1/? 気を取り直していざ再開
「あの、失礼ですがお独りで挑まれるのですか? しかもそんな装備で? それは勇敢を通り越して、些か無謀すぎるのでは?」
「すみません、俺友達が独りもいないんです。家族も仲間も。友達がいない人間にはデザーの塔に挑む権利もないと仰るのですか? ぼっち差別ですか? それならあなたが俺の初めての友達になってくれますか? くれませんよね? それなのに俺を孤独な仲間ハズレと笑い者にして爪弾きにするのですか? それがあなたのやり方ですか?」
「そうは言いませんが。街の酒場に行けばあなたと同じように仲間を探している冒険者がいるかもしれませんから、そこで仲間を探すというのもひとつの手かと」
「すみません、俺病的に人見知りなんで知らない人と喋ると緊張で過呼吸になっちゃうんです。それに、命懸けの冒険をするのによく知らない初対面の人間を信用するなんて無理ですよ」
「でも私とは問題なく喋れてますよね?」
「すみません、実は俺あなたのことは前々から知ってました。好物はヘビイチゴソーダですよね? 氷は抜きで」
「え!? なんですかいきなり! 気持ち悪……」
「すみません、変な意味じゃないんです。塔に登る前に酒場で情報収集と下調べぐらいはするよねってだけの意味で。ほら、特に塔の入り口で見張りをしている国王軍の皆さんに失礼があっちゃいけないじゃないですか。だから、ね?」
「あ、そ、そうですか。いきなり変なこと言われたので驚きました。てっきり危ない人かと思って逮捕しちゃうところでしたよ。既に十分な失礼を働かれた気もしますが」
「すみません、で、入っていいですよね? デザーの塔。もしダメだと仰るのであればこの場で大の字になって見苦しく泣き喚きながらぼっち差別反対の抗議活動を執り行いますが」
「えっと、どうぞ」
ふう。ダンジョンに入るのも一苦労だ。デザーの塔はデザトリア王国によって厳重に管理されている。何十年も昔、この塔が発見された時、当時の王様は調査のために国王軍を送り込んだ。だが、その全てが失敗に終わった。何度も何度も遠征を重ね、その度に失敗し、金も人も湯水のように消えた。そこで当時の王様は、大々的にお触れを出したのだ。デザーの塔を最初に踏破した者に、莫大な賞金を与えると。
その後世界中から冒険者が大勢やってきて、攻略のための拠点を作った。そこから発展したのがこのデザトリオンの街だ。人が集まるところには金も物資も集まるが、そうなればよからぬトラブルも引き寄せられるのが世の常。
賞金や名声目当てに無謀な突撃をかまして犬死にする者、徒党を組んでよその冒険者パーティーの邪魔をする者、自分が攻略に失敗した腹いせに、新しく来る冒険者の足を引っ張るなどの嫌がらせに走る者。色んな問題が噴出したため、国王軍が駐在・監視を行うようになった。塔の入り口で見張りをしている軍人たちをまとめる彼女、オリビエ大佐もそのうちのひとりだ。
「ありがとうございますオリビエさん。俺、頑張ります」
「何故私の名を……いえ、早く通りなさい」
気持ち悪い奴だな、と思われたせいか、彼女が塔に挑む冒険者にかけるお決まりの台詞である『グッドラック』を言ってもらえなかったのは残念だが、塔に入れるのなら安い犠牲だ。幸い勇者ショウトの所持品の中に冒険者ライセンスがあったため、それさえ見せれば問題なく入ることはできただろうが、まさか独りであることを理由に入り口で引き留められるとは思わなんだ。ゲームだと仲間ゼロでもあんなこと言われないのに。
「それにしても、若干のコスプレ感は否めないとはいえ本物はやっぱ美人だったな。ドット絵の味わいには劣るが」
オリビエ大佐は条件を満たせば仲間に加えることができる。デザー塔には30人を超える豊富な仲間キャラがおり、自分の好みの仲間を選んでダンジョンに挑めるのもこのゲームの魅力だ。
もっとも、今の俺には仲間なんて不要だけど。昨夜宿屋で徹夜して、綿密に超安定重視のソロチャートを組み上げたからだ。絶対死なないように、まずはそこを最優先。
デザー塔の経験値分配は仲間の人数で割るシステムとなっているため、下手に仲間が増えると経験値計算がズレてチャートが破綻するおそれがある。え? もしそれさえなかったらどうするのかって? その時は終わりだよ。経験値もなければレベルアップもしない状態で、どうやってRPGのRTAを走れって言うんだい。余計なことは考えず、自分の予想が正しく機能してくれることを信じて、目を瞑って突っ走るしかないのだ、今は。




