表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/42

28/? かわいそうなのはだあれ

 やまない雨はないと言うが、8階は永遠にやまない暴風雨が吹き荒れる嵐のフロアだ。今更だがデザー塔のダンジョンマップについて解説しておこう。幾らランダム生成されるローグライクダンジョンとはいえ、そのマップチップのパターンは多くても40種類もない。何度も何度も周回しているうちに、マップの生成パターンは全て覚えてしまった。俺のボス部屋までの到達速度が異様に早いのはそのためだ。このマップチップなら罠パネルはあそこに仕掛けられてるな、と配置を読み、サクサク進んでいく。ちなみに落とし穴に落ちても7階の空から大量の水が降ってくることはない。ほんとにどうなってるのか不思議だね。


「はあ! はあ! うぶッ!? あ、雨が口ん中に! つーか、寒い寒い! 猛烈な雨と風で体温が急激に下がって!」


「低体温症で死んではいけません。暑がリンゴを食べましょう」


「お、俺トカゲだから! 4階の雪もそうだったけど、寒さに弱いんだよ!」


「動けなくなったら置き去りにしますよ。私は先を急ぐ身なので」


「が、頑張ります!」


 なんだろう、もし彼の名が歴史に刻まれその活躍が後世に語り継がれたとして。その英雄譚のタイトルは『可哀想な裏切りトカゲ』とかになるんじゃなかろうか。まあ、どんな形であれお望み通り『歴史に名を残せる』なら本望だろう。タイムは尊厳よりも重い。まあ、7階であんだけ情緒も尊厳もグチャグチャになった後だ。ズンドコのどん底まで落ちきった後は、もう上がるだけ。


「うひゃあ!? かかか雷があ!?」


「ただの落雷ギミックですよ。当たったら大ダメージですが即死はしません。それにほら、落ちる前にちゃんと地面に光の目印が出現したでしょう? 全て避ければ問題ありません」


「のわああああ!? ら、雷鳴で耳が!? 稲光で目があああ!?」


「気合いで耐えましょう。全ては私らの夢のためです。夢さえあればなんでもできる! それとも、あなたの夢はその程度だったんですか? エ」


「ゆ、夢! 俺の夢! うおおおお! やってやらああああ!」


「来ます! 右にジャンプ!」


「ぬぎゃああああ!?」


 ちなみに8階に降り続く雨は継続的にこちらのHPを削り続ける毒の沼地みたいなもんだ。俺は8階に続く階段の途中で水耐性のあるサメちゃん帽子をかぶったため地形ダメージを無効化しているが、エメラリエの分はない。ごめんね、1個以外は全部売っちゃったの。代わりに雷弱点になってるから落雷ギミックが直撃したら大ダメージだからトントンってことで、赦してちょーだい。


「寒い辛い寒い辛い寒い辛い寒い辛いいい!」


「夢夢夢夢夢夢夢夢夢!」


「ぐ!? 気合いだ! 頑張れ俺! 俺ならやれる筈だ! 夢を叶えるために、頑張れ! 頑張るんだ俺!」


 少しでも黄金の以下略よりも先へ進むため、強行軍で突き進んだお陰で8階は難なくボス部屋まで辿り着くことができた。アレだけ精悍で強面だった巨漢のリザードマンが、ゲッソリやつれてしまったようだが戦闘には参加させないので問題あるまい。ゆっくり休んでてね!


「それじゃ、俺はボスに挑んでくるから見張りよろしく。もし君の昔の仲間が追い付いてきたら、その時は邪魔をしてはいけませんよ。この街の住民は99%が俺の敵です。もし彼女らが『俺に邪魔された』なんて言い出した日には、間違いなく大義名分を得た住民たちが嬉々として襲いかかってくるでしょう」


「お、おう。独りで大丈夫……だよな、アンタなら。俺なんかいなくても、ヘヘ。どうせ俺なんか……」


 卑屈な笑みを浮かべたトカゲちゃんが、体育座りでボス部屋の前に座り込む。ちょうどひさしがあるため雨宿りを……いや関係ないか。ボス部屋の周辺だけは暴風雨も雷も遮断されているようで、彼は鎧が砕けてボロボロになったせいで今はズブ濡れのインナーだけを着込んだ姿で床にのの字を書き始める。そのうち頭からキノコでも生えてきそうな面持ちだがそんな状態異常はないのでたぶん大丈夫だろう。


「頑張るぞっと」


 8階のボスはデバフを多用しまくるビリビリ刺激のソーダクラーケンだ。それぞれの触手がデバフ攻撃に特化しており、対策を怠るとあっという間にデバフまみれになって何ひとつ身動きが取れなくなる。おまけに8本の足は倒すべき順序が厳密に定められており、1回でも間違えるとまた最初からやり直し。苦労して切断した触手が一気にニュっと全部はえてきて復活するというクソ仕様で、俺も初見プレイの時は何も知らずに全滅させられ半泣きになったのをよく覚えている。


「マネーの虎王! 虎王様最高! 虎王様万歳!」


 幸い俺はサメちゃん帽子をかぶった際に、全ての状態異常を防ぐ装飾品『春と夏と秋と冬の思い出』も一緒に装備している。ピンク、青、オレンジ、白の宝石がはめ込まれた豪華な首飾りのお陰で苦もなくソーダクラーケンを討伐することができた。アレが欲しいこれが欲しいというお願いをすると、すぐに叶えてくれる有力なパトロンがいてくれると本当に助かるね。これがパパ活って奴かしら?(たぶん、いや、絶対違う)


 それから、俺とエメラリエは同じパーティーの仲間じゃない理論は無事にうまく働いてくれたようだった。彼を部屋の外に残し、独りでボスに挑んでいる間、ダメージらしいダメージも受けなかったので、どうやら彼は現状非戦闘要員のNPCと見做されているらしい。であればこのままの状態を維持しつつ、可及的速やかに彼を最大限利用して攻略を急ごう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ