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29/? 崩壊の始まり(とっくに始まってた)

「アナタは……! そう、そういうことですか。本当に、本当に最低ですね!」


「何が?」


「アナタもですエメラリエ! 恥を……恥を知りなさい! チャオ・チェンに悪いとは思わないのですが!」


「なんとでも言え。俺は夢を叶えるんだ。そのために魂もプライドも全部シ様に売り渡した。今の俺は、ただのエだ」


「人道に悖り! 仲間を裏切り! そうまでして掴んだ夢に一体なんの価値があるのですか! アナタは本当にそれでよいのですか!?  夢を叶えたその時、アナタは心の底から笑えるのですか!」


 オリビエの顔は今にも泣き出しそうだった。なんで? とは言うまい。


「……うるさい! うるさいうるさいうるさい! 弱いくせに! 国王軍だなんて威張り散らしたところで、何十年もかけて7階すら突破できなかったザコの集まりのくせに!」


「なんてことを! そこまで……そこまで堕ちたのですか、アナタは!」


「シ様は8階のボスを倒したぞ! 遂に9階だ! 俺はそのお供になるんだ! 俺が! 俺たちが! 一番乗りだ!」


「あ! バカ!」


「な、なんだと!?」


「遂に9階に至るものが現れたというのか!?」


「電報だ! 急ぎ本国に電報を打て! 今すぐにだ!」


 エメラリエの口を慌てて塞いでももう遅かった。にわかにザワつく国王軍。うん、間違いなく大騒ぎになるよね。だから秘密にしておきたかったのに! 口止めを指示し忘れた俺のバカあ!


「ま、まあまあ! 落ち着いて。ね? 部外者が事情も知らず当事者に口出しして、無駄に傷付け合っても悲しいだけですよ?」


「誰の! せいだと! 思ってるんですか! アナタなんか! アナタなんかあああ!」


「落ち着いてください大佐! 相手は民間人です!」


「うわああああ! あああああああ!」


「ほら行くよエメラリエ!」


 俺は今にも泣きそうな顔で立ち尽くしている大柄なリザードマンの手首を掴んで、虎王印の馬車まで歩き出した。虎王ファミリーの護衛さんたちが無表情で俺と、俺の家来を出迎えてくれる。彼らも仁義ありきの世界に生きる渡世人同士、身内への裏切りには批判的なのだろうか。いや、それは龍王ファミリーの方だな。虎王ファミリーはむしろ利益のためなら率先して裏切り、内部崩壊していく悪の側だ。


「気に病む必要はないからね。成功者はいつの時代も凡人の無理解による批判や身勝手な非難にさらされるものだよ。本気で上に行きたいなら、まずは君が上に行こうとするのを邪魔する奴らが足を引っ張って引きずり下ろそうとしてくるのをやっつけなきゃいけない」


「ありがとう、シ様。俺なら大丈夫だ。俺は、アンタについてくと決めた。何があってもだ」


「あの!」


 俺とエメラリエが馬車に乗り込もうとするとした直前、独りの美少女が声をかけてきた。誰だ?


「あの時は酷いこと言っちゃってごめんなさい! もしよかったら、今からでもやり直せないかな?」


 あ、と思い出す。彼女は俺がこの世界に転生した直後、全員の装備を売って金策にあてるために防具を脱いでくれと道具屋の前で要求した俺を変態呼ばわりして、強烈なビンタを食らわせて去っていった3人の仲間のうちの1人じゃないか。


「いえ、結構です。その節はどうもご迷惑をおかけしました。すみません、悪気はなかったんですよ」


「ううんいいの! アナタのこと、誤解してたみたい! 今なら裸にだって喜んでなるわ! だから私を仲間に」


「触るな! 俺の主だ!」


 いきなり俺に抱き着いてこようとした彼女を、エメラリエがガシっとインターセプトする。突き飛ばされて尻もちを突いた彼女は、憎々しげに彼を睨み付けた。


「俺に仲間は不要です。サヨナラ」


「待って! ねえ待ってよ! そこのトカゲ男は仲間にしてるじゃない! そんな奴より私の方が!」


 バタン、と馬車のドアが閉まる。ああもう街の住民たちの情緒メチャクチャだよ! だがしかし、この程度の混沌はこれから始まる崩壊の幕開けに過ぎなかったのである。

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