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39/? そして不名誉な伝説ゑ

「うーん、うーん」


やる気が出ない。これが燃え尽き症候群って奴か。


「無駄に唸ってねーで、はよ朝飯食え」


「はーい」


 記念すべき世界初の『デザーの塔は甘くない。』のリアルリアルタイムアタックを完走したあの感動的な記念日から数日後。エメラリエによって無理矢理あの塔から連れ出されてしまった俺は今、旅人に変装して逃亡生活を送っていた。


 チャオ・チェンたちとの別れ際に、別の街に一瞬でワープできるアイテム『一瞬で到茶』を渡されていたという彼は、10階の天井が崩れて青空が見えた瞬間、一縷の望みをかけてそれを使用したらしい。そんなアイテムがあるなんて知らなかったな。デザー塔にはなかったから、それもゲーム外の要素なんだろう。彼いわく。塔の中では基本使えないアイテムだったから、本当にダメ元だったそうだ。たぶん封印されていた魔王が消えて天井が崩落したことで、使えるようになったのかもしれない。


 新聞によると現在は国王軍が飛空艇で空から乗り付け、地下迷宮と並行して塔の10階までの調査を行っているそうだ。そんなことしてる暇があるなら街の復興支援をしろ、と叩かれているようだが、それこそそこから先は俺らの知ったことではない。


「ここにいりゃしばらくは安全だろ。ほとぼりが冷めるまで身を隠して、落ち着いたら別の街に行こうぜ」


「つーか、ここどこなの? 俺まだ知らないんだけど」


「ああ。サンドリア王国の首都サンドリヨンからちょいと行ったところにある、ペロペロウの街だ」


「ブーッ!?」


 思わず朝食を吹きそうになってしまった。


「うお!? 大丈夫か!? いきなりどうした!?」


「ゲホゲホ! な、なんでもない! ちょっとむせただけ!」


 お洒落とスイーツの街サンドリヨン。それは『デザーの塔は甘くない。2~青春は短しカロリイを征服せよ乙女~』の舞台なのだ。デザーの塔は甘くない。がそれなりに人気を博したことで、製作者は続編の制作に取り掛かった。


 が、何を思ったのかローグライクのダンジョンRPGに乙女ゲー要素をくっ付けようとしたのだ。2の主人公は学園に通う16歳の美少女で、仲間になるのは全員イケメン。どうやら1作目にあった美少女キャラとイチャイチャできる要素が好評だったためか、2では女性ユーザーを取り込むためにそうしたらしいのだが。


 結局製作は難航し、1のコンパチでしかなかった体験版が頒布されてから数年間なんの音沙汰なし。結局そのままサーバーのサービス終了で作者のホームページが消えてしまい、カロリイ城は実在しない幻の続編になってしまったというわけ。


「何? 行きたいの? カロリイ城」


「まさか。デザーの塔であんな目に遭った後だぜ? どうせカロリイ城とやらにも碌でもねえ陰謀が渦巻いてるに決まってらあ」


「だよね、うん」


 カロリイ城の地下15階に眠る伝説のピンクダイヤモンドを手に入れた者は、最高に幸せな結婚ができる、という伝説を求めて難攻不落の地下迷宮に挑む女主人公と、サンドリア王国の王子様をはじめ、上級生から下級生、果ては教師まで数多くの素敵なイケメン仲間たちとともに、学園生活パートとダンジョン探索パートの両方を楽しめる一石二鳥のゲーム……になる筈だった幻の2作目。まさかこの世界にも存在していたとは! 世界観が地続きなんだからそりゃあってもおかしくはないだろうけれども、まさか本当にあるとは思わなかったから驚いたよ、カロリイ城。


「そもそもの疑問なんだけど、なんで君はまだ俺と一緒にいるの? デザーの塔は攻略し終わったんだから、自腹で俺の面倒看る必要なくない? 仲間のところに帰れば?」


「シー! 声がデカい!」


 そもそも俺、あそこで満足して死ぬつもりだったんですけど、とブーたれると、彼は顔を近付け小声で囁き始める。


「バカも休み休み言え。新聞読んだだろ。攻略の手柄、全部国王軍とあの女に横取りされちまったじゃねーか。冗談じゃねーぞ! アレを成し遂げたのは俺とお前だ! それなのに、俺らの名前は歴史に残るどころから歴史から抹消されちまった! 赦せねえ! ああ、絶対に赦せねえとも! こうなったら意地でも世界中にデザーの塔とデザトリア王国の真相を暴露してやる! でだ。唯一の当事者であり全ての目撃者であるお前に逃げられちまったら、俺はどうやって世間にそれを証明すりゃいい?」


「えー!? めんどくさーい!」


「うるせえ! こうなったら俺の名前と功績が世に認められるまで、死ぬまでお前に付きまとってやるからな! 絶対逃がさねーぞ! 世界の果て、地獄の底まで追いかけてやるから覚悟しとけ!」


「はー。よくやるね君も」


 とはいえ、だ。RTAを完走した直後で脳内麻薬ドバドバだったあの時とは違い、今の俺はわりと冷静さを取り戻して我に返った状態。別に今すぐ死んでもいい、みたいな高揚感は消え、人生最高の瞬間を過ぎ去ったことで満足感は落ち着いてしまった。であれば、この世界でこれから生きていくために、明確な目標がある、というのは悪いことではない。


「とりあえず、虎王を探して当面の生活費せびろっか。先立つものがないとなんにもできないもんね」


「ああ、そうだな。ひとつの国家にとって不都合な真実を世に広めようってんだ。後ろ盾がなけりゃプチっと潰されて終わっちまう。誰かに後ろ盾になってもらわなきゃ話にならねえ」


「それじゃあ、決まり。まずは虎王探しから始めよう」




勇者ソロ、ノーデスノーコン、縛りプレイ。ある転生者のRTA。

~嫌われジョブのぼっち走者が安定重視で一発完走を狙うようです~


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