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19/? 幼女が強いゲームは多い

「キヒヒ! 金さえもらえりゃ可愛いキャンディちゃんは誰にだって平等にものを売るよ! ほーら、あったかいお茶はいかが? あったまるよお、美味しいよお!」


「頂きます。お代は幾らで?」


「そうだねえ。1杯300コインってとこか」


「買った!」


 懐具合にはかなり余裕があった。虎王からの資金援助と自前の貯蓄。俺はコインを支払い彼女が差しだしてきた湯呑を受け取る。ホカホカと湯気を立てる紅茶をフーフー冷ましながら飲んだ。うん、美味い。冷えた体にしみ渡るね。体力を回復させつつ凍結の状態異常を治療してくれるこの可愛いキャンディちゃん印のブレンド茶、ゲームだと最初はタダでくれるような口ぶりなんだけど後から代金を強制徴収されるのだ。なお所持金が300コインに満たないと強制戦闘に突入する……なんて意地悪なことにはならず、貧乏人呼ばわりされて罵られるだけで済む。


「キヒヒ! そんなに無警戒に飲んでいいのかい? アンタ、嫌われてるんだろ? 綺麗な薔薇にはトゲがあるって言うじゃないか。可愛いキャンディちゃんがお茶に一服盛ってたら、今頃あの世逝きだったかもしれないよ!」


「それはそうなんですけど。でも可愛いキャンディちゃんは、そんな回りくどいことするより直接ぶん殴った方がよっぽど手っ取り早いでしょ?」


「……虎王の坊やも随分とお喋りなこった。あの悪たれ坊やが赤の他人にそこまで入れ込むだなんて、珍しいこともあるもんだねえ」


 ほんとは原作知識で可愛いキャンディちゃんが10階にいる表ボスどころか地下10階にいる裏ボスをも凌駕する作中最強の強さを持つ隠しボス的な存在であることを知っていただけなのだが、なんか勝手に勘違いしてくれたので曖昧に笑っておく。


 神出鬼没の謎の行商人と言えばローグライクゲームには付き物で、店の商品を盗んだり奪ったりしようとするととんでもない強さで襲いかかってくるのがお約束。その例に漏れず、可愛いキャンディちゃん改め放浪の妖精王キャヴェンディッシュはこの世界における人間の上位存在である。気まぐれで気分屋、飽き性で怒りっぽく、1階から10階まで、クリア後は地下1階から地下10階までいつでもどこでもランダムに登場する。売っている品物も完全ランダムで、彼女のお店でしか手に入らないレア装備も複数あるためこれクター泣かせの要素となっている。


 意外にも仲間にすることができ、仲間にするためには裏ボスを倒して裏エンドを見た後に彼女を撃破すると仲間にするかしないかを選べるのだ。仲間にした場合は当然その後ダンジョン内に彼女の店が出現しなくなるが、仲間にできたらもうアイテムなんかなんにも要らないレベルのぶっ壊れ性能のため、ほとんど全クリ後のオマケ要素みたいな存在だ。


「他の商品も見せてもらっていいですか?」


「ああ、構わないよ。ただし」


「虎王さんのお知り合いに変なことしませんよ。それに、こんなクソ寒い中であったかいお茶を売ってもらった恩もありますから。1杯300コインって正直破格ですよね。1杯1000コインとか、2000コインとか足元見られるかと思ってました、正直」


「キヒヒ! 物事の道理をよーく弁えてるじゃないか!」


 さーて品揃えはいかがなもんかな。デザー塔RTAだと1階で粘り、彼女の店から強力な武器を盗んで無双するまでひたすらリセマラを繰り返す虚無チャートもあるのだが、俺は2週間近くずっとリセマラを繰り返しても1回もお目当ての武器が店に並ばなかった時点でそのチャートは投げた過去がある。大学生の2週間は貴重なんだよ! たとえそれが友達のいない、可哀想なぼっち大学生のものだったとしてもね!


「うーん」


「品揃えがお気に召さないかね」


「悪くはないんだけど、微妙! みたいな?」


「言ってくれるじゃないのさ」


「次に会う時はもっといい装備を期待してます。とりあえず今回はご挨拶ってことで、この寒がリンゴ2個をくださいな」


「おやおや、こんな極寒の雪山の中で、更に体温を下げるアイテムをかい? 一口食べたら凍死しちゃうよ。かじる前に口の中が凍り付かなければだけどね」


「いつか、きっと何かの役に立つから。たぶん」


 言うて5階は溶岩エリアなんですけどね。海の次は雪山、雪山の次は溶岩地帯。可愛いキャンディちゃんもすっとぼけながら冷たいリンゴを包んでくれた。おかしいな、異世界転生者ならこんな時、最強のチート武器が掘り出し物として売ってるとか、可愛いキャンディちゃんが俺に一目惚れして仲間になってくれた上で全部の最強装備を貢いでくれたりするもんじゃないのかね。


 ないものねだりをしても始まらないが、そういや俺には転生チート能力みたいなものは備わっていないのだろうか。いや、あっても使わないよ? RTAにチートは邪道だもの。TASさんだってチートは使わない。俺たちRTA走者は裏技やバグ技を含めた実機で実現可能なゲームの土壌で真っ当に勝負するのが楽しいのであって、なんでもアリにしたらそれこそなんの意味もなくなってしまう。任意コード実行によるエンディング呼び出し? アレはまあ、うん。楽しみ方は人それぞれだから。


 ああ、でも。ゲーム外の要素。たとえば俺の邪魔ばかりする街の住民たちを蹴散らせるだけの最強パワーがあったら、あんな嫌な目に遭わずに済んだのかあとは思う。でも最初からそんな強すぎる力があったら、チャートを組むまでもなくサクサクボスを処理しておしまいになっちゃうんだよね。ジレンマだなあ。


「アンタ、誰に何を言われようと本気で10階を目指してるようだけど」


「当たり前じゃないですか」


「一体なんのためにそこまでするんだい? 可愛いキャンディちゃんにだけ、特別にコッソリ教えておくれよ」


「そこに塔があるから」


 それ以上の理由なんて、要らなくない?

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