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完成体少女  作者: 有原優
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第二話 牢の中

「先輩完成体と仲いいんすね」


 若い方の男……メルス-エイムズが看守に話しかける。


「まあな十年も一緒にいたらな」

「あんまり情を持たないでくださいよね、どうせ死んじゃうんですし」

「ああ分かってる、気を付けるさ」


 そう言って、看守は完成体の元へと戻る。



 SIDE少女


「そろそろ落ち着いたか」


 気を計らって、ついに看守さんは私に話しかけてきた。先程から近くにいたのは気づいていたが、話しかけにくかったのだろう。

 私が泣いているのだから。


「うん」

「お前の言うこともわかる、俺も同じ境遇だったらつらいと思うよ、ちょっと考えてみる」

「何を?」

「お前の境遇がよくなる方法をさ」

「うん」


 私は知っているのだ、何回もこの人がトライしてくれていたのを。それでも上から理不尽に却下されて来ているのを。


「じゃあ乗せるわ」

「うん」


 と、車いすに乗せられる。


「ねえこの実験が終わったら自由になるんだよね」


 確認する。その実験が終わったら自由になれる、その言葉だけでここまで生きて来たのだ。


「ああ、もう少しだけ頑張ってくれ」

「うん、あとどんぐらい?」

「わからんがもう少しだと思う」

「毎回そういうじゃん」


 そう、二十日も前からもう少しで実験が終わると言われているのだ。

  しかし、そのもう少しがいつなのか一向に分からない。


「仕方ないだろわからないんだから」

「ブーブー」

「愚痴を言うな」

「あーあまた牢の中か」


 愚痴を言うなと言うのが無理な話だ。

 この苦しみはこの苦しみを今まさに味わっている人にしかわからない。私はそう思う。


「すまんな」


 謝ってくる。

 私は知っているんだ。この人の努力を。だからこそ看守さんを責めることは出来ない。


「本当につらいし」


 とはいえ、私も完璧人間ではない。器もそこまで広くない。

 さすがに文句を言わずにはいられない。


「文句ばかり言うな」

「さっきは謝ってくれたのに」

「何でもかんでも謝ると思うな」

「なんでよ!」


 そして牢に連れ込まれそこで両手両足を縛られる。


 相変わらずのじめじめとして人間が入る隙間がない。私が拘束されていて動けないからいいかというような牢の狭さ、最悪だ。

 長年ここに住んでいるがこんなクソみたいな場所に愛着がわく訳がない。


「ここ感じ的にも見た目的にも狭いんだよね、なんか飾り付けとか装飾とかないの?」


 せめて、華々しい感じの雰囲気にでもしてくれたら愛着が付くというものだ。


「不満か」

「いつも同じ景色じゃん、ひーま」

「十年間ほとんどそんなこと言ってなかったじゃねえか」

「怖かったんだもん、言うのが」

「俺そんなに怖かったのか」

「うん」


 実際、最初の方は何か言ったら拷問されるのでは無いかと言う恐怖があった。

 もちろん今でこそこんな冗談も言えるくらいにはなっているのだが、流石に捕まってすぐに自分を拷問のような実験をしている人に心を開けと言われるほうが無理な話である。

 あの時は鬼のような顔をしてたのだし。


「まあそれはいいとして、とりあえず。そのことは考えとくわ。俺自身の力で何かできるかもしれないし」

「頼むよ」

「わかったわかった」

「ほんとーに」

「しつこいなわかってるって言っただろ」

「こわーい」


 私はそんなことを言ってみる。しかし、こんなものは地獄から一時的に逃れるためのものでしかない。会話。それが唯一の暇からの脱却方法なのだ。


「まったく」

「そういえばさあ、おなか減った、ごはん持ってきて」

「わかった持ってくる」

「待ってるからね」


 SIDE看守



「先輩牢で縛っとくなんてかわいそうじゃないですか?」


 と、また細いほうの男が看守に声をかけてきた。


「たしかにかわいそうだが、あの子の力はだいぶ強くなっている。もし今の状態で本気を出せばをあらゆるものを破壊してしまうんだ、だからコントロールしなければいけない」

「そうなんですか?」


 それは事実だ。上からは拘束している理由を能力の管理と伝えられている。ただ、それは建前だが。


「ああ、ただ俺だってこれでいいのかはわからん、この子には実験に耐えたとしても、化け物になるだけだからな。だださっき言ったことは建前だからな」

「どういうことですか?」

「本音は組織があの子を逃がしたくないということさ」


 もう一つあるけどな。と心の中で看守は唱えた。


「えー」

「まあ、そんな組織の中にいる俺たちもくずなのかもしれんがな、あの子が不思議だよ、なんで俺らにこんなに話してくるんだろうな」

「俺は話しかけられたことないですけど」

「俺は慣れられたということなのか」


 確かに、看守以外の人に彼女が話しかけていたのを見た事がない。


「ここにはまともな人間がいないですからね、まだましなんすよ先輩はきっと」

「まだましレベルなのか俺は」

「ここにいる人間なんてそういうもんでしょ、腐りきった人間しかいないでしょ、俺を含めて」


 そう、ここにはもはやまともな思考回路の人はいない、いるのは人を人だと思わない、狂人だけだ。


「でもさっき同情的な見方をしていなかったか?」

「それは、本当に思っているわけないじゃないですか、一応言ってみただけですよ」

「どういうことだ?」

「先輩がどう思っているのか試したかっただけです」


 思考チェックというわけか。だしかに看守は揺れている。組織に忠誠を尽くすと決めたはずだが、今まさに罪のない子供を苦しめている。これが本当に世界のためになるのかとも思い始めている。本当の気持ちは今看守にすら分からない。


「そうか、まあしかしそんな俺が軽々しくあの子と話していいのかと時々思うんだ、後輩に話す内容じゃない気がするがな」


 そんな看守だが、組織の人間である以上、彼女の味方のふりをして良いのか……と、時々思ってしまう。組織に属している以上、彼女に害を与えてる人のうちの一人だ。

 それに、今まで彼女にしてきたことを考えたら、何をされても仕方がないと思う。

 自分は所詮汚れた人間だ。彼女の笑顔を見るたびに、罪悪感が来る。

 彼女の涙を見るたびに罪悪感が来る。

 自分のせいだと。


 実際に彼女の味方の感じを出しているが、検討だけでは意味がない。実行しなければ彼女の味方とは名乗れない。

 ただ、組織も裏切る事ができない、いわゆる宙ぶらりんの立場なのだ。


「まあいいんじゃないんすかね、完成体の心の拠り所になれてるんだったら」

「まあな、でもさっき一人で泣いてたんだがな」


 中途半端な立場の自分では所詮拠り所にはならないのだ。


「そりゃそうすよね、俺も同じ状況だったら鬱になりますもん」

「俺は何も言ってやれないんだ……しょせん同じ立場じゃないからな」


 上の立場の……自由な人間からいくら慰めを受けてもそれは慰めにはならないだろう。


「そうすよね、ていうか食事取りに来たんじゃなかったんじゃないすか」

「忘れてた、腹すかせてるだろうからな」

「先輩そういえば……」

「ん?」

「組織を裏切らないでくださいね」

「ああ」


(たぶんな)と看守は心の中で呟く。彼には自信がないのだ。今の自分が組織に尽くせるという自信が。


 SIDE少女


「ほれ持ってきたぞ」

「ありがとー」


 そう言って私は少しずつその固定飲料を口に加えてもらい、チュウチュウと飲む。


「うえ、やっぱりまずい、吐き気がする」


 苦いし、飲んだ後に喉の奥で変な感触が残る。私はこれ以外の飲み物を飲んだ事がない。ただ、不味いということはわかる、人間が飲む物ではないという事は分かる。


「まあこれのまずさには同情するな、一回飲んだことあるけどまずすぎてはきかけたよ」

「じゃあ私えらいってこと?」

「ああ、栄養たくさんだしな」

「……ってあれ慣れてきたけど本当にまずいんだからね」


 実際、飲んだあと一時間程度は吐き気がして、しんどくてたまらない。

 今はあの実験のダメージが残っているからっていうのもあるけど。でも、あんな不味くても飲まなければ死ぬし、空腹よりは断然マシだ。


「わかってるよ」

「本当に?」

「まずいだろうがかんばって飲み込むんだ。空腹でまいらないようにな」


 何もすることがないから眠る。しかし、いつものことながらなかなか眠れない。


 まだあの液体の痛みが残っているし、腕も強制的に上にあげさせられているので腕も痛む。何より動けないのだ。

 ああ、痛みでしんどくなる。

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