35/? いざ念願の待望の夢の最上階へ
「ここが……10階! 俺たちは、俺たちは遂に成し遂げたんだ! やった! やったぞ! うおおおおお!」
「喜ぶのはまだ早い。俺たちはまだ、10階の入り口に立ったに過ぎない。ここで死んだら全て終わりだ」
「それはそうかもしれんが! それでも普通嬉しいだろ!? 大喜びするだろ!?」
9階のボス、オニ盛りカスタードスライムを倒して、遂に俺たちは10階に到着した。前人未到、まだ誰も足を踏み入れたことのない、塔の最上階。エメラリエは感動し、雄叫びを上げながら全身で喜びを露わにしている。一方俺はと言うと、容量削減のために奇数階のボスが使い回しの色違いのスライム系のボスだったのは手抜きだよなあ、と風情のないことを考えていた。ホイップ、水飴、チーズ、チョこれート、そしてカスタード。クリア後に行けるようになる地下10階の裏ダンジョンには更に、もう5種類の色違いのスライムボスが待ち構えている。ま、俺はソイツには会いに行けそうもないけどね。なんせ街があの有様だから。
「ちぇ! ノリの悪い奴だぜ!」
「甘いよ。甘すぎるよ。『デザーの塔は甘くない。』んだ。最後の1分1秒まで、何が起こるか分からない。油断しちゃいけない」
そう、アレは世界記録も十分狙える好調な走りを見せていたある真夏の夜のこと。遂に10階まで到着した俺は、夕立による落雷が原因での突然の停電に見舞われ、目の前が物理的に真っ暗になったことがある。すぐに電気はついたが、記録はパーになった。あの時はマジで意識が飛びそうになったね。マジ泣きしながら布団に飛び込んで、不貞腐れながら半泣きになったもん。
「行こう。俺の貴重な記録を無駄にしないために。」
「お、おう!」
胸を張って完走したい。世界3位の記録保持者、いや、前人未到の、原作ゲームに酷似した異世界で、本物の塔を登ったリアルRTAの先駆者として。自分に恥じない走りをしたいんだ。この世界に転生してから今日で25日目。既に記録は600時間を超えているが、逆にそれだけの時間をかけてここまで走ってきたのだ。それを無駄にはしたくない。
「暑いな。干からびちまいそうだぜ」
「はい、寒がリンゴ」
「お、あんがとよ。最後まで用意がいいな、アンタ」
砂漠にそびえ立つデザーの塔。石造りの古めかしい迷宮、ジャングルのような蒸し暑い森、南国リゾート風の海、吹雪吹き荒れる過酷な雪山、灼熱の溶岩地帯、暗闇の大迷路、風光明媚な山に、台風が荒れ狂う迷宮、綺麗だけど凄く危険なお花畑。。数々の難所を乗り越えてようや辿り着いた10階は、辺り一面砂漠だった。まるで塔の外側に広がる景色をそのまま複写したような、どこまでも広がる果てしない砂漠が俺たちの行く手を阻む。
「あー、ほんとに俺、今10階にいるんだよな。もうすぐこの塔の秘密を解き明かせるんだ。なんか、緊張してきた」
「そんなに緊張してるといざって時に手元が狂うかもしれないよ。といっても、だからって緊張するなって方が無理かもだけど」
「まあな。なんせ最上階だぜ? この数十年間、未だかつてまだ誰も足を踏み入れたことのない、神秘と謎に包まれた前人未到のダンジョンの一番奥まで来たんだ。冒険者として、子供の頃からこの塔に憧れ続けたひとりの人間として、魂が震えないわけがねえだろうが」
「そんな君に残念なお報せがあります。お気の毒すぎて言うべきか迷いましたが」
「なんだよ? アンタがその口ぶりになると大抵ロクな目に遭わねえからおっかなくてしょうがねえよ」
「右手をご覧ください。一番高いのが中指でございます、じゃなくて」
俺が指さした先には、可愛いキャンディちゃんの露店があった。砂漠の砂の上に可愛らしいピンクの風呂敷を広げて正座し、冷たいお茶を飲んでいる。ヒュウ、と乾いた風が一陣、砂漠を吹き抜けていった。ガックリと、エメラリエが膝から崩れ落ちる。人ってあんなに綺麗にorzできるもんなんだな。可哀想に。
「キヒヒヒ! いらっしゃーい! 可愛いキャンディちゃんのお店へようこそ……って、どうかしたかね?」
「ショウト様も大概だけど! アンタもアンタで、一体なんなんだよ!?」
「謎だよね。ごめんね、気付かなかったフリをして通り過ぎてあげた方が君のためになるかなと思ったんだけど、気付いてるのに無視したら追いかけてきそうだったからつい」
可愛いキャンディちゃんこと放浪の妖精王キャヴェンディッシュ。完全ランダムでいたりいなかったりする神出鬼没の行商人はそう、10階にも平然と出店するのよ。
「あー! もー! 俺の夢、ぶち壊しじゃねーか! なんで先回りしてここにいるんだよ!? 10階だぞ!?」
「キヒヒヒ! 乙女の秘密って奴さ。なーに、心配は要らないよ。アタシゃただの通りすがりの、可愛い可愛い行商人にすぎないんだから。この塔を最初に制覇する栄光は、アンタら冒険者のもんだ」
その口ぶりだとラスボスを倒せるけど倒さないだけど自白してるようなもんだぞ。まあ、そんなのはエメラリエの知る由もないことだが。
「さーて、可愛いキャンディちゃんのお店へようこそ。これから伝説になる冒険者さんたち! 可愛いキャンディちゃん印の掘り出し物はご入用じゃないかい!」
俺は風呂敷の上に広げられた品物を見下ろす。前回、次に会う時はもっとマシな品を用意しておけと言ったせいか、かなり気合を入れて厳選した商品を選んで持ってきたらしい。どれもこれも、店売りどころか砂漠の闇市ですら滅多に手に入らない貴重品ばかりだ。
「そういや、アンタに伝言だよ。なんでもいいから、このくだらないバカ騒ぎをさっさと終わらせて頂戴、だそうだ。朝一で起こった謎の大爆発の影響で、冒険者ギルドも事態の把握にてんやわんやみたいだね」
「言われずともそのつもりですよ。こちとら最初から、1分1秒を急いでるんですから」
そうか、転職お姉さんのイリノイは無事だったか。闇市の9割が消し飛んだ大爆発の余波は、街中に及んでいることだろう。巻き込まれてないといいけど。なんて、心配する権利は俺にはなかったけどさ。それでもやっぱり、自分に親切にしてくれた優しい人が死んだら嫌じゃん?




