4/? デストレーサー本領発揮
「うわ、また来た……塔への挑戦ですか? 頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」
最初は愛想がよかったのに、段々距離を置かれるようになっていく大学のサークルの先輩たちみたいな冷たい笑顔を浮かべるオリビエに出迎えられ、俺は満面の笑みで塔に入る。この世界は楽しい。日本にいた頃より何倍も何十倍も充実している。独りぼっちがそのまま俺の力、強さになるなんて夢みたい。
「そろそろ行けるかな?」
宿屋で休んで気力も体力も万全。そろそろ1階ボスに挑むか。正直デストレ単騎ならある程度の階層までは全ステータス2.5倍の暴力で簡単に行けてしまうのだが、それでも死んだらその場で終わりのノーセーブソロプレイで油断は禁物である。足を踏み入れる度に構造が変化するローグライクダンジョンなだけあって、デザーの塔には魔物以外にも初見殺しの厄介な罠という危険が数多仕掛けられているのだから。
階層が低いうちは精々毒ガスやダメージを受けるトゲぐらいだろうが、中盤を超えた辺りから睡眠ガス、麻痺ガス、下のフロアに戻される落とし穴、魔物を呼び寄せる警報等々、厄介な罠が目白押しなのだ。どこからともなく猛毒の塗布された矢が飛んできて後ろからグサリ、とか、落とし穴で落下した先が溶岩地帯で溶岩にドボン、なんてことになったらおしまいである。
デザー塔は何度でも繰り返し遊べるローグライク。それは即ちトライ&エラーで死んで覚えることを前提とした死にゲーでもあることも意味している。事前に入念な準備をしたところで、ちょっとの不運でその全てが崩壊するなんてこともザラ。チャートはあくまで指針であり、大事なのは咄嗟の機転、判断力、いざって時のリカバリ力と運命力なのだから。
「そこの君。少しいいだろうか」
「ん? ああ、俺ですか」
声をかけられ、警戒しながら振り向く。そこにはいかにも僕たち強いですと言わんばかりの豪華な装備に身を包んだ冒険者パーティーの姿があった。サムライ風の装束に身を包んだリーダー格の女剣士とその仲間たち。俺に向ける視線は険しい。
「チャオ・チェン? なんで序盤に?」
「私の顔と名前を知っているのか」
「まあ、有名人ですし? 確か金の……」
「『黄金の夜明けに吹く風』だ」
名前を間違われたことが気に食わなかったのが、聖銀の鎧に身を包んだ巨漢のリザードマンが舌打ちしながら訂正する。大柄な巨体、緑の鱗、目付きの悪い隻眼。えっと、なんだっけ。名前忘れたけど、彼女の仲間だ。
女剣士チャオ・チェン。いわゆる男装の麗人である。女でありながらサムライとして誰よりも優れた腕を持つ彼女は、デザーの塔は甘くない。のイケメンライバル枠のキャラクターだ。A級冒険者パーティー『黄金の夜明けに吹く風』は現在このデザーの塔の攻略に挑戦している歴戦の猛者たちで、後々条件を満たせば仲間になる。仲間になるのだが、そこに至るまでに紆余曲折あるのだ。彼女たちとの初遭遇イベントは主人公が4階を突破してからの筈。これも原作補整が消えた影響なのかしら。
「それで? その有名人さんたちが俺に何か用ですか?」
レベル13で全てのステータスが2.5倍、約レベル32相当になっているとはいえ、相手は仲間加入時には全員レベル60超えの歴戦の古強者たちだ。今襲われて集団で袋叩きにされたら勝負にさえならない。俺は警戒しながら、それでも『お前の笑った顔ってなんか知らんけど妙にムカつくな』と前世で評判だった愛想笑いを浮かべた。大丈夫、勇者ショウトはイケメンだ。中身が元ブサメンの俺でも、ガワだけならゲームの主人公を張れるだけのイケメンなのだ。胸を張れ、臆するな。俺は、主人公だ!