25/? 男の子の意地と夢
「戦う前に、ダメ元で訊いときたい」
「なんでしょう?」
「俺をアンタの仲間にしてくれ、と言ったらどうする?」
「ごめんなさい」
「即答かよ!」
「うん」
「どうしてもダメか? 荷物持ちでもいい。下働きでも小間使いでもなんでもする。なんなら、10階のボスとの戦いで俺を殺しても構わない」
「そんなに?」
「ああ。デザーの塔を攻略して歴史に名前を刻むのが、俺のガキの頃からの夢なんだ。デザーの塔を歴史上初めて、一番最初に攻略したパーティーの一員として、俺の名前が歴史に遺るなら、そのために死んだっていい。だから頼む、俺をアンタの仲間にしてくれ!」
エメラリエは武器を、聖銀の剣を地面に突き刺し、そのまま土下座した。
「そこまでする?」
「する。俺の一生に一度の、最初で最後の、人生最大の夢の叶えるためなら。アンタにはそれだけの価値がある。手始めにあの3人を殺してその首を獲って来いって言うなら、今から殺しに行く」
「あのね。仲間を平然と裏切る奴を、仲間にしたい奴がいると思う?」
彼はとてもじゃないがパラディンとは思えない、濁った眼をして顔を上げた。
「理由を。訊いてもいいか? なんで俺じゃダメなんだ?」
「だから、仲間を裏切るような奴は信用できない、とか?」
「嘘吐け。そんな口から出任せで誤魔化されてやれるかよ。俺はな、この塔に人生賭けてんだ。命懸けてんだ。夢を見てるんだ」
立ち上がる。聖剣を引き抜く。正気を失った顔になる。濁った眼が俺を射貫く。縋るような、憎むような、グチャグチャになった感情が今にも爆発的に噴火しそうな。
「ガキの頃からの夢だった。未だ誰も成し遂げたことのない、前人未到のダンジョンへの挑戦さ。歴史に名が残る。誰も彼もが俺の冒険譚に胸躍らせる。そんな人生最高の一瞬を、迎えるためにここまで来たんだ。4年、いや、その前からもっとずっと。俺は頑張って頑張って頑張って頑張って、努力してきた。その努力が、遂に報われるかもしれねえんだ」
俺も剣を引き抜く。朝日の如き煌めきを放つ聖銀の聖剣と、禍々しい赤い模様が刃に刻まれた黒剣。虎王さんの持つコネクションをフル活用して、わざわざ別の街から大急ぎで取り寄せてもらったデストレ専用の最強武器。魔剣・死苦破苦。その効果は――死んだ仲間の数だけ攻撃回数+1。
「邪魔、しねーでくんねーかな。俺の、ロマーンチックな夢をさ。あと少し、あと少しなんだ。アンタほどじゃないかもしれんが、アイツらは俺が知る限りでも最高のメンバーだ。きっとあと5年、いや3年もあれば、10階まで行ける筈なんだ」
「その最高のメンバーを裏切ろうとしたあなたが何を言っても、俺の心にはこれっぽっちも響きませんけどね。嫌だと言ったら?」
「そりゃーもう、今ここで! 死んでもらうしか! ねーよなあ?!」
この塔を、誰より早く、登りきる。天辺まで、どっちが早いか。RTA走者と冒険者。互いの譲れない夢のために。命を懸けた、男の子同士の戦いが、始まった。




