21/? 第一次経験値稼ぎ回
「あっつ!」
大学に行く途中、死んだ俺がこのフリーゲームの世界によく似た異世界に転生してから今日で3週間目に突入した。15日だよ15日。半月だ。時間に直すと約360時間だぜ? 360時間もかかるRTAなんて聞いたことないぞ。ギネス記録では?
だが焦らない。訓練されたRTA走者は焦らない。世の中には『乱数調整のためここでゲームを放置したまま2年待ちます。ですので次の投稿は2年後になります』みたいなのもあるらしいから、たったの15日なら誤差かもしれない。
「リンゴ! 寒がリンゴはどこだ!」
買っててよかった体温低下アイテム。4階の雪山エリアは防寒着を着ていれば体温上昇アイテムである暑がリンゴを食べずともある程度寒さを防ぐことができるが、5階の溶岩エリアでは裸になってもちっとも涼しくならないからね。
「はあ! 涼しい! 生き返るう!」
原作ゲーム通りに話が進行していれば、今頃デザーの塔の攻略状況は7階でチャオ・チェンのパーティーが足止めを食っているのが人類最先端の筈だ。数十年間誰もクリアできずにいるこのローグライク大迷宮だが、先人たちの積み重ねてきた攻略情報という名の遺産のお陰で、6階までの情報なら大金を積めば手に入る。だが、情報だけあってもダメなのがデザーの塔の甘くないところだ。
「この調子じゃ、彼女らも焦ってるかもね?」
嫌われ者のデストレ野郎、それもC級冒険者がソロで5階到達。このままでは7階に来るのも時間の問題だと、彼女らが焦っても何らおかしくはない。他人事であるうちは冷静でいられるかもしれんが、いざ自分たちが当事者になり、自分たちのこれまでの努力を嘲い、踏み躙るかのように悠々と追い抜かれたら、A級パーティー『黄金の夜明けに吹く風』が街の住民たちみたいに、一斉に俺の敵に回ってもなんの不思議もないと思う。むしろオリビエとチャオ・チェンの仲ならそれが自然では?
俺の経験値計算が正しければ、俺のレベルは4階をクリアした今現在34の筈だ。デストレバグによって全ステータス2.5倍、レベル85相当だと仮定して、原作ゲームで彼女らが仲間に加わる際の平均レベルは60ちょいだった。レベル85相当の冒険者1人vsレベル60程度の冒険者4人だったら、真っ向からガチでやり合うのはちょっと不利だと思う。街で無双できたのは奴らが遥かに格下だったためだ。おまけにあちらには回復魔法が使える聖騎士エメラリエと拳聖ラオラオがいる。数の暴力とヒーラー2枚の盤石体制では、やがてこちらがジリ貧になるのは自明の理だ。なんせ1対4だもの。
「備えあれば憂いなし! だけど、どれだけ備えても憂いしかないのが辛いとこだね!」
そんなわけで、RTA名物稼ぎ回のお時間です。今宵私が頂くのは『滅多に出ない』上『出ても倒すのに苦労する』代わりに『上手く倒せたら経験値・お金がガッポガッポでウハウハ』なレアモンスター、その名も『金のイチゴヘビ』『銀のイチゴヘビ』だ。コイツらは5階の一部でのみ出現するレアモンで、金のイチゴヘビはコインを、銀のイチゴヘビは経験値を、それぞれ大量に落としてくれる。倒せればの話だが。
倒しづらい理由は簡単。純粋に防御力・魔法防御力が高すぎて硬いのだ。おまけに逃走率と素早さも非常に高く、こちらが行動する前に逃げ出してしまい何もできないまま戦闘が終わるなんてのもザラ。ま、そんな強敵をどうやって効率的かつ上手に狩るのかってのが、RTA走者の腕の見せどころなんですけどね。
「うおおおお! イチゴヘビはどこじゃああああ!」
一体どうやって金と銀の、いや、経験値目的で銀のイチゴヘビを乱獲するか。今の俺は泣く子も黙る嫌われ者のデストレーサー――の上級職であるデストレーサーII。闇の力を操る邪黒騎士は『即死無効』『死んだ仲間の数だけパワーアップ』の他に、『通常攻撃が30%の確率で即死攻撃になる』というパッシブスキルも持つため、3回に1回はペチペチ殴りでどんな敵でも即死させることができる。勿論、即死耐性がない相手に限るが。上級職に昇格したばかりの俺が街でモブ冒険者どもに絡まれた時、一切反撃しなかった理由もこれだ。下手に反撃して即死されたら非常に困る。殺すつもりはないのに勝手に死なないでください!
ま、レベルが85相当もあるため純粋な暴力だけで金銀のイチゴヘビを倒すこともできるんだけどね。8階、即ち終盤の敵と戦えるだけの強さがあるなら5階の敵なんて大した障害にもならない。敵が逃げ出す前に剣で叩き潰してやれば普通にダメージが通って死ぬ。そんなわけで、俺がやるべきことはレベル上げだ。具体的には寒がリンゴの効果が切れないようリンゴを定期的にかじりながら、銀のイチゴヘビを17匹狩る。計算上13匹倒せば俺のレベルが40になって、デストレバグで2.5倍されて100相当。そのまま狩り続けてレベル44になれば、見事全てのステータスがカンストするって寸法よ。同時に邪黒騎士(デストレーサーII)のジョブレベルもカンストまで達し、デストレIIの最後のパッシブスキルと奥義を取得することができる。
本当は。本当は表エンドをクリアするだけならそこまでレベルを上げる必要はないのだ。何故ならRTAにおいては、レベルは必要最低限だけあればいい。レベルアップにかかる時間さえも、タイム的にはロスなのだから。だけどこの世界には、予想外すぎる障害が多すぎた。だから、念には念を入れて。俺は、できる限りの対策をしておきたいのだ。全てはこのリアルRTAを完走するために。




