14/? 虎王、大爆笑(ほ)える
「クハハハハ! クハハハハハハハハ!」
「プライバシーの侵害だ! いわれなき誹謗中傷だ! 悪質な職業差別だ! とんでもない風評被害だあああああ!」
3階ボスのトロ甘水飴スライムを撃破して闇市に戻ってきた俺は、四方八方から向けられる変態を見るような視線に戸惑い面食らい、そして『今すぐ来い。来ないならこちらから行く』と問答無用で呼び出されてしまったホワイトタイガースカジノのVIPルームで虎王に会い、そうして絶叫する羽目になってしまった。
「酷くないですか!? なんだって俺だけ監視されて逐一やる事なす事全部を暴露されなくちゃいけないんですか!?」
「お前に女装趣味があったとは。娼館ではなく男娼館を紹介してやろうか?」
「要・り・ま・せん! 確かに俺はあの水着を着ましたけど! でもそれにはちゃんと理由があるんですよ! どういう理由かは言えませんけど! というか、俺が何を言っても誰も何も信じてくれないでしょうけど! いいですよ! どうせ俺なんか!
「ほう? どういう理由だったのか、言ってみろ」
「嫌ですよ! どうせあなただって信じてくれないに決まってるんだ! 親切なおじさんのフリをして、俺のいないところでみんなで俺のことを笑ってるんだ! 俺の味方なんてどこにもいなかったんだ! 泣いてやる! 孤独にむせび泣いてやるうううう!」
「言え」
「はい。えーと、なんていうかその、ほら。水着の美女に化ければサメが寄ってくるんじゃないかなあと思って。そういうの、お約束でしょ? え? そんなお約束は知らない? まあそうですよね。でもなんというか、俺の頭の中でサメの妖精さんが囁くんです!」
「確かにこの結果を見れば、お前さんの実験が一概に無駄だったとも言えんな」
彼いわく、サメちゃん帽子は滅多に市場に出回らない貴重な兜らしい。それを5個も持ち帰ってきた俺に、虎王は買取を持ち掛けてくる。
「そうだな。1個10000コインでどうだ?」
「え? サメちゃん帽子の買取価格って1個7000コインですよね? いいんですか?」
「ほう? よく勉強してるじゃねえか。確かに普通の店ならそんぐらいだが、不満か?」
「いえ滅相もない。それじゃ1個は手元に残しておきたいんで、4個買取でお願いします。いやあ、助かりますよ。コインなんてあって損はないですからね!」
虎王、顔も体も傷痕だらけのおっかないガチムチ白虎獣人だけど、見た目の恐さに反して案外いい人なんだな。ゲームだとただの敵キャラだから知らなかった。違法薬物とか人身売買に手を染めてるから深入りは禁物だけど。
「しかし、うちの手練れどもでも苦戦するあの水飴野郎相手に黒騎士単騎で勝つとはな。一体どんな手品を使ったんだ?」
「すみません。さすがにそれは企業秘密なんで」
「ま、そりゃそうだ。むしろそう簡単に攻略情報を広められちゃ困る。この街に集まる冒険者どもに高く売り付ける上では特にな。お前も睨まれたくなけりゃ、攻略情報を極力他人に漏らすなよ」
「気を付けます」
「裏を返せば、金さえ積めば先人たちの遺した攻略情報はある程度までなら手に入るってことだ。要るか? 4階のフロア情報とボス情報。今なら40000コインでいいぜ」
「マネーロンダリング!? いえ、そこは楽しみがなくなっちゃいますから遠慮しときますよ」
「楽しみ。楽しみねえ?」
「ええ、楽しみです。楽しくなけりゃわざわざ命を懸けて登りませんよ、あんな塔」
もう知ってるから要らなーい、なんてウッカリ言えないもんな。要注意要注意。