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22/? レベル13にさえなれれば?

「俺を黒騎士(デストレーサー)にしてくれ!」


「はいはい、アンタもね。後悔しない?」


「するもんか! 構わないからやってくれ!」


「ったく、ドイツもコイツも!」


 デザトリオンの街では今、空前のデストレブームが巻き起こっていた。というのも、おのぼりさん丸出しだった素人同然のC級冒険者がデストレーサーに転職した直後に謎の破竹の大躍進を遂げ、たった独りで塔を登っていった挙げ句、今では5階にいる、という話はあまりに劇薬すぎたのだ。


 アイツにできたのなら、自分たちだってデストレーサーになりさえすれば簡単に強くなれるに違いない、と勘違いした冒険者たちが意気揚々とデストレになって塔に突撃し、そのまま己の実力を過信して無残に死ぬ、という事件が続出し始めた。事態を重く見た冒険者ギルドは一時『黒騎士(デストレーサー)への転職を制限すべきでは?』『いい機会だから、この際禁止してはどうか?』と論争になり、デストレになりたい冒険者たちと言い争いになっている。世はまさに、空前の大デストレ時代!


「俺のために死ねよ!」


「うるさい! お前の方こそ俺のために死ね!」


「病人、子供、買い取ります! 口減らしがしたい方は是非!」


 醜い罵り合いや足の引っ張り合い、犯罪行為が塔の内外問わず続出し、次から次へと自業自得で死ぬ犠牲者が増えていく。国王軍からも冒険者ギルドに『デストレーサーへの転職をやめさせろ!』と苦情が届き、街の雰囲気は殺伐としていた。


「ほんと、いい迷惑。あんだけデストレ野郎、デストレ野郎ってアイツのこと忌み嫌って批判してたくせに、自分たちもデストレにさえなれば人生が変わると思い込んで、デストレに転職してるんだから。恥知らずってああいうのを言うのね」


「キヒヒ! 人間なんて所詮そんなもんさ! 他人は有罪、自分は無罪。昔っから変わらないねえ!」


 冒険者ギルドの転職お姉さん、イリノイは顔馴染みであり飲み仲間の可愛いキャンディちゃんと街の酒場で飲んでいた。彼のせいにするわけではないが、冒険者ショウトが来てからこの街の空気は加速度的に、著しく悪化する一方だ。ショウト自身にはなんの落ち度もないのに、或いはだからこそ。彼の活躍に脳を焼かれた者たちが我を忘れ、強大な力に惹き付けられ、その身を焼き焦がして死んでいく。


 何故ならここは、デザーの塔を攻略せんと集まってきた冒険者たちが数十年がかりで築き上げた夢の街。この街に住み、或いは滞在する誰もがあの塔に人生を狂わされてきた。夢破れ、志し半ばで死んだ者の仲間、家族、恋人、友人。死者の遺志は夢のバトンであり呪いの枷だ。この街で生きる以上、誰も無関係ではいられない。


「最近じゃ業務時間外にまでアタシのところに押しかけてきて、詰め寄ってくる奴までいるのよ。『デストレの強さの秘訣を教えろ』って。そんなの知らないわよ。それなのに『隠すな。アイツだけ依怙贔屓するなんて卑怯だ』だの『金か。幾ら払えばいい』だの『言え。言わないなら殺す』なんて難癖付けられちゃってさあ。いっそアタシの方が転職したいぐらいだわ。ギルドの仕事、辞めようかしら」


「ソイツは困った。アンタは可愛いキャンディちゃんの数少ない友人なんだ。アンタによその街に移られたら、飲み友達がいなくなっちゃって困る。しょうがないね。この可愛いキャンティちゃんが、自衛のためのお守りをあげようじゃないのよさ」


「あら可愛いお守り。ありがとう。幾ら?」


「さすがの可愛いキャンディちゃんでも、友達の危機に金は取らんわい!」


「アンタのそういうところ、アタシ好きよ。そうだ。飲み仲間が欲しいなら、いっそアイツを誘ったらどう?」


「それは無理。あの子は塔の天辺しか見てないからねえ。酒なんか飲んでる暇があるなら、1秒でも早くあの塔を登りたいって顔しちゃってさ。普通、こんなに可愛いキャンティちゃんに飲みに誘われたら、断れる男なんていないだろうに!」


「相変わらずの自信過剰ね、アンタも」


 街全体が、ピリピリギスギス不穏なムード。自分たちが何年、十何年、何十年かけて一歩一歩苦労しながら登ってきたあの塔を、後から来たくせに一足跳びに軽々と踏み越えていく奴がいる。そりゃあ、赦せないだろう。悔しいだろう。理不尽だと、どうしてだと、憤慨して当然だろう。だが、この街はそういう街だ。それが嫌なら出ていくしかないのだ。それができないから、みんな苦しんでいるのだ。だからといってそれを理由に、ショウトを集団リンチしていい理由にはならないのだ。


「人生が不平等だなんて、今に始まった話でもないのにね」


「キヒヒ! それでも文句を言わねばやってられんのが人間なのさ! 勝者の足元にはいつだって、敗者の屍と呪詛がうず高く積み上がってるものって相場が決まってるんだからさ!」


「もし塔の中でアイツに会ったら言ってやったよ。チンタラしてないで、さっさと最上階まで登りきっちゃいなさいよって。そうすりゃ全部おしまいなんだから」


「おや? アンタはあの子が10階まで行けると信じてるクチかい?」


「なんだっていいわよ。さっさと街の雰囲気がまともに戻ってくれれば」


「ああ、ソイツは無理な相談さ。きっとあの子が途中で死んで、挫折しない限りね」

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