24/? 山はいいぞ(いいぞ)
5階溶岩フロアのボス、熱々とろけるチーズスライム並びに6階暗闇迷路フロアのボス、バターにナッチャッタイガーを4日間かけて立て続けに撃破した俺は、遂に7階、山エリアにまで登り詰めた。デザーの塔が発見され、国王軍を使った攻略に失敗した当時のデザトリア王が莫大な賞金を懸けてから数十年。多くの人間たちが沢山の屍を積み上げながらここまでやってきた。その人類最先端の地。言わば、デザーの塔攻略の最前線。ここがそうだと思うと、なんだか感慨深いものがある。
7階フロアはそのものズバリ、山岳地帯だ。もはや塔の中に山があるなんて光景にもちっとも驚かなくなってしまった。攻略wikiによれば標高1492mという設定があるらしいが、ぶっちゃけフレーバー要素なんでどうでもいいと思ってた。しかし、今は違う。俺はこれから標高1492mの山を登らなければならない。襲い来る魔物たちの猛攻をかわし、仕掛けられた危険な罠を乗り越え、入る度に山の地形が変わるローグライク仕様なせいで登山計画も立てようがなければ遭難しても誰も助けに来てくれない山に、独りで!
「ヤッホー!」
『ヤッホー!』
「ワンダー!」
『フォーゲル!』
「黒ヤッホー!」
『黒いヤッホー!』
うん、ちゃんとやまびこが返ってくるね。なんか変なのも混じってた気がするけど。気合いを入れたところで、正直4階の豪雪地帯や4階の溶岩地帯に比べれば、風光明媚な山は凄くハイキンガルな気分になる。空は快晴、空気は美味しい。魔物は超強いけど、全ステータスがカンストした上でキッチリ装備を整えたデストレIIの敵ではない。俺はこの世界にもあったチョこれートの板をかじりながら、ルンルン気分で山道を登っていく。てっきり前人未到の獣道を歩かされるのかと思いきや、整備された山道が続いてるのには笑うしかなかったわ。変なとこだけゲームに忠実だなあ!
「よう」
「あ、どうもこんにちは! いい登山日和ですね!」
「舐めとんのか!」
「え!? 山ですれ違ったら爽やかに挨拶をするのは登山者のマナーでは!?」
山道の中腹。山頂へ続く道のど真ん中に、彼は立っていた。黄金の夜明けに吹く風のタンク担当、聖銀の鎧に身を包んだ緑の鱗の巨漢リザードマン。聖騎士エメラリエが仁王立ちして、俺の行く手に立ちはだかる。
「遂に来ちまったか、ここまで」
「来ちゃいましたねえ」
「お前が現れたからまだ1か月も経ってねえんだぞ。それなのにもう、だ。一体俺らが7階に来るまでどんだけ苦労したと思ってやがる」
「知りませんねえ」
「ああ、そうだろうな。俺らがこの街に来て4年。7階のボスで躓いて半年ちょっと。非常識にも程があんだろ。ああ、責めてるわけじゃねえ。冒険者の世界じゃ、早いもん勝ちなのは当たり前だ。チンタラしてた俺らが悪い」
「それを承知の上で、俺の妨害を?」
警戒せねばなるまい。相手は独りだが、他の3人がどこかに隠れているかもしれない。いつ襲ってくるかも分からない。彼らのレベルはゲームよりも遥かに高いかもしれない。勝てないかもしれない。負けるかも、殺されて死ぬかもしれない。それは嫌だ。ならば、戦うよりない。戦って、勝って、生き残るしかない。
「そんな恐い顔しなくて大丈夫だ。そういうのはうちのリーダーの流儀に反するからな。変なところで潔癖なんだよ、あの嬢ちゃんは。冒険者ギルドの前で起きたイザコザでアンタを見捨てたこと、未だに後悔してるんだぜ?」
「彼女は、そうかもしれない。でも、アナタたちもそうだとは限らない。ですよね?」
「ああ、そうだ。俺は汚い大人だからな。夢を叶えるためなら、他人を蹴落としたってなんとも思わない。卑怯で、狡賢い、悪い大人だ」
「そんなに自分を卑下しなくてもいいと思いますよ。誰だって、誰かを蹴落として生きている。自分の居場所を守るためにね」
「ハッ! 俺の半分も生きてなさそうなガキが抜かしやがる!」
「そのガキに追い抜かされそうになって焦ってるロートルさんが、何を仰いますやら。説得力って言葉、ご存じ?」
「あ?」
ビキっと彼の額に青筋が走る。リザードマンなんだからそんな筈ないって分かっちゃいるのに、そんな幻覚が見えてしまうぐらい、今のは彼を怒らせたらしい。黒ずくめの装備に身を包み、闇の力で仲間の死を糧として戦う邪黒騎士(デストレーサーII)。聖銀の鎧に身を包み、光の力で仲間を庇い、癒しながら戦う聖騎士。全く真逆の性質を持つ正反対の騎士が、風光明媚な山道で対峙する。片や自分のために。片や仲間の……いや、彼もまた、自分自身のためか。
「戦う前に、ダメ元で訊いときたい」
「なんでしょう?」
「俺をアンタの仲間にしてくれ、と言ったらどうする?」




