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20/? A級冒険者の葛藤

「あの変態が4階ボスを突破したらしいですよ。信じられませんね」


「マジかよ。あのパッション爆発練乳の母乳シロクマザーまで倒したってのか」


「どうすル? このままじゃ7階まで上がってくるのも時間の問題ネ」


「いや、幾ら5階まで来られたとしても、さすがに7階までは……彼なら来るかもしれんな。なんだか嫌な予感がする。虫の報せというかなんというか」


 チャオ・チェン率いるA級冒険者パーティー『黄金の夜明けに吹く風』の4人は頭を悩ませていた。というのも、いきなり現れたったの2週間でこの街を大混乱に叩き落とした謎のC級冒険者ショウトの快進撃が、あまりに異常すぎるからだ。


「彼が塔の攻略に際しなんの不正行為を働いていないことは承知の上です。何せ彼の動向を遠巻きに監視し続けた、他ならぬ僕ら自身がその生き証人なのですから」


「ああ。あの謎めいた強さの秘密は未だに分からんが、乱闘騒ぎの時だってアイツが無抵抗で一方的に暴行を振るわれただけってのは事実だ。いや、おかしいだろ。なんで防御力アップの魔法もかけてない生身の人間が、鋼鉄より硬いんだよ?」


「それを解っててアイツを見捨てたのも事実だけどネ!」


「ああ、ラオラオの言う通りだ。あの時私たちは、確かに彼の濡れ衣を晴らせる立場にあった。だがそうはしなかった。余計な諍いに巻き込まれたくはなかったからな」


 既に国王軍からは毎日のようにせっつかれている。一刻も早く彼が不正を働いた揺るがぬ証拠を。彼が人殺しを隠蔽している証拠を。だがそんなものはない。調べれば調べるほど、つけ回せばつけ回すほど、彼が潔癖であるという確かな証言だけが積み重なっていく。さすがに『嘘でもいいからそう証言してください!』とまでは言わないあたり、オリビエも最後の一線までは越えずにギリギリのところで踏みとどまっているようだが、それも時間の問題な気がする。


「正直、時間の無駄です。これ以上彼の動向に気を配っている暇があるなら、僕たちは7階のボスを倒す方法を探すことに全力を注ぐべきだ。ありもしない冤罪の証拠探しなんてバカバカしくてやってられませんし、捏造なんてもってのほかです」


「そうだな。俺もそう思うぜ。アイツが追い付いてくる前に、俺らも先に進まねばならんだろう。さもなくば、アッサリ追い抜かれるぞ」


「正直、ラオラオたちにはそこまで国王軍に協力してやる義理もないネ!」


「そうだな、私もこれ以上は時間の無駄だと思う。オリビエには悪いが」


 ここ半年ほど、黄金の夜明けに吹く風は7階ボスを突破できずにボス部屋で足止めを余儀なくされている。通常フロアボスとの戦闘が始まると、別のパーティーが乱入できないようにするためかボス部屋の扉が固く閉ざされ結果として逃げられなくなるのだが、ボスとの戦闘を中断して部屋の外に逃げられる非売品のレアアイテム、『ちょい抹茶』を幾つか塔の中で拾いストックしてあるため、何度も何度も試行錯誤しながら挑戦することができた。だが、その在庫も減ってきている。まだ8階と9階と10階のボスも控えているのに、7階ボスで『ちょい抹茶』の在庫が切れたら終わりだ。


「彼が虎王の傘下に入った時点で、もはや何を言っても無駄だろう」


「そうだな。どれだけ僕らが言葉を尽くそうとも、虎王の影が皆の目を曇らせる」


「いっそアイツを仲間にするってのはどうだ? 俺らが手こずってる7階ボスにだって、アッサリ勝っちまうかもだぜ?」


「エメラリエのおバカ。それをやるメリットとデメリットが吊り合ってなさすぎネ。街の奴らに蔓延したアイツに対するヘイトが全部、いっぺんにラオラオたちに向くヨ」


「ラオラオの言う通り。僕も反対だ。僕らが死なないことで彼の無実を証明する、という段階はとうに過ぎている。関わり合いにならないのが一番だろう」


「俺はそれでもいいと思うがね。プライドに固執して栄光を逃すぐらいなら、狂人に魂売ってでも夢を掴みたいもんだ。デザーの塔の攻略は、俺のガキの頃からの夢だった。その夢を、みすみす後から来たのにかっさらわれちゃ死んでも死にきれん」


「それ、本気で言ってるのカ?」


「みんな落ち着け。そもそも彼がこちらの勧誘に応じる保証もない。仲間割れをしている暇があったら、攻略に戻ろう。それ以外に道はあるまい」


「そうだな。リーダーの言う通りだ」


「……」


 すまない、とチャオ・チェンはこの街に来てから友人となったオリビエに心の中で詫びを入れた。詫びを入れる相手が違うだろう、と思いながら。

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