ、手負いの軍では厳しいでしょう?」
「ふざけたこと言ってるんじゃねえ、俺の前で殺させえるか!!」
「ほほほほほ、その傷で私の攻撃を防ぐのですか? 無理でしょう、貴方には。そもそも剣士というものは空を飛べる私たち魔人には弱いはず。さあ、死になさい、アーノルド ケイン!」
岩が、アーノルドのもとへと向かう。だが、アーノルドはその岩を爆発する前に斬った。
「お前こそ、俺のことをなめすぎだ。……それにお前に立ち向かう手段などいくらでもあるさ」
「何ですか? それは。教えてもらいたいものですね」
「こうだ」
アーノルドは指を鳴らした。すると後方から岩が飛んできて、それに飛び乗った。岩は魔導士が上手くコントロールしている。
「移動手段さえあればいいんだろ? 簡単な話じゃないか」
そして、アーノルドはゲルドグリスティに向かって剣を振り下ろす。だが、その攻撃を横移動して避ける。
「ほほほ、自分の意思では岩を動かせないあなたとわたくしでは、空を飛べるという言葉の意味が異なります。それを分かっているのですか?」
ゲルドグリスティは後ろに下がりながらアーノルドに魔法を連発する。
「所詮、空を飛べない人は戦いにはついて行けないのです。あなたみたいな弱者はねえ」
「弱者だと?」
「ええ、空を飛べない物を弱者というんですよ」
「ふざけるな!」
アーノルドは執拗にゲルドグリスティを追う。
「それにしてもいいのですか? あなたがいないことで下の守りは弱くなっているようですが」
「どちみち、お前を自由にさせている方が犠牲は出る」
「物は言いようですね。ですが、わたくしとしては時間稼ぎが出来ればいい訳ですからねぇ」
そしてアーノルドとゲルドグリスティが戦いっているその間も、攻撃は止むことなく、ユウナたちはかなり疲弊している。
「ねえ、この攻撃いつ止むの?」
ユウナはウェルツに尋ねる。だが、ウェルツにもこたえられない。この奇襲によって、すでに二万はあった兵が、半数以下になってしまっている。このままでは全滅も時間の問題だ。
「早く終わらないと……魔力が、もうないかも」
剣で切り裂きながらユウナが言う。いくら雑魚とは言え、確実にその疲労と、ダメージは着実にたまっている。
「優奈、一旦休め。もう限界だろ?」
「そうだけど、こんな問い頃で休んだら全滅だよ」
そうユウナが言った瞬間、目の前でオオカミが一人の兵士の腕を食いちぎった。
「確かにな」
「がんばらないとお!」
それともう一つ問題がある。ユウナの精神が仮に壊れたりすると、ユウナはまた完成体への覚醒への一歩を歩むことになる。そうなればユウナは死ぬことになる。
そしてユウナは何とか魔力を使い、ぎりぎりまで戦う。
そしてその時、右翼が大爆発した。
「え? 何?」
ユウナは右を振り向く。会うるとそこには大量の負傷者がいる。ユウナはそこに駆け出そうとしたが、こちらにも魔物は向かってきており、動ける状況ではなかった。
その代わりにウェルツが上を見た。すると、爆弾岩がどんどんと撃ち落とされていた。そこには、ゲルトグリスティはいなかった。その代わりにガーゴイルが岩を落としているのだ。
「ユウナ。ここは俺が鵜やる、お前はあの魔物を打ち落としてくれ」
「うん。了解!」
そしてユウナは限界に等しい魔力の中、魔法を数発作り、ガーゴイル目掛けて飛ばす。するとその勢いでガーゴイルはその場に墜落した。
「これで……なんとか?」
だが、そこにまた別のガーゴイルが現れる。そして今度は左翼に爆弾がどんどん落とされる。
「……うそ?」
また、魔物かと、ユウナはうんざりした。正直さっきのは最後っ屁の最後っ屁だった。
もう魔力は残されていない。もう、全滅の危機すらある。
「悪い!!」
そう声が空中から聴こえた。そして、ガーゴイルはどんどんと斬られる。
「逃がしてしまった」
そう、下に向けてアーノルドが言った。ユウナはそれを聞いて軽くがっくりとくるが、それ以上に助かったという安堵感が体中を包み込む。
そしてゲルドグリスティが戻ってくる前に、魔物達は掃討された。ゲルドグリスティが戻ってこないという事は、もうここでこれ以上殺すのは諦めたのだろうか。
そして、ユウナたちは国に一目散に帰る。
「ねえ、メリーたちは大丈夫だよね」
ユウナはそうウェルツに訊く。今の心配は国の心配、および、皆の心配だ。
「それは分からんが、戦争に前線力を使ったとは思えん。なにせ、反乱や、錯乱、テロ、さらには組織など、危険がいっぱいある。それらに備える軍事力は残してあるだろう」
「そうだね」
そしてユウナは、寝てしまった。ウェルツは「やれやれ」と言い、ユウナをおんぶしながら帰る。




