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3/? 異世界で転職活動を

「あ? 黒騎士(デストレーサー)に転職したいだあ? やめとけやめとけ。あんなジョブになってもなんの得もねえぞ。まともな冒険者ならまず選ばん」


「ご親切にご忠告ありがとうございます! でもいいんです! どうせなんのジョブになろうが俺なんかに友達や仲間ができるとも思えませんので!」


「そうかい。そこまで言うなら無理に止めはせんがね。老婆心ながら忠告させてもらうと、あんま自分のジョブを他人に明かさない方が身のためだよ」


 デザー塔には転職システムがある。レベルが5になると冒険者ギルド内にある転職窓口が解禁され、主人公や仲間を転職させられるようになるのだ。レベルとは別にジョブレベルを上げれば上級職に昇格することもできるため、どのジョブで攻略するかがプレイヤーの腕の見せどころとなる。当然強いジョブもあれば弱いジョブもあり、最弱ジョブ縛りなんて遊び方も可能だ。


 それにしても、転職システムはちゃんと機能していてくれてよかった。これで『転職したい? 俺に言われても困る』なんて言われて相手にもしてもらえなかったら泣くに泣けないところだった。ただでさえ勇者ソロ、ノーデスノーコン縛りなんて苦行をやっているところへ、転職禁止縛りまで追加されたらタイムが更に悲惨なことになっちゃうだろうから本当によかったよ。


「冒険者なんて、ただでさえ短命な職業なんだ。あんま生き急ぐもんじゃねえぞ」


「ありがとうございます! 命の使いどころはきちんと見極めるので大丈夫です!」


 転職お姉さんこと冒険者ギルドの従業員イリノイ。彼女も女軍人オリビエ同様条件を満たせば仲間にできる仲間キャラだ。野暮ったい眼鏡の美人さんなのだがいつもどこか人生に疲れた様子なのが特徴で、一部のファンからコアな人気がある。


「見るがいい! これが裏技の合法デストレーサー!」


 初期から選べるいわゆる下級職のうち、黒騎士(デストレーサー)はいわゆる暗黒騎士タイプのジョブだ。自分のHPを削って強力な一撃を放つ。加えてパーティーの仲間が死ぬと死んだ仲間の人数分だけパワーアップするパッシブスキル『デストレース』をジョブレベル13で習得することができるのだが、なんとフラグ管理ミスにより『仲間が誰もいない=仲間が0人の状態に限り、パーティーの空き人数がそのまま死んだ仲間の人数としてカウントされる』という致命的な仕様がある。


 デザー塔で一度にパーティーに加えられる仲間は5人。主人公+3人がスタメンで、残りの2人はスタメンが死ぬと控えから出てくるサブメンバーなのだがサブメンバーが死んでいてもデストレースは問題なく死者数にカウントするため、極論スタメン全員を黒騎士(デストレーサー)にして棺桶2個を引きずって歩く、みたいな攻略もできる。仲間が1人死んでいる毎に全てのステータスが30%アップ。死者が控えの2人だけでもスタメン4人のステータスが常時1.6倍で、5人全員死んでれば主人公の全てのステータスが2.5倍。単純計算でもレベル10の時点でレベル25相当の強さになるわけで、レベルが40もあれば全てのステータスがカンストしてしまう。


 この不具合はあまりにゲームバランスをぶっ壊しかねないバグ技めいた挙動であるため、バージョンアップデートで修正されるものと誰もが思い込んでいたのだが『デザーの塔は甘くない。』は一度もバージョンアップデートされないまま制作者のHPが閉鎖してしまったため、結局そのまま残ってしまった。


「強い! 強すぎる! 10連続圧勝!」


 1階の魔物を狩って貯めたコインで戦闘中に使える全体攻撃アイテムを買い込み、ソロでできる限りの効率的なザコ狩りをして、宿屋に戻って寝る。その繰り返して己を鍛え、遂に念願のレベル13に到達した俺は、目に見えて火力も敵から受けるダメージも激変したことで狂喜乱舞し、そのあまりの圧倒的すぎる強さに存分に酔い痴れた。この世界に転生して1週間。既にタイムどころの騒ぎじゃないが、それでも俺はRTAを諦めない。この強さがあれば、今までの遅れなんて一気に取り戻せる!


「強すぎて笑いが止まらねええええ! 俺、最強!」


「ねえ、アイツ」


「うわ、最悪」


「チ! ハゲタカのデストレ野郎かよ!」


 なお黒騎士(デストレーサー)に転職してから露骨に他の冒険者からの視線が険しいものになった。デストレーサーの専用武器である黒剣が目立つため、一目でバレる。どうやら仲間が死ぬと強くなる特性を持つデストレーサーは、この世界では『仲間の死を食い物にする最低のハゲタカ野郎』として忌み嫌われているらしい。まあ、当然だよね。死んでも生き返るゲームとは違って、死んだら終わりのリアルな世界で仲間の死が前提のジョブに就く奴なんて、碌なもんじゃないと思われても仕方ないもん。


 転職お姉さんのイリノイが難色を示していたのも頷ける。彼女は俺に、『お前は仲間の死を利用するゲス野郎になるつもりなのか?』と遠回しに問うていたのだ。『違うよ! 俺は誰も犠牲にするつもりはないよ! 削るのは自分の生命力(HP)だけだよ!』と主張しても、まあ誰も信じてはくれないよね。


 露骨に向けられる侮蔑や軽蔑の視線。でも前世大学生だった頃は誰に何も悪いことをしていないのに、ただそこにいるだけでそんな感じの視線を向けられるプロのぼっちだった俺には通用しない。いいんだ、ソロ縛りをするのに仲間なんて不要だ!

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