37/? ファイナルターン!
何故一介の冒険者に過ぎない『デザーの塔は甘くない。』の主人公ショウトを俺が『勇者ショウト』と呼ぶのか。それは、10階に封印されている魔王ハレロヤを倒すからだ。つまりは、これから勇者になるのだ。
「ワハハハハ! バカめ! まんまと騙されおったな! 欲に目が眩んだ愚かな人間め!」
石碑の中から噴出した赤黒い霧が、徐々に人の形を取り始める。それは見上げるような巨体となって、俺の目の前に立ちはだかった。わー大変だ。まんまと騙されちゃったね。聖王のフリをして俺たちを騙し、自分の封印を解かせたことで笑いが止まらなくなった魔王が、高笑いしながら実体化する。
「我は魔王ハレロヤ! 忌ま忌ましき聖王の封印を解いてくれたこと、礼を言うぞ! せめてもの礼だ! 一思いに苦しまずに殺してやろう!」
「前置き終わった? それじゃあ、サクサク始めましょうか。魔王を撃破した瞬間、遂に念願のタイマーストップです!」
「な!? 貴様!?」
聖王だと思って封印を解除したら、実は魔王の封印を解除しちゃいました。本来であれば動揺し、『俺はなんてことをしてしまったんだー!』などと叫びながら絶望すべき場面なのだろうが、俺からすれば文字送り連打でテキストを読み飛ばすだけの単なるロスタイム(使い方違う)でしかない。ちなみに本物の聖王はクリア後に行ける地下10階の裏ダンジョンの最深部に封印されている。俺が走ってきたのは表エンド到達RTAだから、裏ダンジョンには行かないし、行きたくても行けないけどね。街があの有様じゃあ、もう塔の探索どころじゃないだろうから。きっと誰も俺を勇者だなんて認めてくれないだろう。でもいいのだ。この世界の誰に認められずとも、俺が俺自身の偉大な挑戦の記録を認めてやれれば。
「くらえ! これが邪黒騎士(デストレーサーII)の最強奥義! 通常攻撃だあああ!」
魔剣の追加効果で通常攻撃が6回攻撃になった今、下手に魔法だのアイテムだのを使うより脳死で殴った方が早い。一度の斬撃で同じ個所をズババババ! と6回も斬りつけられたことに驚愕した魔王の顔が苦悶に歪む。9999ダメージ*6でおよそ6万弱のダメージだ。HPが10万しかない魔王ハレロヤは2回殴られたら死んじゃうみたい。
「ば、バカなあああああ!? あり得ぬ! あり得ぬぞ! この魔王ハレロヤが、たかが人間1匹如きにいいいいい!?」
最後の一撃は、呆気ない。魔王が断末魔の悲鳴を上げながら、闇の粒子となって盛大に砕け散る。この瞬間、タイマーストップ。記録は約600時間とちょっとでした。お疲れ様でした! 20分の動画にしてもPart1800までかかる大長編の動画になってしまいそうだ。毎日投稿しても完結まで5年はかかるとかどんだけだよ。
「……終わった。遂に終わったんだ。やり遂げた……うおおおお! 俺は遂にやり遂げたんだ! やった! やった! やったったぞおおおお!」
脳汁ドバドバで情緒がヤバい。この世界に転生してから、ずっと頑張ってきた俺の苦労が、遂に報われたのだ。俺は、なし遂げたのだ! いやー長かった! ほんっとーに長かった! 見てますか俺を転生させてくれたゲームの神様! 押し寄せてくる怒涛の達成感! 高揚感! 多幸感! 高校受験や大学受験の時より嬉しい! 俺は! 世界一になったんだ! 走者が独りしかいないから実質世界一だあああ! うおおおお!
俺が喜びに打ち震えていると、塔もガタガタ震え出した。地震か? いや違う。最上階に封印されていた魔王を倒したことで、聖王が封印に込めた人払いの結界が壊れ、それにより補強されていた塔の一部が崩落し始めたのだ。メタ的に言うならここで天井が壊れる演出を挟むことで、クリア後の展開に色々繋げるわけだが俺の冒険はここでおしまいだからそこら辺についてはどうでもいい。崩壊するダンジョンからの脱出はお約束だしね。
「大丈夫かシ様! 一体なんなんだこの地震は!? これも魔王の仕業なのか!?」
「あ、早く逃げないと危険だよエメラリエ。これから天井が落ちてきて空が見えるようになるから、押し潰されて死んじゃうよ」
「なんだと!? なんでそんなこと知って……いや、今はそれどころじゃない! さっさと逃げるぞ!」
地響きとともに天井からバラバラと落ちてくる石つぶてや粉塵。エメラリエは俺の手を掴もうとして、俺がそれを振り払う。
「うん、そうした方がいいね。そんじゃ、俺はここで死ぬからお別れだ」
「なんでだよ!? 折角デザーの塔を完全制覇したんだぞ!? 人生ここからじゃねえか!」
「逆だよ逆。もう完走したので、俺の特別延長戦はここでおしまい。ほんと、最期の最後にいい夢見させてもらったわ」
どうせ裏エンドには辿りつけそうもないし、そもそもそっちの練習は全然してこなかったからなあ。それにだ。俺はデザー塔の表エンドRTAがやりたかったのだ。デザーの塔は甘くない。の世界に転生して、そこで生きていきたかったわけじゃない。無事RTAを完走できた今、俺にはもうなんのやる気もモチベもないのだ。完全に燃え尽きてしまった。
「絶対どっかで離反して裏切るだろうなと思ってたけど、まさか最後まで裏切らなかったとは予想外だったよ。おめでとう、エメラリエ。国王軍があんな状態じゃ、君が歴史に名を刻めるかは微妙だけど、それでも君は夢を叶えた。俺と君のふたりで、この塔を登りきったんだ」
地響きが酷くなる。巨大な瓦礫がズシンと落ちてくる。天井に亀裂が入り、その切れ目から砂漠の青空、本物の青空が顔を覗かせる。
「ほら急いで。折角夢を叶えたってのに、早く逃げないと巻き込まれるよ。そんじゃ、サヨナラ」
「……ふざけんな! ふざけんなふざけんなふざけんな! ふざけんなあああああ!」
エメラリエ渾身の一撃。握り締められた拳が俺の頬を強かに殴り付ける。やっぱりダメージは皆無だった。こんなことしてる暇があるなら逃げないとヤバいのに。あ、そうこうしてる間に天井が!




