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36/? 最後のお買い物タイム、終了

「……要らねえー!」


「あれま、そうかい? このままなんの役にも立たないまんま終わったら、アンタらの冒険譚の中で、可愛いキャンディちゃんはただ可愛いだけのリンゴ売りのお姉さんになっちまうと思って、奮発したつもりだったんだけどねえ」


「もっとこう、アンダーグラウンドな品物を持ってきてほしかったかな! 贅沢は言えないけどさ!」


「……ああ、そうかい。そういう。アンタ、ほんとに不思議な……いや、不気味な子だねえ」


 彼女が用意してくれた品物は全て、可愛いキャンディちゃんのお店でしか買えないレアな武器防具やアイテムばかりだったが、それらは全て地上10階建ての『表ダンジョン』でしか売りに出されないものばかりだった。クリア後のお楽しみ要素、地下10階の『裏ダンジョン』でのみ売りに出される更に強力な武具は、一切この場にはない。それはゲームシステム的には全くもって正しいことだが、咄嗟に叫んでしまった俺を見る可愛いキャンディちゃんの目がスっと冷たくなったのは、彼女がなんらかの確信を得たためだろう。なんで知ってるんだい、と言わんばかりに。


「とりあえずこのファイナルエリクシール1個くださいな」


「あいよ。でも、謎のファイナルエリクシール売りのお嬢ちゃんよりかは、謎のリンゴ売りのお嬢ちゃんの方が、愛嬌があってミステリアスでよかったかもしれないねえ」


「本当に何も買わなくていいのか? どれもものすげえ武器や防具に見えるが」


「俺は虎王さんが俺のために調達してくれた装備を信じるよ」


 心にもないそれっぽい理由、と思われるかもしれんが、実際彼が俺に売ってくれた秘蔵の装備はどれもラスボス戦で十分に通用するものばかりだ。


「さてと。もう二度と会うこともないだろうが、達者でね。またいつかどこかで会ったなら、その時はぜひまたご贔屓に! キヒヒヒ!」


 可愛いキャンディちゃんはピンクの風呂敷包みをどっこいしょ、と背負い、それから軽快な足取りで去っていった。


「なんというか、アイツも本当に謎な存在だったな。絶対人間じゃねえだろって確信はあるが」


「いいんじゃないの? 謎は謎のままにしておいた方がロマンがあってさ。冒険者の人って、そういう未知なる神秘とか、不思議な謎が好きなんでしょ?」


「一理ある。アンタもたまにはいいこと言うじゃねえか」


 黄金の夜明けに吹く風も、可愛いキャンディちゃんも、みんな去っていった。今この塔の中にいるのは俺とエメラリエと、後は俺たちを必死になって追いかけてきているであろう国王軍と、それに便乗してハイエナ行為に及んでる冒険者ぐらいのものか。暴徒と化した街の住民たちは、さすがに中にまでは入ってこられないだろう。来たらむしろ評価する。


「……なあ」


「うん」


「アレは、なんだ?」


「さあ?」


 寒がリンゴをかじりながら、砂漠を丸一日歩き続け。俺たちが辿り着いた10階のボス部屋は、部屋ではなかった。まるで神殿のような造りの古めかしい廃墟。その中心部にそびえ立つのは、禍々しく黒光りする黒い石碑だった。


「よくぞ来た。勇敢なる冒険者たちよ」


「んな!? 石碑が喋った!?」


「我は雨季の聖王アメビエ。かつて私利私欲のためこの砂の大陸を支配しようとした邪悪な乾季の魔王ハレロヤと戦い、奴を白の石碑に封印するも、奴の最後の抵抗によって我自身もこうして黒の石碑に封印されてしまった過去を持つ、善良で人類想いの心優しい聖なる精霊だ。ちなみにとても美人」


「聖王アメビエ! 聞いたことあるぜ! 砂漠に伝わる伝説の! まさか本当に実在していたなんて!」


 おお、エメラリエが今、猛烈に感動している。聖王と魔王の伝説の戦いはこのデザトリア王国に古くから伝わるおとぎ話、という設定があるらしいから、恐らく彼もそのおとぎ話を聞いて育ったのだろう。俺は道中全部ガン無視で進んできたけど、デザーの塔のあちこちに隠されている壁画や碑文を読めばそれらのサブストーリーを楽しむことができるため、RTA走者になる前、一般プレイヤーとして純粋にゲームを楽しんでいた頃は、よく散策を楽しんだものだ。


「勇敢なる冒険者たちよ。魔王ハレロヤにかけられた我が封印を解き放ってくれ。さすればこの砂漠にはたちまち恵みが満ち満ち、ありとあらゆる恩恵と名声がそなたらの頭上にあまねく降り注ぐであろう。封印を解いたら裸の美女の姿で出てくるから目の保養にもなって実際お得」


「勿論だ! いいんだよな? シ様」


「いいよ。早く解き放ってあげよう。あ、封印を解除したらすぐに全速力でこの場から離れてね。戦闘に巻き込まれると、たぶん死ぬから(俺が)」


「……なあ」


「言ったよね? 君は俺の道具であり、所有物だって。俺の命令には絶対服従。それが嫌なら一緒には行かない。約束したよね」


「……ああ、分かってらあ。俺は、アンタを見込んでここまで来たんだ。だったら、最後の最後までアンタを信じた己の直感を信じ抜くさ。毒を食らわば皿までってな」


「ありがとう。また後で会おう」


 封印の結晶。いかにもこれを壊せば封印されてるものが出てきちゃいますよーと言わんばかりに禍々しい黒い光を放ちながら、空中にフワフワ浮かんでいる黒い石碑。エメラリエは頷き、廃墟から出ていった。後に残されたのは、俺とラスボスだけ。


「ヒャーハハハ! バカめ! まんまと騙されやがったな! これで俺様が全ての名声と栄光を独り占めだあ!」


 俺は高笑いしながら禍々しい黒い光を放つ、封印の結晶を魔剣・死苦破苦で叩き割った。すると途端に天高くそそり立つ黒い石碑の中から、禍々しい赤黒い霧が噴出する。その台詞はなんだって? いやほら、どうせなら人生で一度は言ってみたいじゃん。こういうコテコテの三下丸出しの悪役じみた台詞。折角嫌われ者のデストレーサーとして頑張ってきたんだから、最後ぐらいは、ね?


「ワハハハハ! バカめ! まんまと騙されおったな! 欲に目が眩んだ愚かな人間め!」


 石碑の中から噴出した赤黒い霧が、徐々に人の形を取り始める。それは見上げるような巨体となって、俺の目の前に立ちはだかった。

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