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5/? A級冒険者の警戒

「魔物を乱量虐殺している奴がいる?」


「ああ、それも笑いながらな」


 チャオ・チェンは歴戦の女剣士である。東国のさる名家に生まれた彼女は、女であることを周囲に隠し、男として、剣士として自分を育てた父親に反発し、15歳の誕生日の前夜に東国を出奔し、冒険者となった。最初は世間知らずの小娘ということもあり騙されたり裏切られたりといった多くの苦労に見舞われたが、幸いよき仲間に恵まれ今では固い絆で結ばれた冒険者パーティーとして、A級にまで昇格できた。


 そんな彼女のパーティー『黄金の夜明けに吹く風』が今挑んでいるダンジョンが、砂漠の国デザトリアが誇るオアシスの街、デザトリオンにそびえ立つ難攻不落、前人未到の不思議の迷宮、デザーの塔である。入る度に内部構造が複雑に変化し、おまけに広く複雑で帰還アイテムがなければそのまま彷徨い続けて死んでしまいそうな程の悪意に満ちたかの塔は、おおよそふざけているのかと言いたくなるほど理不尽で、だがだからこそ挑み甲斐がある。


 A級冒険者としてのこれまでのキャリアがある彼女たちにとって、古の王が懸けた賞金などただの副産物に過ぎない。この数十年間誰にも攻略できなかったデザーの塔初攻略の偉業をもって、S級に昇格する。そのために、4人はここへ来たのだ。


「アイツ、なんかヤバそうだぜ。頭のネジがぶっ飛んでるんじゃねえかってぐらい、嫌な臭いがプンプンしやがる。おまけに黒騎士(デストレーサー)。まともじゃねえ」


「君がそこまで言うからには何かあるのだろうな、エメラリエ」


 聖銀の装備一式に身を包んだリザードマンの聖騎士(パラディン)エメラリエ。彼はリザードマンでありながら人間と仲よくしている変わり者で、悪態は吐くわ口は悪いわ喧嘩っ早いわと欠点もあるが、それを補っても余りある大事な仲間である。


「どうすル? 様子見しとくネ?」


 見た目だけなら愛くるしい人間の幼女にしか見えないが、実際にはパーティー最年長である人外幼女のカンフーロリ、拳聖(ハイパーモンク)のラオラオが口を挟む。


「低階層で弱い魔物をいたぶって喜ぶような冒険者など珍しくもあるまい。僕らの脅威になり得るようであれば要警戒だが、今はまだ見でいいんじゃないか?」


 爽やかイケメン銀髪エルフの魔導騎士(マジカルナイト)、シルバリオが眼鏡をクイっとさせながら肩を竦める。チャオ・チェン、ラオラオ、シルバリオの3名はいずれも細身のまだ若い美男美女に見えるが故、誰の目にもあきらかな強者に映る威圧感のある強面偉丈夫のエメラリエは黄金の夜明けに吹く風がその外見で周囲から舐められないようにするため必要不可欠だった。


「なんだアレは?」


「超気持ちいい!」


 偶然にも1階で見かけた噂のデストレ野郎は、あきらかに異様な強さだった。たった独りでありながら、6人がかりのフルメンバーで戦っているのと遜色ない戦闘力。彼の冒険者ランクがいかほどのものかは分からないが、実力だけならば間違いなくB級相当はあるだろう。加えて、底知れない不気味さもある。下手すれば、A級並みの力を隠し持っていても不思議ではないと感じられるほどの、妙な迫力があった。


「そこの君。少しいいだろうか。」


「ん? ああ、俺ですか」


 だからだろうか。咄嗟に声をかけてしまったのは。チャオ・チェンが彼に声をかけるとは思っていなかった仲間たちに、驚きと瞬時の警戒が走る。


「チャオ・チェン? なんでここに?」


 ゾクリと背筋に嫌なものが走る。咄嗟に刀に手をかけてしまいそうになった。見透かされている? そんなバカな。だが目の前の男の瞳は、まるで『お前の全てを知っている』とでも言わんばかりの不気味な光を湛えていた。


(油断すると蛇みたいに呑み込まれそうだ……気持ち悪い)

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