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33/? A級冒険者の幕引き

「……やはり来たか」


「どうも。まさか先に進まずに待ってるとは」


 チャオ・チェン率いるA級冒険者パーティー、『黄金の夜明けに吹く風』。4年の歳月をかけて、前人未到の7階まで到達した、けれど原作ゲームじゃそこが限界だった、作中最強の冒険者パーティー。そんな彼女らは今、8階ボス部屋の奥にある転送装置の前にいた。7階のボスを倒し、8階を攻略し、8階のボスまでもを倒したのだ。エメラリエ抜きで。


 いや、さすがにペース配分早すぎない? と思うかもしれないが、プレイヤーが9階への階段を登ろうとすると後ろから現れて会話を始めるのは原作通りの展開なので、そこら辺は仕様である。故に何もおかしくはない。いいね?


「久しぶり、と言うほどでもないが、エメラリエ。随分と、凄い格好になったものだ」


「ああ、そうだなチャオ。お前たちを裏切った男の末路には、お似合いだろ?」


 全身に爆薬を巻き付けたかつての仲間の姿に、3人から注がれる視線はそれぞれ違う。


「後悔は……物凄くしてる。あのままお前たちと一緒に、一歩一歩着実に、堂々と塔を登ることを選べたなら、どれだけよかっただろうな」


「今からでも遅くないネ。戻ってくれバ?」


「ありがとう、ラオラオ。でも、それはできない。それをやっちまったら俺は、今度こそ『終わる』。今だって、お前たちを裏切っちまった自分が赦せなくて、でも、そうまでしてでも夢を叶えたがってる自分がいることが信じられなくて、自分で自分を殺さないよう堪えるのに必死なんだ」


「まったく。君は昔から変わらないな。どうしようもなく頑固で、夢のためなら一直線で」


 眼鏡をクイっとしながら俯きがちに目を伏せたのはシルバリオだ。眼鏡が逆光になり、その表情は見えない。


「正直、君が単身彼の見張りを買って出た時、もしやと思った。当たってほしくない予想ほど、当たってしまうものだな。大丈夫、君を責めたりはしないよ」


「シルバリオ……すまん! 本当にすまん!」


 義理堅く、誰よりもまっすぐなリーダーのチャオ・チェン。武骨で不器用な、だけどほんとは親切なエメラリエ。常に冷静沈着だが、決して冷酷な奴ではないシルバリオ。年の功で誰より周囲をよく見ているムードメーカーのラオラオ。4人はきっと、本当に最高の冒険者パーティーだった。だからこそここまで来られた。


 だが、それも今日で終わりだ。諸行無常。形あるものにはいつか終わりが訪れる。永遠に終わらないものなんてない。だからこそ、誰もが『今』を大事に生きる。明日にはとわに手の届かないところへ行ってしまったとしても、精一杯悔いの残らないように。


「さてと。それじゃあ、競争といきますか。勝っても負けても恨みっこなし。待ったなしの一発真剣勝負。それとも、今すぐこの場で決着つけちゃいます?」


「いや、我々はこの勝負を下りることにした」


「え?」


「『黄金の夜明けに吹く風』のデザーの塔の探索は、中止だ」


 信じられない、とショウトは3人を見つめる。エメラリエも同様だ。


「それ本気? 折角8階までクリアできたのに? 残るは9階と10階だけだけど、いいの?」


「ああ。なんというか」


「冷めました」


「無理もないネ。街中があの有様ジャ」


 3人の表情には、ありありと嫌悪感が浮かんでいる。


「なるほど。確かにまともな人間なら、この街に嫌気が差すでしょうね」


「ああ。ずっと君の動向を監視していた私たちだからこそ、断言できる。君は、仲間を生贄にしたりなんかしていない。誰も殺しちゃいない。本当にただ、謎に強すぎるだけの冒険者だ。だが、今となっては誰もそれを信じはしないだろう」


 既にデザトリオンの街の秩序は崩壊している。一体何故あんなことになってしまったのか。誰が悪かったのか。少なくとも、ショウトではないと3人は考えている。


「君がメキメキと頭角を現してから、私たちへの風当たりは強まる一方だった。一体何故、あんなC級冒険者独りに負ける、お前たちはA級で、4人もいるのに、一体何をやっているんだ、とね」


「役立たずだの、無能だの、僕らがさっさと攻略を終わらせていればあんな奴に後れを取ることはなかっただの。よくもまあ何も知らない部外者が無責任にあそこまで言えるものだと、呆れを通り越して感心してしまったよ」


「胸糞悪い話ネ。そんなことされてまであんな奴らのために頑張ってやる義理はナシ! 世界は広イ。冒険者が冒険すべきところはまだまだ山積みなのだかラ、こんな街にもう用はないヨ!」


「とまあ、そんなわけでな。我々は手を引くことにしたんだ。オリビエには悪いが、彼女も段々私に苛立ちを感じているのが隠しきれなくなってきたようだったから……悲しいが、ここらでお別れだ」


 それはそれは、とショウトは肩を竦める。一番厄介だった競争相手がまさかの勝手に消えてくれて、内心満面の笑みでニッコニコだろうがそれを悟られないよう必死のポーカーフェイスだ。


「だから、パーティーを抜けたことを気に病む必要はないぞ、エメラリエ。遅いか早いかの違いでしかなかった。デザーの塔を登るのは君の夢だったんだろう? だったら、僕たちが去ることに納得できなかっただろう?」


「……ああ、そうだな。お前の言う通りだ。だがそれは、結果論であって」


「結果論でも。あまり自分を責めるな」


「そうそウ! エメラリエって自分勝手に見えて、ほんとは繊細なんだかラ!」


 チャオ・チェンが彼の手を取り握手をする。次いでシルバリオが。ラオラオはウインクと投げキッスだ。


「さようなら、エメラリエ。そして、ショウトさん」


「もう二度と会いたくないものだ。ああ、今のはエメラリエに言ったんじゃないぞ、君にだ。いつかまたとこかで会えたなら、その時は酒でも酌み交わそう、エメラリエ。そしてデザーの塔の最上階に何があったのか、聞かせてくれ」


「バイバイ! 頑張れヨ、ふたりとモ!」


「ああ……ありがとう! みんな、今まで本当に、本当にありがとう……!」


 それはいっそ清々しささえ感じる爽やかな別れの挨拶だった。かつての仲間たちは笑顔で袂を分かち、爽やかに去っていく。後に残されたのは、全身に爆薬を巻き付けた状態で嬉し涙を流すトカゲ男と、一応は自分も手を差し出したのに誰にも握手してもらえなかったため、行き場のない手を宙ぶらりんにさせているぼっち勇者であった。

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