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38/? 彼らのその後

「デザーの塔、遂に攻略される。お手柄オリビエ大佐、表彰へ、ねえ?」


「おまけに地震が起きて1階の床の一部が崩落し、デザーの塔に新たな地下迷宮が発見されたとか。彼らは一体どうなってしまったのでしょうか」


「さあな。俺が見込んだ男がしくじるとも思えんが」


 デザトリオンの街があるデザトリア王国から遠く離れた、お洒落とスイーツの国・サンドリア王国の首都サンドリヨン。隠し財産を使いこちらに亡命してきた虎王とその腹心の部下たちは、甘ったるい焼きたてのチュロスをかじりながら今朝の朝刊を折りたたんで公園のゴミ箱に捨てた。


「いずれにせよ、デザトリオンの街はもう終わりですね。アレだけの被害を被ったのですから、しばらくは地下迷宮の探索どころの騒ぎではないでしょう。仮に迅速な支援で急速に復興できたとしても、冒険者たちは二度と寄り付きませんよ」


「そうだな。結果として最終的にデザーの塔を攻略したのは国王軍、ってことになった。だが国王どもがどれだけ念入りに真実を闇に葬ろうと画策しようとも、人の口に戸は立てられん。どうせどれだけ頑張っても最後には国王軍に手柄を横取りされる、と思われちゃ、おしまいだ。果たしてあの潔癖症の女軍人が、偽りの名声にどこまで耐えられるか見物だな」


 だがそれは、虎王にはもうなんの関係もない話だ。一連の出来事の真実を全て闇に葬るということは即ち、虎王ファミリーのやらかしたホテル&カジノ大爆発で闇市とそこにいた大勢の人間が消し飛んだ事件もまとめて闇に葬られるだろう。二大稼ぎ頭を失い大赤字の大損だったが、これで大手を振って堂々と、サンドリヨンの街で旗揚げできる。


「……ボスはご存じだったのですか?」


「何をだ」


「この街にも、デザーの塔のような迷宮があることを」


 サンドリヨンが誇る超巨大迷宮、カロリイ城。入る度にマップや敵の出現パターンがランダムに変化する巨大な地下迷宮だ。この数百年間クリアできた者は誰もおらず、かつてサンドリア王国を治めていた時の女王がカロリイの古城の最深部に一番最初に到達した者に莫大な賞金と貴族籍を与えるとお触れを出した結果、世界中から大勢の冒険者が集まり、日々攻略に精を出しているという。


「ククク! もし奴らが無事にあの塔から逃げ延びることができたなら、ここへ来るかもしれんと。俺がそう考えたと言いたいのか?」


「はい。再会の約束などは取り付けておられないご様子でしたので。随分と気に入られたのでしょう? あの若者を」


「まあな。短い間だったがアイツの破天荒っぷりはなかなかに愉快だった。いけ好かない国王軍が慌てふためき泡食って振り回されるザマもな。出る杭は打たれるのが世の常だが、打った側の鉄槌が弾き返されて圧し折れるなんて光景は初めてだ」


「無駄に前向きというか、驚異的に上向き思考でしたからね彼」


 早朝からチュロスやアイスクリームやカプチーノの屋台が出店している朝の公園にはまだひと気が少ない。いるのは犬の散歩やジョギングをしている者ぐらいだ。誰にも聞かれていないことを確認しながら、虎王と腹心の部下は朝の散歩を楽しむ。


「噂によると、『黄金の夜明けに吹く風』もまたこの街に姿を現したそうです。カロリイ城に挑むかはまだ不明ですが」


「チャオ・チェンか。あんなことがあった後じゃ、挑む気も失せちまうだろうが。もし心変わりしたってんなら、そこにどんな理由があるのか興味はあるな」


「調べますか?」


「ああ。もしかしたら、エメラリエの奴が接触するかもしれん」


「奴は裏切り者ですよ? どの面下げて」


「世の中にはあるもんさ。赦される裏切りと、赦されねえ裏切りがな。お前にも身に覚えがあるんじゃないか?」


「それは……」


 はてさて、あの風変わりな嫌われ者とその家来になったトカゲ野郎は一体どこへ行ってしまったのか。虎王は煙草を心地よく吹かしながら、ニイっと牙を剥いて笑った。


「おっと」


「キャ!? すみません!」


「ボス! 大丈夫ですか!? このアマ! どこに目えつけてやがる!」


 いい感じにまとまりそうだったその時、ひとりの美少女がドン、と虎王にぶつかってきた。普段であれば腹心の部下が割って入って止めるべきであったが、ほんの一瞬虎王に言われた言葉の意味を反芻していたせいで、対応が遅れてしまった。


「ああ!? 少ないお小遣いをコツコツ貯めてようやく買えたアイスが!? ごめんなさいごめんなさい! どうしよう! うち、貧乏だからクリーニング代払えないのにい!」


「落ち着け。アイスよりまずは自分の心配をした方がいいんじゃないか?」


「は!? そうですよね!? やっぱ私、体で弁償させられちゃうんですか!? でもお願いします! どうか家族にだけは手を出さないで! 私が! 私が犠牲になりますから!」


「そういう意味で言ったわけじゃねえんだがなあ」


 いかにもドジで、露骨にそそっかしくて、死語だけどおっちょこちょいな美少女が、独りコントの如く喜怒哀楽を露わにしながら盛大に百面相する。


「……この周りを顧みない自己完結した意味不明っぷり、誰かに似てません? ボス」


「奇遇だな。俺もそう思ったところだ」


「?」

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